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パナソニック株式会社 様

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パナソニック株式会社 様 インタビュー

業界最小となるBD用光ディスクドライブの開発に熱流体解析を活用 
燃料電池システムなどのエネルギー分野へ適用を広げる

 DVDやBlu-ray Discといった光ディスクドライブは、性能だけではなく小型化や低価格化の競争が激しい製品だ。厳しい使用環境の中でも、ドライブ内部の温度が限界を超えない放熱設計になるよう、開発プロセスに熱流体解析ツールを活用してきたという。

 
 パナソニックは、AV機器などの家電製品に加えて産業機器、通信機器、住宅設備、環境関連機器など電気機器を中心に多角的な事業を展開している総合エレクトロニクスメーカーであり、2018年度には創業100周年を迎える。


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R&D本部 エネルギーソリューションセンターエネルギーシステム開発室 ​中田秀輝 氏


 2005年当時、パナソニック R&D本部 BD事業開発タスクフォースに所属していた中田秀輝氏は、光ディスクドライブの開発にCDの時代から携わってきた(図1)。光ディスクドライブの基幹部品であり、情報の記録再生に用いる光ピックアップ(図2)の開発部門に在籍して、Mini Disc(MD)、DVD、Blu-ray Disc(BD)の研究開発業務を担当。常に業界をリードしてきた光ピックアップの開発で、大きな課題となる高出力半導体レーザの放熱課題についても、開発のスタート段階よりその伝熱および輻射を考慮した放熱設計に熱流体解析ツールを駆使して取り組んできた。BDの超薄型ドライブ(ウルトラスリム)の開発では、プロジェクトリーダーとして研究段階から設計、工場立ち上げまで全面的に統括し、その後は業務用大容量アーカイバの開発にも取り組んだ。一昨年からは燃料電池の研究開発業務を担当。燃料から水素を取り出し、空気中の酸素と化学反応させることで電気を生み出す燃料電池システムの発電機部分の設計および熱流体解析に取り組んでいる。

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図1 光ディスクドライブの進化
パナソニックではCDの時代から光ディスクドライブを内製してきた

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 図2 光ピックアップの構造
読み出し・書き込み用の半導体レーザー、ディスクを走査する
対物レンズとアクチュエータ、光検出器などからなる
 

樹脂化で悪化した放熱性能を解析により対策

 光ディスクドライブの開発において構造格子の熱流体解析ツール「STREAM®」を導入したのは2005年のMDの開発時だ。MDは波長800nmの高出力半導体レーザー(LD:laser diode)を搭載し、小型光学系を介してディスク表面に直径1μm程度の光スポットを形成して、ディスクの表面への信号の書き込みや、記録した信号の読み取りを行う。「光ディスクドライブは、コスト、サイズ、性能、信頼性を限界でバランスさせる必要がある」と中田氏は言う。ポータブルMDは特にコストとサイズの競争が激しく、光学素子を搭載するベースをアルミダイキャストから樹脂化した場合、従来のままの伝熱構成ではLD温度が高くなりすぎ、短時間で故障につながるため、光ディスクの回転による対流を効果的に用いて光ピックアップを冷却する放熱設計を考案したのだという。(図3)

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図3 STREAM®にて放熱構成を決定

 

試作回数の低減要求が高まる

 当時の開発プロセスは、設計し試作品を作ってからLD等の温度を測定し、対策を検討、再度試作して検証するというサイクルを回しており、1サイクルに約3 ヶ月を要していた。個々の部品性能や全体の組み立てばらつきを含めたLD寿命を保証するための伝熱設計が完了するまでに1 ~ 2年かかることも珍しくなかった。商品開発の大幅な短縮が要求される中、品質を保証しながら迅速に製品を開発するためには、 開発のスタート段階から、伝熱および輻射の詳細なモデル化による放熱設計の必要性が高まった。場合によっては数時間で設計方針を決定する必要も発生し、設計者が自ら使え、短時間で高精度な結果が出るツールを探していたという。

