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流体解析の基礎講座 第15回 第5章 熱流体解析の基礎:5.5 境界条件,5.6 初期条件

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流体解析の基礎講座

5.5 境界条件

 各要素の値は隣接する 要素 の値を使って計算されます。例えば、図5.14の赤で示した要素の計算を行う場合には、その周囲にある青で示した要素の値が用いられます。



図5.14 要素が他の要素に囲まれている場合


 一方、 値を求める要素が図5.15の赤で示した要素のように 解析領域 の端にある場合には隣に要素がないことから、このままでは計算を行うことができません。そのため、解析領域の端では何らかの値を与える必要があります。この値を決定する条件のことを 境界条件 といいます。



図5.15 要素が解析領域の端にある場合


  熱流体解析 では 流速 圧力 温度 に対して境界条件を設定する必要があります。例えば、風が入ってくるという場合には境界条件で流速や流入温度を与えます。
境界条件にはいくつかの種類がありますが、代表的なものとして以下の3種類が挙げられます。

ディリクレ境界条件
 ディリクレ境界条件は境界面の値を直接指定する条件のことです。『流速 5 m/s』や『圧力 0 Pa』、『温度 20 ℃』といった条件がこのタイプに当たります。



図5.16 流れに対するディリクレ境界条件の例


ノイマン境界条件
 ノイマン境界条件は変数の勾配を与える条件です。勾配というと難しく聞こえますが、変化率と同じ意味だと考えてください。『フリースリップ条件』や『断熱条件』などがこのタイプに当たります。
 例として断熱条件について考えてみることにします。図5.17 (a) のように温度差があるときにはは温度の高いほうから低いほうへと移動します。このことから断熱、すなわち熱が移動しないようにするためには図5.17 (b) のように温度差がなければよいことがわかります。温度差がないということは温度の勾配(変化率)が0ということと等しいため、断熱条件は温度の勾配が0というノイマン条件で表現できるということになります。



図5.17 断熱条件の考え方


周期境界条件
 周期境界条件はある2つの面の値が等しくなるという条件です。 流れ や温度の分布に周期性(繰り返し)が予想される場合に用いられます。
 図5.18のようなファンを例にとって考えてみます。このファンには等間隔で同じ形の羽根が4枚並んでいるため、それぞれの羽根の周りの流れはほぼ等しくなると考えられます。このような場合には、1枚の羽根を取り出して境界面に周期境界条件を設定することによって、羽根1枚分の計算で羽根が並んで回転している状態に近い状況を再現することができます。
しかし、形状が周期的であっても流れが速い場合などには周期的な流れにならないことがあります。そのような場合には周期境界条件を使用することができないため注意してください。



図5.18 周期境界条件の例


解析で本来の状況を再現するためには、適切な境界条件を選択することが重要です。
誤った境界条件を設定してしまうと、本来の状況を再現できないばかりではなく、計算の安定性を損ねる原因にもなりかねないため注意が必要です。

5.6 初期条件

 解析の開始時点における状態を設定する条件を 初期条件 といいます。例えば、解析対象が環境温度 25 ℃ の空間に放置された状態から解析をスタートする場合には、 温度 25 ℃ という初期条件を与えます。

 初期条件が特に重要となるのは非定常解析です。図5.19には 20 ℃ の空間に温度が 50 ℃ と100 ℃ の物体を置いたときの例を示しています。図に示したように最初の温度が異なれば、5分後の温度も異なったものになります。このように、初期条件が異なれば非定常解析で得られる途中経過は異なったものとなります。



図5.19 初期温度と温度の時間変化


 しかし、いずれの場合にも十分に時間が経てば、物体の温度は周囲の温度と等しい 20 ℃ まで下がります。定常解析で得られる結果は十分時間が経過したあとの状態であるため、定常解析では初期条件に依らず同じ結果が得られます。
 ここでは温度を例にとって説明しましたが、他の変数についても同じことがいえます。もし、定常解析で初期条件を変えたときに結果が異なるようであれば、その計算は十分な 定常状態 に達していない可能性が高いといえます。

 なお、定常解析であっても定常状態に近い初期条件を設定することで、計算時間を短縮できる場合があります。ある程度結果が予測できる場合にはその値に近い初期条件を設定しておくのもよいでしょう。

 次回は、「第5章 熱流体解析の基礎(5)」についてご説明したいと思います。





著者プロフィール
上山 篤史 | 1983年9月 兵庫県生まれ
大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程修了
博士(工学)

学生時代は流体・構造連成問題に対する計算手法の研究に従事。入社後は、ソフトウェアクレイドル技術部コンサルティングエンジニアとして、既存ユーザーの技術サポートやセミナー、トレーニング業務などを担当。

 

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