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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」 第11回 粒子追跡解析(5)

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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」

粒子追跡解析(5)

 今回は粒子シミュレーション解析の1つである粒子追跡法 (Particle Tracking Method)における粒子の液化をご説明いたします。

 粒子の液化を解析する方法は大きく分けて2つあります。1つ目の解析方法は図11.1のように液膜に変換する方法です(本コラムでは液膜モデルと呼びます)。液膜モデルでは粒子が壁面で液化して生じる液膜の物性( 密度 粘度 )と液膜の高さを考慮し、壁面上を移動する液膜を解析します。壁面で液膜に変換した粒子は消滅させ、それ以上は追跡しません。 表面張力 接触角 を考慮しませんので液膜の分裂や結合の解析には適していませんが、計算負荷が小さいという利点があります。



図11.1 液膜モデル
 


 図11.2は液膜モデルの解析事例です。斜めに置いた黒色の板(50mm×40mm)に、緑色の粒子(粒径100μm)をノズルで噴霧し、板上で液化させて塗布しています。図11.2のように塗布液膜の厚さは1mmオーダーです。図11.3はノズル上部からの視点です。図11.3のように粒子は長軸30°、短軸10°のフラット形で噴霧しています。なお、図11.2と図11.3は時間を500倍遅くして動画作成しています。このように薄く広がる液膜の様子を解析するのに、液膜モデルは適しています。近年では、自動車の直接燃料噴射式エンジンの解析に広く利用されています。



図11.2 液膜モデルの解析事例
 



図11.3 ノズル上部からの視点


 2つ目の方法は本コラムの第2回~第6回で紹介している自由表面流解析と組み合わせる方法です。図11.4のように粒子が壁面や液面に付着した場合に、粒子から液に変換します。液に変換した粒子は消滅させ、それ以上は追跡しません。表面張力や接触角まで考慮できますので、液の分裂や結合を解析できますが、液膜モデルと比較して計算負荷が大きくなります。



図11.4 自由表面流解析と組み合わせる方法

 それでは、今回も解析事例をご紹介します。半導体ウェハの枚葉式洗浄機を、自由表面流 解析(MARS法)と組み合わせる粒子追跡法で解析します。図11.5のように直径300 mmのウェハの周りを直径372 mmの円管(上部は円錐絞り)で囲い、ウェハ面から45 mmの高さに洗浄水の噴霧ノズルを設置します。また、上部から0.5 m/sで送風し、ウェハと円管の間から洗浄液を下部へ排出します。

 


図11.5 枚葉式洗浄機

 

 噴霧ノズルは1流体ノズルで粒径50μm、噴霧流量は0.50 kg/s(30 L/min)、噴霧速度を15 m/sとします。図11.6は上部視点0.004秒後の噴霧の様子(噴射面から35 mm位置までの累積)です。図11.6のように噴霧パターンは広がり角30°の円錐噴霧(左)と広がり角5°の楕円錐噴霧(右)の2種類とします。また、洗浄水の物性は純水に準じ、接触角は50°とします。

 


図11.6 噴霧の様子

 図11.7は円錐噴霧の洗浄水の時間変化(0.1秒間)になります。洗浄水がウェハ中央から放射状に広がっていく様子がわかります。図11.8は楕円錐噴霧の洗浄水の時間変化です。なお、図11.7~10は時間を50倍遅くして動画作成しています。

 


図11.7 洗浄水の時間変化(円錐噴霧)

 


図11.8 洗浄水の時間変化(楕円錐噴霧)  

 枚葉式洗浄機は洗浄効率を高めるためにウェハを高速回転することがあります。図11.9はウェハを2500rpm、図11.10はウェハを5000rpmで高速回転している楕円錐噴霧の洗浄水の時間変化です。図11.9、図11.10のように洗浄水が周方向にも広がることがわかります。

 


図11.9 洗浄水の時間変化(楕円錐噴霧、2500rpm)  

 


図11.10 洗浄水の時間変化(楕円錐噴霧、5000rpm)

 

 次回は粒子追跡解析の最後のコラムとして、最新の解析事例をご紹介いたします。





著者プロフィール
岡森 克高 | 1966年10月 東京都生まれ
慶應義塾大学 大学院 理工学研究科 応用化学専攻 修士課程修了
日本機械学会 計算力学技術者1級(熱流体力学分野:混相流)

日本酸素(現 大陽日酸)にて、数値流体力学(CFD)プログラムの開発に従事。また、日本酸素では営業技術支援の為に商用コードを用いたコンサルティング業務もこなす。その後、外資系CAEベンダーにて技術サポートとして、数多くの大手企業の設計開発をCFDの切り口からサポートした。これらの経験をもとに、現職ソフトウェアクレイドルセールスエンジニアに至る。

 

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