高精度な温度予測モデルを構築

 そこで放熱設計のためのソフトウェアを検討した結果、STREAM®を導入することに決定した。STREAM®を選んだのは、「市販されている流体解析ソフトウェアの中で比較的解析機能が豊富なことに加えて、なによりもインタフェースが使いやすいことが大きかった」(中田氏)という。さらに3DCADデータを加工せずそのままSTREAM®内に読み込んで解析モデル化し、メッシュも容易に切ることができた。また実験で求めた部品間の接触熱抵抗の設定やディスクの回転による風の影響も扱いやすいという理由でSTREAM®を選択した。


 構築した伝熱解析のモデルによって、設計の初期段階でLDの温度を5℃以下の誤差で予測できるようになった。最初の試作、実験により、各部品間の熱抵抗を詳細に把握することで、解析の誤差を±1℃以内にまで収め、2回目の実験時には実際の温度を確認するだけで伝熱設計をほぼ完了できるようになった。この開発フローにより伝熱設計を約半年にまで短縮したとともに、様々な条件における温度を高精度で事前に把握できるようになった。この際に構築した解析手法は、その後DVD、BDの小型化への開発に活かされることとなる。​

業界初の超薄型ドライブを開発

 STREAM®で行った解析の一つが、BDおよびCD/DVDに対応した、ノートパソコン用のウルトラスリムサイズ規格のドライブの解析だ。BDを搭載したウルトラスリムサイズのドライブはパナソニックが初めて開発に成功したものだ(図4)。ウルトラスリムサイズのドライブの開発において重要なのは、あらかじめ定められたサイズに収めつつ、小型光ピックアップに搭載した高出力の3波長のLDの放熱特性を確保することである。


 ドライブを小型化することで、空間が減少し回路基板の影響により内部温度が上昇しやすくなるとともに、光ピックアップを小型化することで放熱する表面積が大幅に減少するため、ますますLDの温度を下げることが難しくなる。さらに、BDは波長605nmの青色LDを搭載し、ディスク表面に直径0.1μm程度の光スポットを形成するため、より高精度かつ高品質な集光性能が求められるため、動作時の発熱による光学部品の変形や、光軸のずれによる光学系の収差も限界レベルまで抑えなければならない。

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図4 Blu-ray Discドライブ「U-Slim(厚さ9.5㎜)」の光学ヘッド構成とSTREAM®による解析例メカニズムの全体構成(左上)、光ピックアップ部分(左下)

 

 光ピックアップの発熱源はLD、LD駆動ICチップ(LDD:laser diode driver)、対物レンズ駆動装置となる。対物レンズ駆動装置の動力源は電磁コイルのため、コイル部分で発熱する。この際、レンズの温度上昇が場所によって不均一だと、レンズの変形により収差が発生して光スポットのサイズや形が変わり、記録・再生性能が悪化してしまう。そのため温度分布を均一にさせる必要がある。動作状態における光ディスクドライブの内部温度を解析した図が図3、LDおよびLDDなどの発熱源のみを取り出したものが図5だ。部品配置や熱伝導対策の結果、図5の右のようにLDおよびLDDの温度を大幅に下げることができた。光ディスクドライブの解析では各部品のすき間がとても細かいことから定常解析で2000万~ 1億要素近くで計算しているという。​

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​図5 STREAM®によるBlu-ray Discの解析例
熱源となるBD、DVD/CD、レーザー駆動ICチップを抜き出したもの。
対策前(左)と対策後(右)

 

 その後もパナソニックは2011年には容量が100GBとなる多層光ディスクに対応したレコーダを発売した。多層のディスクに記録するには、さらに高出力のLDが必要なため、当然温度対策はシビアになる。小型化を進めながらLDの動作温度を規定以内に収めるため、STREAM®を用い様々な環境条件を想定した伝熱・放熱設計を徹底したそうだ。

 

