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ヤマハ発動機株式会社様

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ヤマハ発動機株式会社様インタビュー

写真1 2018年 MotoGPマシン「YZR-M1」と
ライダー/マーベリック・ビニャーレス(左)、バレンティーノ・ロッシ(右)

百分の一秒でも速くなる設計を探し出す、世界最高峰レースMotoGPを支えるCFD活用


オートバイの代表的メーカーであるヤマハ発動機。同社は長年国内外のレースに参戦してきた実績をもつ。その中でも二輪レース最高峰のMotoGPで、同社はソフトウェアクレイドルの流体解析ツール「SCRYU/Tetra」を活用し続けてきた。ツールのロバスト性や操作のしやすさが車両開発現場のスピード感にマッチするとともに、可視化機能がレギュレーション交渉で大きな効果を発揮しているという。

連綿と続く国際レース出場の歴史

ヤマハ発動機は売り上げの6割をオートバイが占める世界有数のバイクメーカーである。さらに船外機やATV(四輪バギー)、スノーモービル、さらに自動車用エンジンやチップマウンタ―、産業用ロボットや無人ヘリコプターなど、多彩な製品を手掛ける。また売り上げの約9割は海外という国際企業でもある。

ヤマハ発動機のモータースポーツ参戦の源流は、1955年の第3回富士登山レースでの、モーターサイクル第1号機「YA-1」による優勝にさかのぼる。それ以来、活躍の場を世界に広げながら、レースへの参戦を続けてきた。

中でも二輪の最高峰レースであるロードレース世界選手権(MotoGP)は、欧州をはじめとして世界中で根強い人気をもつモータースポーツだ。毎年3月から11月の期間に、日本を含めた4大陸で19戦が行われ、大会の模様は207カ国にライブ中継される。

ヤマハ発動機のファクトリーチーム「Monster Energy Yamaha MotoGP」は、2015年にライダーチャンピオンおよび、チーム、コンストラクターの三冠を達成しており、2019年は、バレンティーノ・ロッシとマーベリック・ビニャーレスの両ライダーを擁し、MotoGPマシン「YZR-M1」(写真1)でレースを戦っている。

このMotoGPのレース車両の開発に携わるのが、ヤマハ発動機 MS統括部 MS開発部 モトGPグループの川勝翔太郎氏(写真2)である。川勝氏は2016年にヤマハ発動機に入社した。モトGPグループに配属されてレース車両の空力解析に取り組んだのち、現在は空力を含む幅広い設計開発に携わる。



ヤマハ発動機 MS統括部 MS開発部 モトGPグループ 川勝翔太郎 氏(写真2、左)
ヤマハ発動機 先進技術本部 技術企画統括部 デジタルエンジニアリング部 基盤強化グループ 主務 嶋田喜芳 氏(写真3、右)

一方、ヤマハ発動機における全社的な解析ツールの活用や教育に携わるのが、ヤマハ発動機 先進技術本部 技術企画統括部 デジタルエンジニアリング部 基盤強化グループ 主務の嶋田喜芳氏(写真3)だ。嶋田氏は、1987年に入社して車体設計に取り組んだ後、MSC Nastranを用いた構造解析に専任者として約10年携わった。2000年からはSCRYU/Tetraを用いた流体解析の取り組みをスタートし、現在は流体解析に関する様々なツールの開発や導入、解析の教育や手順書の整備などを行っている。

現在開催されているMotoGPは2002年にスタートした。この当初からヤマハ発動機ではSCRYU/Tetraを活用して車両開発を行ってきたという。「当社では走行性、快適性、信頼性という総合力の向上にSCRYU/Tetraを活用しています」と川勝氏は語る(図1)。



図1 MotoGPのこれまでの活用状況と成果(2002年~2018年)


MotoGP車両の設計で空力や熱流れを検証


空力を考える上でのポイントの一つは、直進安定性だ。MotoGPでは排気量1000㏄、240馬力以上のバイクで、最高速は時速350キロメートルにも達する。これは新幹線を超えるスピードだ。このような高速でも振られがなく安定して走行できることは、タイムだけではなく生身で走るレーサーの安全面でも重要になる。

もう一つのポイントは、コーナリング時における操縦性の容易さである。コーナーに入る際でさえ車速は時速200キロメートルほどあり、一方で傾きの角度は60度にもなる。ここでは空気による力がライン取りやライダーの体力の消耗に大きく関わってくる。

またそれ以外にも空気の流れが影響する部分は多々あり、例えばノーズインテークの空気取り込みによるエンジン馬力の改善や、ラジエータやオイル、ブレーキ、さらに電装部品の冷却性なども考慮する必要がある。ただ、これらの検証をすべて風洞などで行うのは非常に手間がかかる。また人が乗るものなのでそもそも実験が難しい。そこでSCRYU/Tetraで事前確認を行っているという。

ウィング禁止をどう切り抜けるか


MotoGPのレギュレーションは毎年変更されるとともに、年によって流行もあるため、車体形状は毎年変化を続けてきた。例えば2000年代前半は最高速を最重要視したカウルで、直進時の空気抵抗をとくに低減する作り込みとなっていた。

2015年頃はバイクの空力トレンドとして、フロントカウルウィングが流行したという。このウィングはダウンフォースを発生させるため、前輪が浮き上がる現象であるウィリーを抑えるのに効果を発揮する。また時速350キロメートル付近になるとカルマン渦の影響により振られが大きく出てくるが、これもフロントを押さえつけることで改善できる。ウィリー防止のためにはECU(エンジンコントロールユニット)制御も用いられるが、エンジン出力を落としたりして対処することから加速力が犠牲になってしまうため、ウィングの役割は重要だという。

