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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」 第12回 粒子追跡解析(6)

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岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」

粒子追跡解析(6)

 今回は粒子シミュレーション解析の1つである 粒子追跡法 (Particle Tracking Method)における最新の解析事例をご紹介いたします。

 重力以外の外力を流体中の粒子に加えることは従来から流体シミュレーションの解析ソフトウェアで行われていました。しかしながら、その多くはユーザー関数などを用いて粒子への外力を適用していました。最近では標準機能として粒子への外力を提供している解析ソフトウェアも増えています。

 粒子への外力として適用事例が多いものに静電気力があります。静電塗装や静電除去は様々な分野で利用されています。粒子追跡法で静電気力を考慮するには、図12.1のように 流体 の電位分布を求める必要があります。図12.1は幅60 mmの正方形内の水(比誘電率 80.4)の電位分布を、上面の中央部を0 V、下面の中央部を‐100 Vとして解析したものです。図中の矢印は電束密度を表しています。このように流体の電位分布を求めてから電荷が付加された粒子(本コラムでは電荷粒子と呼びます)を追跡します。



図12.1 流体の電位分布
 


 

静電気力(クーロン力)は外力として考慮します。図12.2は非電荷粒子の挙動を Two way coupling (流体と粒子が互いに影響を与える連成解析)で解析したものです。この粒子の境界面での 反発係数 は1です。図12.3は粒子に電荷-0.1 nC(ナノクーロン)を付加した解析です。図12.3のように上面で反発した後、静電気力により上面の中央部に引き付けられる結果となります。



図12.2 非荷電粒子の挙動

 


図12.3 荷電粒子の挙動  


 それでは、今回も解析事例をご紹介します。塗装で利用される静電スプレーガンを粒子追跡法で解析します。

 図12.4のように長さ500 mm、幅300 mm、高さ250 mmの塗装ブースに幅20 mm、高さ200 mmの20面体柱を、静電スプレーガン先端との距離が100 mmとなる位置に置いて塗装します。なお、塗着されない塗料粒子を排気するため、塗装ブースの天井面から空気を一様の 速度 0.3 m/sで流入させています。塗装ブースの床面は排気面です(グレーチングのような床面)。また、塗装ブースの全ての壁面(上下面を含みます)の電束密度を0 C/m2 、20面体柱の電位を0 V(接地電位)とします。空気の比誘電率は1.000586です。



図12.4 塗装ブース  


 図12.5のように静電スプレーガンからの空気流量は40 L/min(ノズル径10 mm)、塗料吐出量は100 g/min(塗料密度は1000 kg/m3)とします。塗料粒子の粒径は50μmです。1パーセルあたり塗料粒子が約5個となるようパーセル近似を設定しています。



図12.5 静電スプレーガン  


 ノズル先端の電位は‐50000 Vとします。また、静電スプレーガンへの塗着を防ぐため、銃身部の正面(図中の黄緑色の円環面)も‐50000 Vの電位とします。なお、20面体柱に付着した塗料粒子は消滅させ、それ以上は追跡しません。消滅させた粒子は堆積させ塗膜の厚さに換算します。塗膜の流動は考慮しません。

 図12.6は中央断面での電位分布になります(下限は-17000 Vにしています)。図中の点線は電束密度です。



図12.6 電位分布
 


図12.7、図12.8は塗料粒子の電荷がない場合の塗膜厚さ分布です(上限は10μmとしています)。図12.8のように20面体柱の側面と背面には塗膜は形成されません。

 


図12.7 正面の塗膜分布(電荷なし)
 



図12.8 背面の塗膜分布(電荷なし)


図12.9、図12.10は塗料粒子の電荷を-1.0 pC(ピコクーロン)とする場合の塗膜厚さ分布です。図12.10のように静電気力により20面体柱の側面と背面にも塗膜が形成されることがわかります。



図12.9 正面の塗膜分布(電荷あり)

 


図12.10 背面の塗膜分布(電荷あり)  


 20面体柱に付着した塗料粒子数と噴霧した塗料粒子数から塗着効率を算出します。塗料粒子の電荷がない場合は59.6 %でしたが、塗料粒子の電荷がある場合は84.5 %となり、静電塗装の効果が再現されました。なお、図12.7~12.10は時間を100倍遅くして動画作成しています。

 今回のコラムで粒子追跡法は終了です。ご紹介しましたように、粒子追跡法では 質量粒子 、反応粒子、荷電粒子、粒子の 蒸発 、揮発、液化などを考慮することができます。これにより様々な解析対象に適用が可能です。





著者プロフィール
岡森 克高 | 1966年10月 東京都生まれ
慶應義塾大学 大学院 理工学研究科 応用化学専攻 修士課程修了
日本機械学会 計算力学技術者1級(熱流体力学分野:混相流)

日本酸素(現 大陽日酸)にて、数値流体力学(CFD)プログラムの開発に従事。また、日本酸素では営業技術支援の為に商用コードを用いたコンサルティング業務もこなす。その後、外資系CAEベンダーにて技術サポートとして、数多くの大手企業の設計開発をCFDの切り口からサポートした。これらの経験をもとに、現職ソフトウェアクレイドルセールスエンジニアに至る。

 

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