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船のCFD 6. プロペラの性能の推定(1)

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船のCFD

6. プロペラの性能の推定(1)

一般的な船は水面下にあるプロペラを回転させることで推進力を得ています。船のプロペラの羽根の幅が広く、羽根が細い飛行機のプロペラとは見た目が少し異なるので、スクリューと呼ばれることもありますが、本質的には同じものなので専門家はどちらもプロペラと呼びます。プロペラというと、細い羽根がくるくる回るというものというイメージを持っている人が多いと思います。しかし、プロペラという言葉はもともと「推進させるもの」という意味であり、形ではなくて機能を表す言葉です。ですので、プロペラ型風車と呼ぶのは正しいですが、風車のプロペラというのはおかしな表現になります。また、ヘリコプターの上で回っているものは、飛行機でいうと推進器というより翼にあたるものなので、プロペラと呼ぶのは間違いで、回転翼またはローターと呼ぶのが正しいです。


船のプロペラの方が飛行機のプロペラより幅が広いのは、主にキャビテーションに対する対策のためです。プロペラの羽根は両面の圧力差から推力を生み出しますが、幅が狭い羽根で大きな推力を出そうとすると、大きな圧力差が必要になって、圧力が低い側で水が水蒸気に変わってしまいます。これがキャビテーションと呼ばれる現象で、効率の低下や、騒音・振動、羽根の損傷など様々な問題の原因になります。


船のプロペラと飛行機のプロペラ

船のプロペラと飛行機のプロペラ
船のプロペラと飛行機のプロペラ


船のプロペラは、決められた速度で船を走らせるために十分な推力を出すこと、十分な強度持っていて壊れないこと、振動や騒音が許容範囲内にあることと言った制約条件を満たした上で、回すために必要な仕事ができるだけ小さいこと、すなわち効率が高いことが求められます。


ところで、プロペラは水を後方に向かって加速することで推力を発生しますが、このことによって必ず損失が発生します。人間が地面を歩いたり、車のように車輪を駆動したりして推進するときには地面は動きませんが、船のプロペラが水をかくと水は後ろ向きに動いてしまいます。蹴ることにより後ろ向きに動いてしまうベルトの上を歩いているようなものと考えると分かりやすいかもしれません。この損失のため、プロペラの理想効率は1にならず、一般に0.7~0.9くらいの値になります。理想効率は速度と推力およびプロペラ直径の関係で決まり、速度が大きいほど、推力が小さいほど、またプロペラ直径が大きいほど1に近づきます。


船のプロペラは船尾で作動して、船体とプロペラは相互に影響を及ぼし合うのですが、プロペラが単独で作動するときの性能であるプロペラ単独性能がまず基本になります。プロペラの単独性能は、水槽試験では下の図のような装置を使って計測されます。プロペラの縮尺模型を一定回転数で回転させながら一定速度で前進させて、推力とトルクを計測します。


プロペラ単独性能試験
プロペラ単独性能試験


このとき、プロペラが水面に近すぎると波ができて、プロペラ性能に影響が出てしまうため、プロペラを十分深く沈めた状態で計測を行います。また水槽が狭いと壁の影響が出てしまうので十分に大きな水槽で実験を行う必要があります。


実船のプロペラ直径は1m以下から最大で10mくらいと様々ですが、水槽試験用の模型プロペラ直径はいつも200~250mmくらいの標準的な大きさにします。つまり、縮尺は実機の大きさによって異なるわけです。水槽や計測器は扱える模型の最大の大きさが決まっており、その範囲内でできるだけ大きな模型を使った方が精度を上げやすいというのがその理由です。同じ模型プロペラを使って、単独性能試験だけでなく、キャビテーション試験や、船体の模型に取り付けた状態で自航試験も行われる場合もあります。


下に実際の水槽試験用の模型プロペラの写真を示します。水槽試験用の模型プロペラはアルミのかたまりから削り出して製作するので、かなりコストが掛かります。3Dプリンティングで製作することも検討されていますが、精度と強度が不十分なのでまだ普及していません。そのため、途中の検討はCFDで行って、最終的な確認を水槽試験で行うという場合が多いです。


次回はCFDで実際にプロペラ単独性能を推定した例を紹介します。


内航船の水槽試験用の模型プロペラ(直径は240mm)[1]
内航船の水槽試験用の模型プロペラ(直径は240mm)[1]


[1] 内航船用固定ピッチプロペラの開発,川北千春,白石耕一郎,藤沢純一,澤田祐希,新川大治郎,日本船舶海洋工学会講演会論文集第24号,pp. 169-174, 2017





著者プロフィール
川村 隆文 | 1970年 東京生まれ
1993年 東京大学工学部船舶海洋工学科卒業
1995年 東京大学大学院工学系研究科船舶海洋工学専攻修士課程修了
1998年 博士(工学)の学位を取得

デンマーク国際数値流体力学研究所(ICCH)研究員、運輸省船舶技術研究所研究官、東京大学大学院工学系研究科講師、東京大学大学院工学系研究科准教授などを経て2010年から株式会社数値流体力学コンサルティングの代表を勤める。専門は数値流体力学、船舶流体力学、プロペラなどの流体機械、キャビテーションなど。

 

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