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青森県産業技術センター 様

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青森県産業技術センター様インタビュー

食品の異物混入検査装置は熱設計が有効 
使いやすさが熱設計PAC®採用の決め手に

青森県産業技術センター 八戸地域研究所では、さまざまな電子機器の熱問題の解決に熱設計PAC®を活用している。食品中の毛髪などの異物混入検知装置に加えて、農作物の糖度・水分計、石炭やバイオマス中の水分・熱量検知装置など適用範囲は幅広い。


写真1 青森県産業技術センター
八戸地域研究所 機械システム部
総括研究管理員 機械システム部長事務取扱
博士(工学)  岡山 透 氏 

 地方独立行政法人 青森県産業技術センターは、青森県の産業振興と経済発展を目的とし、平成21年に県から分離独立した組織である。「青森県産業技術センターの特色は、工業、農林、水産そして食品加工の技術分野が集積したところです」と独立行政法人 青森県産業技術センター 八戸地域研究所 機械システム部 総括研究管理員の岡山透氏(写真1)は言う。同センターは幅広い農工連携と地域に根差した機関であることを目指しており、新製品や新品種・新技術の開発研究、資源環境調査、栽培・病害虫防除技術の開発といった研究に取り組むとともに、技術相談や依頼試験、研修・指導を行っている。

 同センターには各地域に根差した13の研究所があり、林業や畜産のほかに野菜研究所やりんご研究所といった青森ならではの研究所もある。そのうち工業分野を取り扱うのは、青森市に位置する工業総合研究所、弘前地域研究所、そして岡山氏の所属する八戸地域研究所だ。青森では環境や新エネルギー関連、弘前ではバイオテクノロジーや工芸、工業デザインなど、八戸では材料や機械加工、製造工程といったように、それぞれ特色を持った活動を行っている。

 岡山氏は地元企業の相談を元にした共同研究や開発、依頼試験などに携わる。テーマは材料から装置の開発まで様々だ。八戸地域研究所では、熱に関する問題にソフトウェアクレイドルの電子機器向け熱流体解析ソフトウェア熱設計PACを使用している。

食品混入毛髪検査装置で熱が問題に

 熱設計PACを活用している研究開発の1つが、食品に混入した毛髪の非破壊探知装置だ。装置は、温度によって性能が大きく左右されるため、熱設計がとくに重要なのだという。装置の原理は、髪に含まれる成分の一つであるシスチンに特有の近赤外線の吸収スペクトルを調べる。近赤外線を対象物に照射し、拡散した微弱な光を集光して分光器で検出する。そして独自の人工知能型アルゴリズムにより毛髪がある場合とない場合のデータから、毛髪の存在を検知する仕組みだ。

 毛髪検査装置は青森県内企業の株式会社カロリアジャパン(代表取締役社長 花松学)と共同で開発している。開発過程で日によって、また午前と午後でデータが安定しない現象が続いた(図1)。原因を調べたところ、分光器の性能に熱が影響を与えていると分かったという。そこで検討のためにシミュレーションを利用する必要が生じたということだ。

図1 分光ユニットの庫内温度制御


 通常、近赤外線の吸収スペクトルでの検査は、研究室レベルや安定環境下で行われている。一方、岡山氏らが開発する装置は、生産ライン中に組み込んで全数検査を行うものだ。使われる環境は温度や湿度、さらに粉じんなど性能を不安定にさせる様々な要因がある。「どのような状況で使われるか分からない場合がある。管理された環境であればいいが、そうでないことも多い」(岡山氏)。

 そこでCAEなどによる検討を行った結果、防塵防滴を確保するため、密閉型の筐体を採用することにし、冷却にはペルチェ素子を採用した(図2)。ペルチェ素子の出力数や周りの想定環境、ファンの風量や位置などの検討を行った結果、最終的に図2のように、ペルチェ素子を挟むように内側と外側にファンを取り付ける形態とした。

 おりしも昆虫などの異物混入が話題になっており、食品関連企業から注目されているという。一般に異物混入検査で導入されているのは金属探知機やX線装置があるが、虫など生体の検知は不可能だそうだ。将来は岡山氏らの手法で、虫やプラスチック、石などもすべて検出できるようになればということだ。
 
 図2 毛髪検査装置の分光ユニット
(左下:温度コンター図、右:内部流速分布)

近赤外分光は様々な応用が可能

 この異物検出の仕組みは、様々な方面に応用が可能だ。その一つとして実際に製品化したのが、イモ類の糖度や水分、およびデンプン等を測定する成分測定値だ(写真2)。サツマイモなど糖度を生の状態で調べるこ とができるそうだ。いろいろな農作物や果物の成分測定の実用化を期待する声は多い。


 バイオマスの熱量および水分の測定装置も製品化している。りんごをはじめ、もみ殻など農業においてはさまざまな残渣が発生する。それらに熱、圧力を加えることにより、バイオコークスと呼ばれる燃料に加工できる。熱量を最適に制御するため、原材料の成分をあらかじめ知りたいという需要があるという。

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写真2 毛髪検査装置の分光ユニットの内部

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写真3 イモ類の糖度および水分計

また、ストーブの燃料などに使われる木質ペレットの発熱量、水分測定装置についても試作が完了しているという(写真4、図3)。より小型化を実現するため、制御筐体および分光筐体の各部品のレイアウトを行う際に解析を行った。各部材の材質や発熱量を調査し、熱流体解析ソフトで装置内の温度分布を検証して、効率的なレイアウトを検討した。解析の結果、制御筐体においては制御用リレーの発熱がとくに大きいことが判明した。そこでリレー回路に最も近い箇所に排気ファンを設けて、効果的な排熱を行った。

