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ウェイレイ 様

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ウェイレイ 様インタビュー

ホログラフィックARナビゲーションシステムの放熱設計に 
ソフトウェアクレイドルの熱流体解析を活用


スイスの新興企業ウェイレイは、世界で初めて自動車用のホログラフィックARナビゲーションシステムを開発した企業として知られている。ウェイレイのCAEエンジニア マキシム・アレクサンドロフ博士に、STREAMを利用したホログラフィックナビゲーションシステムの放熱設計について聞いた。

写真1 マキシム・アレクサンドロフ博士 ウェイレイCAEエンジニア
 

 

スイスに本社を置くウェイレイは、2012年の創業以来、自社に研究開発センター、試作工場、国際的な専門チームを持ち、製品の企画、設計、試作試験まで、すべてのプロセスを自社でコントロールする。現在のウェイレイは、ホログラフィック光学システムのハードウェアからソフトウェアまでのすべてを製造する専門メーカーへと成長した。またOEMによる主要自動車メーカーへのホログラフィックAR技術の開発および提供により、自動車業界における地位を確立している。

 

パワフルでコンパクトな電子機器の稼働性能

ウェイレイによって開発されたホログラフィックARナビゲーションシステムの重要な部品のひとつは、冷却システムを持つレーザーユニットだ。

レーザーの冷却システムの設計では、レーザーガスの制御や熱量のコントロールのために、熱電素子、ヒートパイプ、ファンを選ぶ必要がある。

道路上に高品質のバーチャル画像を投影するには(図1)、レーザーユニットのダイオードの温度を一定に保つ必要がある。

 


図1 フロントガラスに投影される道路上のバーチャルイメージ

ウェイレイでは、この温度を一定に保つためにペルチェ素子を利用し、温度制御が必要なダイオードはペルチェ素子の低温側に取り付けられ、素子の電流を制御することで温度を一定に保っている。一方、高温側の温度はダイオードの発熱量や周囲の空気温度、風速などに依存する。

ペルチェ素子は原理的に「ヒートポンプ」として機能する。つまりペルチェ素子に一定の電流が流れているとき発生する抵抗の力によって、高温側の熱は、低温側の熱量を超えることになる。このペルチェ素子は融点が138℃の低融点はんだを用いて組立られているため、この温度以上になると、ペルチェ素子のみならず、素子により冷却されている高価なレーザー部品も完全に使えなくなる。

 

熱解析の結果から実際の現象を把握

そのため、レーザーユニット(図2)は、ペルチェ素子から熱を逃がし、外に放熱するためのラジエータやファン、ヒートパイプなど、複雑な冷却システムを備えている。

このような冷却システムの計算は、従来からの分析方法では不可能で、ウェイレイの研究開発センターでは、有限体積法に基づく数値流体力学(CFD)ソフトウェアであるSTREAMを利用して、この問題の解決を目指した。

図2 レーザーユニットの解析モデル


このような解析では、レーザーユニット部品の表面温度(図3)、内部の空気温度(図4)および冷却空気の流速分布(図5)などを予測することができる。また、ペルチェ素子の各面の温度、電流、電圧、放熱量など(図6)、ペルチェ素子が安定して機能する最大の環境温度なども決めることができ、CFDソフトウェアの解析結果から現象を理解するための有益な情報を得ることができる。

試作品では得られない情報

STREAMを導入することで、試作の回数が減り、エンジニアが視覚的な結果を頼りに製品の性能向上をする手助けになるという。

「CFDを利用することによりウェイレイは設計と試作のプロセスを短縮でき、従来の方法では検討できなかった設計のバリエーションも視覚化し予測することができました」(マキシム・アレクサンドロフ氏)。

STREAMの機能は、概念設計および技術的な分析システムを有し、ウェイレイの専門家が短時間に多くの設計バリエーションをパラメトリックに検討することができる。発振素子の放熱、材料特性、ファンの速度、ラジエータのサイズなど、試行錯誤することなく、様々な設計オプションを比較することができ、結果的に試作に費やす時間やコストを大幅に削減することに成功した。

加えて、これらのシミュレーションは、どの部品配置や材料特性が結果や設計の目的にもっとも大きな影響を与えるかという、設計感度の分析をすることも可能になるという。

図3から6は日本の自動車メーカーのためにウェイレイが開発したホログラフィックナビゲーションシステムのレーザー部の熱ガス流れの計算結果だ。

 


図3 レーザーユニット部品の表面温度分布


図4 空気の温度分布(水平断面)


図5 空間の風速分布(断面)


図6 ペルチェ素子の熱電パラメータ


この解析は2400万要素で、特に高温となる部分(レーザーダイオード発振素子)を細かく分割している。このような高解像度のメッシュは、構造格子でより正確な形状近似を実現するために必要だという。

このように膨大な要素数であったにもかかわらす、定常計算の計算時間はわずか2時間だった(比較のために計算した非構造格子のソフトウェアでは18時間かかった)。そしてまた、実験結果との誤差も3%未満だった。

「これまでのCFDはあまり正確ではなく、不安定なものでした。でも、STREAMはとても高性能で私達は1000万要素を超える詳細なモデルを素早く作成でき、一日に多くの検証と最適化のための繰り返し計算ができるようになりました」(マキシム・アレクサンドロフ氏)。

解析結果に基づいて、熱負荷と冷却システムの効率を評価し、冷却ファン、ペルチェ素子およびラジエータの配置を最適にすることにより、局所的な熱だまりなどの問題を解決した。

そして、レーザーダイオードの温度および冷却システム全体の動作に影響する、ペルチェ素子が安定して動作する限界の環境温度も特定した。

 

CFDとMSC製品を用いた今後の取り組み

今後、ウェイレイのチームは、クレイドルのCFDソフトウェアと、MSCが提供する強度解析、構造解析のソフトウェアを組み合わせることにより、熱変形や膨張、ひずみなどが検討できる完全なシステムを構築する予定だ。また、クレイドルのソフトウェアは放射のレンズにおける反射や屈折を考慮することができるため、光学システムの熱設計にも利用する予定だという。

「放射のレンズによる反射や屈性を考慮した光学系の熱解析に加え、空力騒音の解析も私たちの課題のひとつです」(マキシム・アレクサンドロフ氏)。

ウェイレイは高い操作性と精度、分かりやすいGUIを評価しSTREAMを選択した。エンジニアたちはSTREAMの機能に満足しており、より良い製品を世に送り出すために、CFDを活用しつづけるだろう。


 

ウェイレイ

  • 設立:2012年
  • 事業内容:自動車向けホログラフィックAR技術の開発
  • 代表取締役社長:ヴィタリー・ポノマレフ
  • 本社所在地:ローザンヌ、スイス
  • 研究開発センター:モスクワ、ロシア
  • 従業員数:170
  • URL:https://wayray.com/

 

※STREAMは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2018年5月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。

 

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