流体解析の基礎講座 第17回 第5章 熱流体解析の基礎:5.8 時間の進行
5.8 時間の進行
解析には定常解析と非定常解析があります。
定常解析は時間的な変化がなくなった最終的な状態のみを求めようとする解析です。解析に時間の概念はなく、最終的な状態に達する前の途中経過に物理的な意味はありません。あくまで、最終的な状態に達して初めて意味を持つ解析になります。
一方、非定常解析では解析全体を短い時間に区切って、ある瞬間の状態から次の瞬間の現象を求めるという作業を繰り返して解析を進めていきます。現象の途中経過も解くため、計算途中の結果にも物理的な意味があり、最終状態に至るまでの変化の様子を知ることができます。
このときのある瞬間から次の瞬間までの時間のことを 時間間隔 といいます。一定時間の解析を行う場合には時間間隔の値を大きくするほど繰り返し回数を少なくできるため、計算を高速に進めることができますが、その分予測の精度は低下します。そのため、非定常解析では適切な時間間隔を設定することが重要となります。
時間間隔の設定を行う際の目安として以下の式で定義される クーラン数 と呼ばれるパラメータがあります。
ここで、Cはクーラン数、uは 流速 、Δtは時間間隔、ΔLは 要素 幅を表しています。
図5.21 クーラン数のパラメータ
この値は1タイムステップ、すなわち設定された時間間隔が経過する間に、 流れ が要素いくつ分進むかということを示しています。
例えば、クーラン数が1であれば、図5.22の上図のようにある地点の流れは次の瞬間にはその隣の要素に進みます。そのため、メッシュ本来の解析精度を得ることができます。
それに対して、クーラン数が10であれば、図5.22の下図のように流れは次の瞬間に要素10個分進むことになり、その間の9つの要素を素通りすることになります。そのため、10倍粗いメッシュでクーラン数を1とした場合と同程度の解析精度しか得られないということになってしまいます。
図5.22 流れの進み方
クーラン数は各要素の大きさとその要素における流速の大きさに依存して決まります。そのため、同じ流速であっても要素幅が小さい場所や、同じ要素幅でも流速が大きい場所ではクーラン数は大きくなります。多くの場合、解析対象の要素幅や流速の大きさは場所によって異なるため、クーラン数の値は場所によってまちまちの値となります。解析に要する時間も踏まえながら、最大となるクーラン数ができるだけ小さな値となるような時間間隔を設定することが重要です。
次回は、「第5章 熱流体解析の基礎(7)」についてご説明したいと思います。
著者プロフィール
上山 篤史 | 1983年9月 兵庫県生まれ
大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程修了
博士(工学)
学生時代は流体・構造連成問題に対する計算手法の研究に従事。入社後は、ソフトウェアクレイドル技術部コンサルティングエンジニアとして、既存ユーザーの技術サポートやセミナー、トレーニング業務などを担当。
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