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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第1回 缶詰の形状最適化(1)

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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方

はじめに

最適化とは、目標に対してもっとも適切な方針・計画を立て、選択あるいは行動を行うことで、設計プロセスは本来、最適化の作業を伴ったものです。しかしながら近年、最適化が求められる背景には個々の製品のさらなる性能向上が短時間で求められていること、それらを実現するためには新たな手段が必要とされていることがあります。その手段として注目されているのがCAE(Computer Aided Engineering)ツールと最適化ソフトウェアの組み合わせです。本連載ではSTREAM®、SCRYU/Tetra®と最適化ツールExtension Option (Optimization)(以降、EOoptiと称します)との組み合わせにより、電子機器やターボ機械の設計を行った事例を紹介します。最適化ソフトの目的は性能の追求にあることは明らかですが、それ以外にも設計の見える化と、新たな知見を得る、あるいはノウハウの蓄積という効果も得られます。本連載では、CAEと最適化ソフトによる設計作業の見える化などについて、事例を通して紹介します。

第1回目は、缶詰の設計を例に最適化について説明します。

缶詰の最適化

缶詰は、図1.1に示すような円柱で、直径を D と高さを H とすると、体積 V と表面積 A は下記の式で求まります。



体積あたりの表面積がもっとも小さくなるような D H がわかれば材料費が最小で済む、すなわち最適であると考えられます。(1)式を(1)´式に変形し(2)式に代入、V が一定という条件でA が最小となる D を求めます。すると、H = D すなわち、高さと直径が等しい形状で表面積が最小となることがわかります。



図 1.1 缶詰形状


一方、缶詰は3ピース缶では上下の円板と矩形の鋼板を巻きつけた円筒を組み合わせたものになり、それぞれの継ぎ目の加締め作業が製造工程の大きな割合を占めると予想されます。また、密封性を左右するのも継ぎ目部分になります。すると体積あたりの継ぎ目長さを最小とすることが製造コストと信頼性リスクを最小にできる、すなわち最適であるとも考えられます。継ぎ目長さは下記の(3)式で表されます。



同様にして(1)式から求めた H を(3)式に代入し、L が最小となる D を求めると、H = π・D すなわち高さが直径の約3倍となる形状で継ぎ目長さが最小となることがわかります。 体積 V が1000cm³ で、高さ H と直径 D の比 H / D を0.5~5まで変化させた場合の表面積と継ぎ目長さを計算し、プロットしたのが図1.2です。図1.2の赤色の丸が、高さと直径が等しいという条件での、また青色の丸が、高さが直径の3.1倍という条件での表面積と継ぎ目長さを示します。図を見ると赤色の丸で表面積が最小に、青色の丸で継ぎ目長さが最小となっていることがわかります。高さが直径の1~3倍の範囲では、表面積と継ぎ目長さとはトレードオフの関係にあり、どちらを重視するかにより最適な形状は変わります。このうちどちらも満足する条件として、グラフ左下に近い、例えば紫色の丸で示す高さが、直径の1.6倍の形状が最適とみなすこともできます。



図 1.2 体積1000cc での表面積と継ぎ目長さ


このように、缶詰の設計目標のうち、表面積と継ぎ目長さをグラフ化することにより、最適な設計範囲(今回の場合、高さが直径の1~3倍)と設計目標同士のトレードオフの関係、およびどちらも満たす条件を可視化できます。このことは設計初期の段階で製造・調達などの関係セクションからの情報を設計につなげることを容易にし、設計の見える化とフロントローディング(設計検討項目をできるだけ前倒しし、後戻りをなくす手法)を可能とします。同時に、いままで不可知の部分の多かった設計ノウハウを定量的な形で保存・継承できることも意味します。

缶詰の事例では、設計目標が式で記載できるため、エクセルなどを利用して簡単に先のグラフを描くことが可能ですが、現実の設計では最終的な設計目標が単一の式で記載できるような例はほとんどありません。しかしながら、CAEツールの利用、例えばSTREAM® ・SCRYU/Tetra®と最適化ツールとの組み合わせにより、現実の設計のような複雑な現象においても先の例と同じように可視化することが可能となります。

本連載では、電子機器の設計やターボ機器の設計において、設計の可視化を行った事例とその方法を具体的に紹介します。

次回は、缶詰の問題を最適化ツールEOoptiで解いた例を紹介します。なお、これは缶詰の形状を題材とした最適化の例題であり現実の缶詰設計を示したものではありません。

【参考文献】 ユーザーズガイド 最適化編(オプション)





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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