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船のCFD 1. はじめに

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船のCFD

1. はじめに

船は華やかさがある航空の世界と比べるとどちらかというと地味ですが、石油、石炭、鉄鉱石などの原料や自動車などの製品など、重量ベースで日本の貿易の99%以上を支えている重要な長距離・大量輸送手段です。船は見えないところで私たちの生活を支えている縁の下の力持ちのような存在であると言えるかもしれません。

船
船は重量ベースで日本の貿易の99%を支えています


2014年の国際海事機関(IMO)の調査によると、国際海運から排出される二酸化炭素は約8億トンであり、人類の活動による二酸化炭素排出量のうちの約2%を占めるとされています。2018年4月には温室効果ガス(GHG)排出削減戦略がIMOで採択され、2030年までに2008年をベースとした国際海運の燃費効率を40%改善し、2050年までにGHG排出量を半減させ、今世紀中のなるべく早期にGHG排出ゼロを目指すという目標が設定されました。

船の性能は過去の努力によって既に限界に近いところまで上がっていますので、さらに大幅に効率を改善することは非常に難しいことは容易に想像出来ると思います。運行などソフト面での改善も期待されていますが、数値流体力学(CFD)などを活用した船舶の性能の改善も強く求められています。


世界のCO2排出量
国際海運から排出される二酸化炭素は人類の活動による二酸化炭素排出量のうちの約2%を占めます


船の性能は船に作用する流体力によって決まります。船の流体力学については、池田先生がコラム「船舶流体力学の世界に魅せられて」に大変分かりやすく書かれているので、まだ読まれていない方は是非読まれることをお薦めいたします。本コラムは池田先生のコラムに引き続き船の流体力学をテーマとしますが、船の流体力学をCFDで扱うというということに重点を置いて書いていきたいと思います。

船のCFDと言っても基本は他分野のCFDと同じですが、色々な流体現象が関わっていることや、解析で求められる精度のレベルが一般に高いことが性質として挙げられるかと思います。流体力学的なことについては、池田先生が解説されているように、波をつくることによる造波抵抗と水面下の部分の粘性抵抗の両方を考慮した形状としなければならないことや、波浪中の船体運動、プロペラと船体の間の相互干渉、プロペラのキャビテーションなど様々な現象が関わっていることが、CFD計算をより難しくしています。

高い解析精度が求められるということについては、船の工業製品としての性質が関係しています。船は飛行機や自動車と異なり、基本的に個別の注文を受けてから設計が行われ、実験や計算で性能を確認してから建造が行われます。同一モデルを多数製造するのであれば、実物の試作を行うことも出来ますが、船の場合はまだ存在していない実機の性能を模型試験やCFD計算により高精度に推定して実機の性能を保証する必要があります。そのため、CFD計算が導入される以前から、模型による水槽試験で精密に抵抗を計測して、相似則と尺度影響の修正、さらには経験的な修正を駆使して実機の性能を高精度に予測する技術が発展していました。船の世界ではCFD計算は水槽試験に代わるものとして当初から期待されて来たことから、高レベルの定量的な精度が求められていると言えます。

このコラムでは全15回の予定で、船のCFDのプラクティスと課題を具体的な解析事例を交えながら解説していきたいと思います。





著者プロフィール
川村 隆文 | 1970年 東京生まれ
1993年 東京大学工学部船舶海洋工学科卒業
1995年 東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻修士課程修了
1998年 博士(工学)の学位を取得

デンマーク国際数値流体力学研究所(ICCH)研究員、運輸省船舶技術研究所研究官、東京大学大学院工学系研究科講師、東京大学大学院工学系研究科准教授などを経て2010年から株式会社数値流体力学コンサルティングの代表を勤める。専門は数値流体力学、船舶流体力学、プロペラなどの流体機械、キャビテーションなど。

 

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