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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」 第2回 自由表面流解析(1)

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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」

自由表面流解析

 混相流 解析で最も利用頻度が高いものは自由表面 流解析です。気液二相流 液液二相流 気液固三相流 の様々な解析対象に適用できますし、解析結果として得られる界面挙動は可視化実験により検証することができます。

 自由表面流解析は 界面捕獲法 (Interface Capturing Method)と 界面追跡法 (Interface Tracking Method)に分けることができます。図2.1のように界面捕獲法は、界面を表す関数を移流させることにより界面挙動を解析します。界面捕獲法としては MAC(Marker and Cell)法 、Level Set 法、VOF(Volume of Fluid)法 などがあります。一方、図2.2のように界面追跡法は、界面を表す要素を変形させることにより界面挙動を解析します。界面追跡法としては ALE(Arbitrary Lagrangian and Eulerian)法 などがあります。また、粒子法(Particle Method) も広い意味で界面追跡法として考えてよいと思います。



図2.1 界面捕獲法



図2.2 界面追跡法


 両者を比較した場合、界面挙動を高精度で解析できるのは界面追跡法です。しかしながら、界面追跡法は界面の変動に合わせて 要素 を再生成する必要があること、界面が大きく変動することにより歪んだ要素が生成され、計算が不安定になることがあります(要素数を多くすればこれは回避できますが、計算負荷がさらに大きくなります)。

 現在、多くの流体シミュレーション解析ソフトウェアでは、自由表面流解析にVOF法を採用しています。その理由としては、1970年代にLos Alamos National Laboratory(米国ロスアラモス国立研究所;2013年に創立70周年を迎えた世界有数の研究所です)が開発し、公開されたプログラムコードSOLA-VOFが広く普及したこと、要素を再生成する必要がないため、プログラムが複雑にならないこと、界面が大きく変動しても計算を安定して解くことができたことなどが挙げられます。

 それでは、今回も解析事例をご紹介しましょう。井戸や温泉の汲み上げ、浄化槽などの揚水で利用されるエアリフトポンプを、界面捕獲法である MARS(Multi-interface Advection and Reconstruction Solver)法 で自由表面流解析します。

 エアリフトポンプは考案されて200年以上の歴史があります。図2.3のように下部を水面下に設置した管(揚水管)に空気を流入させると、管内の水が空気と混合し、比重が小さくなり上に押し上げられます。このような原理で揚水します。構造が簡単で、故障が少ないため、現在でも様々な分野に利用されています。揚水量は空気流入量、浸水深さ、揚水高さから経験式で求まりますが、目的により曝気(エアレーション)を促進する場合と、促進しない場合があります。そのため、揚水管内の気液二相流の流動様式(図2.4をご参照ください)を把握する必要があります。可視化実験が実施できればよいのですが、様々な制約により実験できないこともあり、流体シミュレーション解析により流動様式が把握できれば有効です。



図2.3 エアリフトポンプ

 


図2.4 管内の気液二相流の流動様式


 今回、解析したポンプは図2.5のように揚水管(5 cm幅矩形)と送気管(2 cm幅矩形)で構成されています。送気管先端には空気の流入口4ヶ所を千鳥配置で設けています。このポンプを1m 浸水させて水面から10 cm高い位置の容器に水を汲み上げます。なお、空気量は流入口1ヶ所あたり25 L/minで0.1秒毎に流入させます。 図2.6は解析結果です。気液界面を等値面として可視化しました。空気が混合した水が揚水され、水しぶきとなって容器に注水される様子が再現されています。図2.7は揚水管内の中心断面における気液分布図です。青色が水を表しています。この図から、私は揚水管内がスラグ流だと判定しますが、いかがでしょうか。



図2.5 解析したポンプ

 



図2.6 等値面図


 


図2.7 気液分布図


 次回はVOF法について詳しくご説明します。





著者プロフィール
岡森 克高 | 1966年10月 東京都生まれ
慶應義塾大学 大学院 理工学研究科 応用化学専攻 修士課程修了
日本機械学会 計算力学技術者1級(熱流体力学分野:混相流)

日本酸素(現 大陽日酸)にて、数値流体力学(CFD)プログラムの開発に従事。また、日本酸素では営業技術支援の為に商用コードを用いたコンサルティング業務もこなす。その後、外資系CAEベンダーにて技術サポートとして、数多くの大手企業の設計開発をCFDの切り口からサポートした。これらの経験をもとに、現職ソフトウェアクレイドルセールスエンジニアに至る。

 

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