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船のCFD 3. 船体抵抗の推定(1)

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船のCFD

3. 船体抵抗の推定(1)

船に働く抵抗は、主に水の摩擦抵抗、粘性圧力抵抗、造波抵抗の3つからなります。このうち、摩擦抵抗と粘性圧力抵抗は水に粘性があることが発生原因であり、この2つをまとめて粘性抵抗と呼ぶこともあります。なお、船の世界で抵抗と言う言葉は一般に船を曳航したときの抵抗を意味します。船尾のプロペラを回して進んでいる状態ではプロペラの影響により船体の抵抗は増加しますが、これについては別途考慮することが習慣となっています。模型は水槽で曳航することで抵抗を計測することが出来ますが、実船の場合は仮に曳航したとした場合の仮想の値ということになります。


船の抵抗成分
船の抵抗成分


タンカーやコンテナ船などの普通の商船では粘性抵抗が全抵抗の大部分を占めています。また、船の水面下の形状は流線型に近いので、粘性圧力抵抗の大きさは摩擦抵抗の20~50%くらいと小さく、全体の中で摩擦抵抗の占める割合が大きいということが船体の抵抗の特徴です。乗用車の空気抵抗係数(CD値)は前面投影面積ベースで0.3程度の値であり、最も小さいものでも0.25くらいですが、船のCD値を同じ方法で定義したらこれよりも1桁小さい値になることからも船の形状が流線型に非常に近いことが分かります。


粘性抵抗はレイノルズ数に依存し、造波抵抗はフルード数に依存します。抵抗試験ではフルード数は実船と同じ値にしますが、レイノルズ数は2桁くらい小さい値となってしまうので粘性抵抗については補正を行います。実験で計測することが出来るのは粘性抵抗と造波抵抗を合わせた全抵抗なので、正しく補正を行うためには粘性抵抗と造波抵抗を分離する作業が必要になります。


下の図に示すように、速度(フルード数)が大きいほど水面の変形は大きく、造波抵抗も大きくなる傾向があります。フルード数をどんどん小さくしていくと、水面の変形は小さくなって行き、十分小さいフルード数では水面は平らと見なすことが出来るようになります。このとき造波抵抗は無視できると考えると、全抵抗から粘性抵抗を求めることが出来ます。粘性抵抗が分かれば、造波抵抗がある場合は全抵抗から粘性抵抗を差し引くことで造波抵抗を求めることが出来るというわけです。


速度(フルード数)による船の周りの流れの違い
速度(フルード数)による船の周りの流れの違い


フルード数Frは船長L、船速U、重力加速度gを用いてと定義されます。フルード数は慣性力と重力の相対的な大きさの比を表す無次元数で、フルード数が小さいときは重力の作用が相対的に大きく水面の変形が小さいと考えることが出来ます。


ところで、船の上に立って船の周りを眺めると、船の作る波は一定の形をしているので、波は船と同じ速度で進んでいると考えることが出来ます。水面波の線形理論によれば水深が十分に深いときの波の位相速度は𝜆は波長)に比例します。波は船の進行方向と一定の角度を持って進むので、波の位相速度と船速は以下の比例関係にあります。



これから、



という関係が導かれ、波長λと船長Lの比を求めると、



となります。すなわち、フルード数は船の作る波の長さと船長の比を表していると考えることも出来るわけです。


造波抵抗は無視または別途考慮するとして、CFDで船の粘性抵抗を求めるためには、水面を対称面で置き換えた計算を行います。このような流れは2つの同じ船の模型を水面で切断して背中合わせに貼り合わせたものの周りの流れと等しくなるので、二重模型周り流れ(Double model flow)と呼ばれることもあります。速度分布の計測のために風洞試験を行う場合には、実際に二重模型が使われます。



二重模型流れ


造波抵抗を含めた全抵抗を求めるためには、VOF法などを用いた自由表面計算が必要になります。自由表面計算の計算負荷は大雑把に言って、二重模型周り流れの計算の10倍くらいになります。


次回以降、二重模型周り流れの計算とVOF法による自由表面計算の実際の例を紹介していきます。



VOF法による船体周りの自由表面計算の例





著者プロフィール
川村 隆文 | 1970年 東京生まれ
1993年 東京大学工学部船舶海洋工学科卒業
1995年 東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻修士課程修了
1998年 博士(工学)の学位を取得

デンマーク国際数値流体力学研究所(ICCH)研究員、運輸省船舶技術研究所研究官、東京大学大学院工学系研究科講師、東京大学大学院工学系研究科准教授などを経て2010年から株式会社数値流体力学コンサルティングの代表を勤める。専門は数値流体力学、船舶流体力学、プロペラなどの流体機械、キャビテーションなど。

 

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