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船のCFD 2. 船のCFDのプラクティス

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船のCFD

2. 船のCFDのプラクティス

実験で船の性能を調べるためには、縮尺模型を用いた水槽試験を行う方法が確立されています。船が直進するときの速度や燃費に関わる性能を船の推進性能と呼びますが、実船の推進性能を推定するにあたっては、船体にプロペラを付けないで曳航したときの抵抗を計測する抵抗試験、プロペラの性能を計測するプロペラ単独性能試験、船体とプロペラの相互干渉を計測する自航試験の3つの試験を行い、尺度影響を考慮した上で相似則を適用するという手順が一般的に取られます。水槽試験は実船とフルード数が一致するように行いますが、レイノルズ数は2桁くらい小さく、摩擦抵抗係数がかなり大きくなるのでこれを補正します。このように、水槽試験の結果から、尺度影響を考慮して実船の性能を推定することを「外挿」と呼んでいます。ちなみに、摩擦抵抗は船の抵抗の一番大きな割合を占めているので、外挿の精度はとても重要です。なお、水槽試験については、池田先生のコラム「船舶流体力学の世界に魅せられて」の3. 模型試験の活用においてもより詳しく解説されているので、そちらも是非お読み下さい。


推進性能を推定
水槽試験では抵抗試験、自航試験、プロペラ単独試験の3種類の試験の結果を用いて実船の推進性能を推定します


抵抗試験の様子
実際の抵抗試験の様子


水槽試験には色々な制約があってこのような複雑な手順を取らざるを得ないのですが、CFDには水槽試験のような物理的制約はないため、実船の状態を計算して実船の性能を直接求めることも原理的には可能です。しかし、2019年現在、CFDで実船の性能を直接求めることは実用的にはほとんど行われていません。その理由は、実船スケールのCFDがまだ十分信用されていないことにあります。

将来的には直接推定する方法に徐々に置き換わって行く可能性もありますが、現時点では抵抗試験のCFD計算、プロペラ単独性能試験のCFD計算、自航試験のCFD計算のように、個々の試験に対応する計算を行った上で、外挿によって実船の性能を推定するという水槽試験とほぼ同じ手順が一般的に取られています。

従って、現状では抵抗試験の計算、プロペラ単独性能試験の計算のようにある程度定型化された計算を高精度に行うことがまず求められます。幸いこのような基本的な計算については、計算領域、メッシュ、乱流モデルなどをどのようにすればよいかという「プラクティス」がある程度確立されています。


船体周りの流れと、プロペラ周りの流れの計算例
船体周りの流れと、プロペラ周りの流れの計算例


水槽試験の技術の向上を目的とした、国際試験水槽会議 (International Towing Tank Conference, ITTC)という組織があり、日本を含む世界の主な試験水槽がこれに参加しています。ITTCが設置した専門家委員会が、船のCFDの現状について調べた結果をまとめて、”Practical Guidelines for Ship CFD Applications”というガイドラインを示していて、これが船の世界では最も「公式」なプラクティスということになるかと思います。メッシュの品質などについては文章にしたり定量的な目安を示したりすることは難しく、使用するソフトに依存する面もあるので、これに従えば十分精度が高い計算ができるという性質のものではないですが、参考にはなります。また、プラクティスは計算機の高速化などによって数年の単位でだんだん変わっていきますので、時々アップデートを行うことも必要です。





著者プロフィール
川村 隆文 | 1970年 東京生まれ
1993年 東京大学工学部船舶海洋工学科卒業
1995年 東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻修士課程修了
1998年 博士(工学)の学位を取得

デンマーク国際数値流体力学研究所(ICCH)研究員、運輸省船舶技術研究所研究官、東京大学大学院工学系研究科講師、東京大学大学院工学系研究科准教授などを経て2010年から株式会社数値流体力学コンサルティングの代表を勤める。専門は数値流体力学、船舶流体力学、プロペラなどの流体機械、キャビテーションなど。

 

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