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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第2回 缶詰の形状最適化(2)

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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方

前回は缶詰の形状最適化として、与えられた体積で表面積が最小になる条件、および継ぎ目長さが最小になる条件を求めました。この問題は円柱の体積と表面積、および辺の長さの式を変形することで容易に解くことができますが、現実の設計では単一の式で表されるものは稀です。そういった状況でも最適な解の組み合わせを提示できるのが、最適化ソフトウェアです。今回は最適化ツールEOoptiにより、缶詰の形状最適化の問題を解いてみます。

問題の確認と最適化の流れ

ここで、問題の確認と問題を解く作業の概略を説明します。
缶詰の形状最適化として、図2.1に示す円柱で体積が1000cm³となる直径と高さの組み合わせのうち、表面積と継ぎ目長さが最小となる高さと直径との比を求めます。



図 2.1 缶詰の形状


この問題を解くために最適化ツールEOoptiは図2.2に示す流れで問題を解きます。はじめに実験計画を行います。今回の問題では高さと直径との比を必要な組み合わせだけ用意します。次に、実験計画に基づいた条件で実験あるいはCAEにより結果を得ます。今回の例では高さと直径との比から、Microsoft®Excel® などにより表面積と継ぎ目長さを計算することになります。市販されている最適化ソフトウェアの中には、与えられた条件でCAE解析を行い、得られた結果から最適であるかを判断し、次の条件を考えて再度CAE解析を行うといった一連の流れを自力で行うものもあります。しかしながら、そのためにはモデリングも含めて完全に無人で行えるようなハードウェアとソフトウェアが必要となります。そこで、CAE解析結果から近似式を求め、最適解探索は近似式を用いて行う方法が一般的です。この近似式が図2.2に示す応答曲面式で、EOoptiは応答曲面式を用いて最適解の探索を行うソフトウェアです。では実際に解いてみます。



図 2.2 最適化の流れ


EOoptiによる最適化

はじめにサンプリング数を決定します。設計変数の数を n とすると、サンプリング数は以上を目安に決定します。これは、例えば n変数の2次式で回帰しようとすると、定数項が1、1次の項が n 、2次の項がn、変数同士の積の項がだけ必要となります。各項を定めるには、最低でも項の数と同じ数の変数の組み合わせが必要となり、合計で の変数の組み合わせが必要となります。

サンプルの不確かさなどから、この2倍のサンプル数とするのが一般的です。つまり、サンプリング数の目安は、2次式で回帰する場合のサンプリング数であり、複雑な挙動を示すものでは、解析結果をもとにサンプリング点を追加する必要があります。また、サンプリング数は設計変数の数の概ね2乗で増加するため、むやみに設計変数の数を多くしないことが大切です。今回の場合、設計変数はH/Dのみであるため、( 1+1 ) x ( 1+2 ) = 6 となりますが、EOoptiはサンプル数として7以上を設定するようになっているため、ここでは倍の12としました。サンプル数を入力し図2.3の画面で「作成」ボタンをクリックすると、EOoptiは最適な実験条件の組み合わせを作成します。その組み合わせにしたがってCFD解析などを行い、結果を入力し「次へ」ボタンをクリックすると図2.4の画面となります。

ここで必要に応じて設定を行い「実行」ボタンをクリックすると、EOoptiは入力された結果をもとに応答曲面式を作成します。次いで、応答曲面式をもとに最適化の計算を行います。



図 2.3 実験計画および解析結果の入力



図 2.4 応答曲面式の計算と最適解探索


最適化の計算が完了すると、応答曲面式の3次元表示や設計変数の目的変数への寄与度、最適解分布などを表示できます。このうち図2.5に示す最適解分布がもっとも利用頻度の高い結果です。図2.5では、ある高さと直径との比に対する表面積を横軸に、また継ぎ目長さを縦軸にプロットしています。図中の点をクリックすると、図2.5に示すようにその設計変数と目的変数を表示します。設計段階での関係者、すなわち設計部門や製造部門、購買部門、営業部門のメンバーは、図2.5に示す最適解分布の中からいくつかをクリックして、設計案を具体的に比較、検討することができます。つまり、設計の見える化が可能となります。



図 2.5 最適解分布


EOoptiは解析結果をCSV形式のファイルで出力します。この結果を前回計算した結果と比較したのが図2.6です。図中の赤い丸がEOoptiが算出した最適解で、実線で示す表面積と継ぎ目長さの式を変形して求めた結果と良く一致し、表面積が最小となるのは高さと直径とが等しい、また継ぎ目長さが最小となるのは、高さが直径の約3.1倍の場合であるという結果が得られます。



図 2.6 式の変形から求めた結果との比較


EOoptiではサンプル数をユーザーが決定する必要があります。サンプル数の一応の目安としては、設計変数の数をNとして以上ですが、応答曲面の形状により異なります。そこで次回は、サンプル数を変えた場合の応答曲面の違いと、最終的に求まる最適解の違いについて簡単な関数を用いて実験してみます。


【参考文献】 ユーザーズガイド 最適化編(オプション)





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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