だがそのウィングが、2016年のレギュレーションでは安全性観点等の議論の結果、禁止になってしまった。当時のレギュレーションは、「車両流線に統合されていない突起物はボルテックスジェネレータを含めて禁止」というかなり厳しい文面だったという。

しかもこの年から、ECUのソフトウェアプログラムが全社共通のものを使用するレギュレーションになった。その結果、「それまで使用していた自社製ソフトウェアによるきめ細かい制御ができなくなり、ウィリー抑制性能も低下してしまいました」と川勝氏は当時の状況を話す。

「ウィングの対ウィリー効果は大きく、レギュレーションで廃止になったからといって簡単には引き下がれない状況でした。そこで何とか滑らかなボディの内部にダウンフォース効果のある空力デバイスを入れることが1年目の私の課題になりました」(川勝氏)。そこで初めてSCRYU/Tetraを使うことになり、嶋田氏に使い方を教わったという。

レギュレーション交渉で可視化機能が説得力を発揮


新たなレギュレーション文言の解釈のおいて、できうる最大限の空力効果を発揮する方法として、カウルの内側にウィング構造を内蔵するアイデアに思い当たり、設計を進めた。「ライダーは2015年のウィングによる空力効果の維持・向上を強く望んでおり、なんとしても実現してその期待に応えたかったのです」と川勝氏は話す(写真4)。



写真4 MotoGP車体の変遷 (左:2017年カウル内蔵タイプ/右:2018年サイドポッドタイプ)



カウリング形状のレギュレーション合致について、主催者による認可を得る必要があるが、認証作業において、形状の妥当性を主張するための説明に、SCRYU/Tetraのわかりやすいポスト機能が活躍したという。



図2 空力デバイス内蔵カウル(2018年)の表面流線



「説明の際には、可視化結果が非常に役に立ちます。合理性を持った説明により、主催者に対して妥当性を証明することができました」(川勝氏・図2)。最終的に2016年中には約200種類ものモデルを解析し、空力性能と操縦性のバランスが期待できそうな5種の仕様について実走テストを行い、最善の仕様を選択しレースへ投入した。 結果として2017年のカウリング仕様は2016年仕様に対し空力性能向上を達成できた。そればかりでなく、この検討プロセスを通じて、自身の空力開発に対する知見を高めることができたという。

新たな解析にも応用しやすい


嶋田氏は社内でSCRYU/Tetraを使った流体解析の教育を行う。基本的にはマンツーマンで実施しており、半日の講習を5、6回程度行えば、やりたいことは一通りできるようになるという。教育を受ける人の前提知識は様々だ。川勝氏のように学生時に流体の研究に取り組み、知識が豊富な人もいれば、そうではない人もいる。それに応じて操作や流体力学、解析結果の判断の仕方などを教えるという。

SCRYU/Tetraは知る中で、最も使いやすい流体解析ソフトウェアだと嶋田氏は話す。プリポストのインタフェースはどのソフトウェアよりも使いやすいと利用者にも好評で、メイドインジャパンの特徴がよく出ているソフトウェアではないかという。

川勝氏も、「SCRYU/Tetraは新たな解析問題への応用がしやすい」と同様に使いやすさを指摘する。まず空力解析から取り組み、続いて電装部品の熱問題に取り組もうとした時に、どこをどう変更すれば新しい解析ができるかということが直感的に分かりやすいのだという。インタフェースが日本語であることも使いやすさの面では大きくプラスになると話す。

レース車両の開発では特にスピード感が求められる。川勝氏は「はじめは操作にあまり慣れていなかったため、メッシュがきれいではありませんでした。ですがSCRYU/Tetraはロバスト性があり、しかも満足のいく精度があります。もし発散してしまうと原因探しが大変です。レース車両開発においては『夕方までにこの性能を出しておいて』と言われるような事もあるので、ロバスト性があり、十分に速く、実験とも一致するといったことはとても助かります」と語る。

「ソフトウェアクレイドルのサポート体制については、困ったことや相談事があるとすぐ来てもらえ、対応していただいています」と嶋田氏は話す。同社はSCRYU/Tetraの後継版であるscFLOWへの移行も進めており、より一層の機能充実を期待しているという。

海外拠点にも展開


ヤマハ発動機はモーターサイクル分野を中心に複数の海外開発拠点を持つ。それらの拠点でもSCRYU/Tetraを活用できないか検討中だという。現在は本社が流体解析を担っている。海外に導入する場合は、本社が解析して現地で結果を確認するか、現地で解析を行うかのどちらかになる。前者は現地にソフトウェアを導入するだけなのでハードルは低い。後者はソフトウェア、ハードウェアとともに、現地の教育者も必要になる。そのため導入効果について慎重に検討していくという。

いずれにしろ将来的にはグローバルに流体解析を展開する必要があると嶋田氏は話す。SCRYU/Tetraは海外での使用でもソフトウェアクレイドルの現地法人とMSC Softwareのサポート網によるフォローが可能であり、ヤマハ発動機による更なる世界展開を全力でサポートしていく予定だ。

 

ヤマハ発動機株式会社

  • 創立:1955年(昭和30年)
  • 事業内容:二輪車事業、マリン事業、特機事業、産業用機械・ロボット事業など
  • 代表者:代表取締役社長 日高 祥博
  • 本社所在地:静岡県磐田市
  • URL:https://global.yamaha-motor.com/jp/

※scFLOW、およびSCRYU/Tetraは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2018年9月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。

 

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