 分光筐体については分光部がペルチェ冷却によって23℃前後に保たれており、また分光器に組み込まれている放熱ファンによって内部の空気の流れもよく、温度分布のばらつきを十分に抑制することができた。



写真4 木質ペレットの熱量/​水分測定装置外観
上部が制御装置、下が分光器の入っている筐体

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図3 成分測定装置

汚泥の成分管理にも

 汚泥処理で利用したいという相談もあるという。下水処理場では脱水乾燥した汚泥を最終的に焼却処理する。ただ季節や地域によって水分量などが変わってくる。そこで乾燥方法や成分の制御のため、リアルタイムな測定値を最適にフィードバックすることで、余計なエネルギーを使わずに処理したいということだ。

 石炭中の水分量と熱量を測定する装置についても検証中だという。石炭を粉にして燃やしたり、バイオマスと混合した研究をしているが、装置の使用環境は、夏場には人も入れなくなるほど高温になるという。そのような悪環境でも測定可能な装置を開発中だ。

 青森県の重点事業として、特産のニンニクの品質や害虫などの異物が入っているかの検査についても県内企業とともに取り組んでいるという。なお、市販されている「カロリーアンサー」も青森県産業技術センターが開発協力したものだ。これは電子レンジのような装置に入れてボタンを押せば食品のカロリーが分かる装置だ。同様に近赤外線の分光技術によって調べられるという。

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図4 小型可搬型燃料電池

 

 また小型で可搬型燃料電池の開発も行っている(図4)。燃料電池はセルの段数で出力が決まる。現在の設計では1つの電池にセルが15 ~ 20層スタックされているが、その1つずつに電解質膜が付いている。あまり高温になると膜自体の機能が低下する。それを解決するためには電池を効果的に冷却する機能を備えたり、段数を少なくして出力を減らすなどの方法が考えられる。実際に検証するのが一番よいが、あらかじめ検討すればよりよい改良ができるという。

操作性と親しみやすさが決め手

 ソフトウェアクレイドルの熱設計PACを初めて使ったのは12年前ごろだった。もともと液晶モニタ向けLEDバックライトの熱解析と対策に使用するために導入したという。熱設計PACを選んだのは「やはり操作性ですね」と岡山氏は言う。メッシュを自動で作成するという機能もポイントの一つだった。「私たちの仕事は様々なことをしなければならないので、熱解析だけ専門に取り組めるわけではありません。そこで簡単に使えるというのは重要な条件の1つでした」(岡山氏)。さらにセンターでは異動があるため、そのたびに初めて解析ツールを使う人もいる。専門外であっても使ってみたいと思わせるようなツールであることも必要だった。

 他に選定にあたって注目していたのが、解析結果をアニメーションなどで効果的に見せられるということだった。「県内企業と協力して研究しているので、成果は学界だけでなく県の行政などにもアピールしていかなければいけません。そのためできるだけ分かりやすく適切な見せ方ができるものを探していました」(岡山氏)。こういった条件を満たすツールとして熱設計PACが採用された。はじめてシミュレーションを使う県内企業も多く、インパクトは大きいそうだ。

 解析速度については、当時は帰宅前に解析に掛けて、次の日に結果を得るというペースだったそうだ。この辺りについては当時は、そのうちコンピュータの計算能力向上により解析時間の問題は解決できるだろうと楽観視していたという。事実、かつては一晩だったのが、現在は1時間、30分と短縮されて助かっているそうだ。

 岡山氏らはシミュレーションと実験を同時に行っている。「分光器については、いきなり実物を作るのはリスクがありました。ファンの位置を少しずらしたらどうなるかといった検討をシミュレーションで行うことは、非常に意味がありました」と岡山氏は言う。その上で、中に温度計を置いて実験するなど、最後は必ず検証を行う。実験では分からない内部流れなどの可視化は、シミュレーションが非常に効果的だということだ。

常に解析目的を意識することが大事

 解析や実験をする際に一番注意しているのは、何を目的として解析するかを常に明確にしておくことだそうだ。循環をよくしたいのであれば流速ベクトルが必要になるが、そこで圧力などを測定したり表示させたりしてもあまり意味がない。目的は何か、そのためにどんな実験をしたらよいか、どのように数値解析をすればよいかを常に考える必要があるということだ。

 ソフトウェアを利用する際のサポートについては「直接、ソフトウェアクレイドルの営業担当の方に質問をしていますが、非常に親切に回答してもらっています」(岡山氏)。ツールの利用状況や今までの経緯もよく知っているため、すぐに的を得た回答を得ることができ助かっているそうだ。

 今後はドライ切削加工における切削熱や、太陽光パネルの温度上昇などにも解析を利用していきたいという。工業分野以外にも、熱流体解析を融雪や漁業での海水温予測、地熱発電など、青森県内の様々な産業振興に係るテーマに利用できるという。青森県産業技術センターは、さまざまな研究所が一つにまとまっており、垣根を越えた連携が可能なのが強みでもある。今後はより幅の広い取り組みに熱流体解析が活用されそうだ。

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青森県産業技術センター

  • 活動内容:青森県の地域産業振興(新製品・新品種・新技術づくり、資源・環境調査、栽培・病害虫防除技術の開発・研究・技術相談 、依頼試験、研修・指導、産業助成などを含む)
  • 主な部門:工業、農林、水産、食品加工
  • 所在地:青森県黒石市
  • URL:http://www.aomori-itc.or.jp/

 

※その他、本パンフレットに記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本パンフレットに掲載されている製品の内容・仕様は2015年4月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。

  

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