Cradle

 

投稿一覧

流体解析の基礎講座 第1回 第1章 熱流体解析とは:1.1 熱流体が関わる現象,1.2 熱流体解析の利点と注意点

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
流体解析の基礎講座

はじめに

 ソフトウェア・ハードウェアの急速な進歩に伴い、設計・開発を取り巻く環境は近年大きく変わりつつあります。2次元で描いていた図面は3次元で描くようになり、 CAE(Computer Aided Engineering) が活用される機会が多くなってきました。このような流れの中で、これまでは解析専任者のみが使用していた 熱流体解析 Computational Fluid Dynamics: CFD )ソフトウェアを設計者などの解析専任者ではない人が使用するケースも増えています。この状況は技術者のスキルの1つとして熱流体解析が求められていることを表しているともいえます。ところが、これから熱流体解析を始めようとする人の中には、多忙な業務の合間に 流体力学 やCFDの分野に見られる難解な理論や専門用語を理解することが難しく、なかなか使いこなせるところまで到達できないという方もいらっしゃると思います。そこで、この連載では熱流体解析をこれから始める方、もしくは始めて間もない方を対象に、熱流体解析を行う上で基本となる内容についてご紹介していきたいと思います。
 コンテンツの作成にあたっては難しい表現や式の記述をできるだけ避け、感覚で理解しやすいように努めました。本連載が皆さまの業務にとって有益な情報となりましたら幸いです。


第1章 熱流体解析とは

 第1章では流体や熱の移動が関係する現象と熱流体解析を行うことの利点や欠点について、ご紹介したいと思います。


1.1 熱流体が関わる現象

 常温における空気や水は、明確な形を持たずに流れるという性質を持っています。このように流れる性質を持っているものを総称して 流体 と呼びます。



図1.1 物質の三態


 地球上には空気や水に代表される様々な流体が存在しており、身の回りで観察される多くの現象に流体の 流れ の移動が関係しています。
 例えば、自動車や航空機においては、車体や機体の周りを空気がどのように流れるかということが性能に大きく影響します。電子機器や電気回路の設計においては、部品の許容 温度 範囲を超えないためにより熱を逃がしやすい設計を行うことが重要になります。また、空調設備の設計や高層建築物の周囲に生じるビル風、ヒートアイランド現象などにおいても空気や熱の流れを把握することが快適な環境づくりのために重要となります。
 このように流体の流れや熱の移動という現象は、私たちの生活全般と深い関わりがあり、これらの現象を理解することが極めて重要なテーマとなっています。



図1.2 流体の流れや熱の移動が関わる現象



1.2 熱流体解析の利点と注意点

 前節で挙げた様々な現象について実験を行った場合、得られる情報は実現象そのものとなります。そのため、情報の信頼性は非常に高くなります。しかし、実験を行うためには多大な費用や時間、労力が必要となります。
 このような問題を解決するためのツールの1つが 熱流体解析ソフトウェア です。熱流体解析はこの技術全般を指す学問である 数値流体力学 (Computational Fluid Dynamics)の頭文字を取って CFD とも呼ばれます。
 熱流体解析ソフトウェアでは、流体の流れや熱の移動をコンピュータ上でシミュレーションすることが可能です。近年では解析技術やコンピュータの性能向上により、解析結果を実際の設計に生かすことも可能となってきました。熱流体解析を行う利点として以下のようなことが挙げられます。

  • 試作品を作らずに様々な条件における検討が行え、開発期間の短縮や試作コストの削減を図れます。
  • 実験による測定が難しい場合や、実験そのものが困難な場合にも詳細なデータを得ることができます。
  • イメージしづらい流れや熱の動きを視覚的に表現でき、感覚に頼らない合理的な説明を行うための手段として利用できます。

以下に熱流体解析の例をいくつか示します。



図1.3 熱流体解析の例


 このように熱流体解析は魅力的な特徴を備えていますが、その反面、いくつかの欠点も持ち合わせています。例えば、複雑な物理現象を計算する際に現象を単純化した物理モデルを使用した場合、あるいは解析対象物の形状を簡略化した場合にはモデル化に伴う 誤差 が含まれます。また、コンピュータで数値計算を行うと必ず計算誤差の影響も含まれます。
 こういった熱流体解析の利点と欠点を十分に理解し、得られた計算結果が物理的に矛盾したものではないかどうかということを常に吟味しながらソフトウェアを使っていくことがとても重要になります。





著者プロフィール
上山 篤史 | 1983年9月 兵庫県生まれ
大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程修了
博士(工学)

学生時代は流体・構造連成問題に対する計算手法の研究に従事。入社後は、ソフトウェアクレイドル技術部コンサルティングエンジニアとして、既存ユーザーの技術サポートやセミナー、トレーニング業務などを担当。

 

最後までお読みいただきありがとうございます。ご意見、ご要望などございましたら、下記にご入力ください

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ピックアップコンテンツ