Cradle

 

投稿一覧

もっと知りたい! 熱流体解析の基礎70 第7章 乱流計算:7.2 直接数値シミュレーション

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
もっと知りたい! 熱流体解析の基礎

7.2 直接数値シミュレーション

 乱流 の解析を行う際に、最も確実でわかりやすい方法は 基礎方程式 を一切モデル化せず、そのまま解く方法です。このような計算手法を 直接数値シミュレーション、またはその英語表現(Direct Numerical Simulation)の頭文字を取って DNS といいます。DNSは基礎方程式に手を加えないという点では明確な手法ですが、その計算を実現することは容易ではありません。

 その理由には大きく二つあります。一つは高い空間解像度、すなわち極めて細かい メッシュ が要求されることです。前回 エネルギーカスケード によって小さなスケールの渦が生成されることを説明しましたが、DNSではこの最小スケールのを解像できるほど微細なメッシュが必要となります。

 詳しくは後述の もっと知りたい で触れますが、流れ場の レイノルズ数 Re である場合に、流れ場の代表スケール L と最小の乱れスケール η との比 L/η Re3/4に比例することが知られています。このことはレイノルズ数が高いほど、大きなスケールからより小さなスケールの乱れが生成されやすく、流れ場に存在する乱れのスケールが幅広くなることを示しています。

図7.3は異なるレイノルズ数で噴出される煙を示した模式図ですが、レイノルズ数が低い場合には比較的大きな渦構造となる一方で、レイノルズ数が高い場合には微細な渦構造を伴うようになります。



図7.3 異なるレイノルズ数の噴煙


 計算においては、解析領域 は代表スケール L と同等か、もしくはそれより大きくなければなりません。一方、メッシュは最小スケールの乱れを解像できるように、その乱れよりも小さいサイズである必要があります。そのため、3次元解析でそれらの条件を満たそうとすると、そのときのメッシュ数は少なくとも (Re3/4)3 = Re9/4 と見積もられます。これをいくつかの流れに適用した場合、おおよそのメッシュ数は図7.4のようになります。



図7.4 レイノルズ数とメッシュ数の関係


 そして、もう一つの理由は 非定常解析 が必要となる点です。乱流は時間的な変動を伴う流れであり、厳密には 非定常流れ となります。乱流モデル と呼ばれるモデル化された解法でも非定常解析が必要なものはありますが、DNSはメッシュが細かい分、非定常解析で要求される 時間間隔 も小さなものとなり、解析は一層困難になります。

 図7.4に示したメッシュ数からもわかるように、現在の計算機性能をもってしてもこれだけの規模の計算を行うことは容易ではありません。そのため、DNSは実用計算に用いられることはほとんどなく、主に乱流現象の解明や乱流モデルの開発・検証などの研究目的で用いられる手法となります。

 DNSについては技術コラム「パッと知りたい!人と差がつく乱流と乱流モデル講座」でも説明していますので、こちらも併せてご覧ください。

 もっと知りたい   代表スケールと最小スケールの比

 前回、コルモゴロフのマイクロスケール について述べましたが、今回は大きな渦の長さスケール(代表スケール)l [m] と エネルギー散逸率 ε [m2/s3] の関係を考えます。大きな渦の速度スケールを u [m/s] とすると、渦が持つ単位質量あたりの運動エネルギーは u2 [m2/s2] となります。ここで、大きな渦から小さな渦へ単位時間あたりに供給されるエネルギーは大きな渦の時間スケールの逆数に比例すると仮定すると、そのエネルギーは運動エネルギーに時間スケールの逆数 u / l を乗じた u3/l となります。さらに、小スケールの渦において供給されるエネルギーと散逸されるエネルギーが等しいと考えればという関係が得られます。この関係を用いると、大きな渦の長さスケールと最小の乱れスケール η の比は

 

 

と表すことができ、これがメッシュ数の目安の根拠となっています。





著者プロフィール
上山 篤史 | 1983年9月 兵庫県生まれ
大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程修了
博士(工学)

学生時代は流体・構造連成問題に対する計算手法の研究に従事。入社後は、ソフトウェアクレイドル技術部コンサルティングエンジニアとして、既存ユーザーの技術サポートやセミナー、トレーニング業務などを担当。執筆したコラムに「流体解析の基礎講座」がある。   

 

最後までお読みいただきありがとうございます。ご意見、ご要望などございましたら、下記にご入力ください

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ピックアップコンテンツ