塵埃の挙動解析に活用

 さらにパナソニックでは、光ディスクを用いた大容量データアーカイバの研究開発に取り組んでいた。その際に筐体内の塵埃の挙動を調べるために、SCRYU/Tetra®を導入したという。大容量データアーカイバとは、データセンターなど大容量の動画などを保管する施設で使われるもので、BDに対して大幅に記録密度を高めた記録再生方法を検討していた。


 今までの光ディスクドライブの記録方式では、塵埃について考える必要はなかったと中田氏は言う。だが大容量データアーカイバでは従来方式に対し記録密度が増加し、読み書きの条件が厳しくなり、数十nm程度の小さな塵などの影響も現れやすい。しかし筐体内のメンテナンスはほとんどできないため、装置内の塵埃の挙動を正確に把握して適切な対策を取る必要があった。そこで、時間ごとの塵埃濃度を非定常解析できるSCRYU/Tetra®を導入することにしたという。


 アーカイバの開発では、塵埃濃度の時間変化の推定や、塵埃捕集システムの設計にSCRYU/Tetra®を利用した。ディスクが回ることで発生する対流を利用し、防塵フィルタを取り付けることによって塵埃を捕集するシステムを検討した例が図6だ。数十nm以上のごみが記録ヘッド部分に付着すると信頼性が下がるため、それをできるだけ取り除く必要がある。図6のスリット状の所が防塵フィルタの場所になる。1回空気が通過すると0.1μm以上の粒子が約半減するフィルタを取り付け、何秒で空気中の塵埃がなくなるかを解析した。実験では確認が困難な空間容積と浄化時間との関係を推定することができる。本解析の結果では、浄化容積が倍になると浄化時間は約9倍必要となることがわかった。


図6 SCRYU/Tetraによる大容量アーカイバの塵埃の解析例

 

熱を無駄なく利用する​

 現在は燃料電池コジェネレーションシステムの設計に熱流体解析ツールを用いているという。燃料電池とは燃料から水素を取り出し、空気中の酸素と化学反応させることで電気を生み出すシステムだ。家庭用の燃料電池コジェネレーションシステムでは、都市ガスから生成した水素と空気中の酸素を反応させて電気を作る。またその際に発生した熱を使って給湯も行う。複数のエネルギーを生成するためコジェネレーションシステムと呼ばれる。


​ 同システムのエネルギー効率を高めるために大切なことの一つは、発電効率を上げることであり、徹底した熱設計により外部に放出される熱量を極限まで減らすとことである。「燃料電池システムも、コストやサイズ、性能、耐久性をバランスさせなければならない」と中田氏はいう。そこで熱流体解析によって最適な熱交換構造や流路構造を検討するというわけだ。同システムの設計では、各コンポーネントの配置や流体の流れ、圧損、熱のやり取りを確認したり、熱収支を計算したりするという。
 

より統合的な解析へ

 今後は熱流体解析ツールの機能に、触媒反応などの化学計算や、燃焼モデルなどを組み込んで欲しいという要望がある。燃料電池のシステム内部における化学反応による発熱量や燃料などの現象を正確に計算できるようになれば、燃料電池システム全体を一つの解析ツールで扱えるので、より便利になるということだ。

 パナソニックでは多くの製品の開発においてソフトウェアクレイドルの製品が活躍している。今後も様々なエネルギー分野の解析に活用し、新たな商品開発につなげていきたいということだ。

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パナソニック株式会社

  • 設立:1935年
  • 事業内容:部品から家庭用電子機器、電化製品、FA機器、情報通信機器、および住宅関連機器等に至るまでの生産、販売、サービスを行う総合エレクトロニクスメーカー
  • 代表者:代表取締役 津賀 一宏
  • 本社所在地:大阪府門真市
  • 資本金:2,587億円(2014年3月31日現在)

※SCRYU/Tetra、およびSTREAMは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本パンフレットに記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本パンフレットに掲載されている製品の内容・仕様は2014年4月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。


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