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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座 第7回 7.1 DNSの概要、7.2 DNSの計算手法

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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座

乱流の計算方法(1) 直接数値計算DNS(Direct Numerical Simulation)

7.1 DNSの概要

 今回から 乱流 の計算方法についてお話しします。乱流の計算方法は大きく3つあります。それは 直接数値計算(Direct Numerical Simulation: DNS) レイノルズ平均モデル(Reynolds-Averaged Navier-Stokes: RANS) ラージエディーシミュレーション(Large-Eddy Simulation: LES) です。その中でまずDNSについて説明します。

 DNSは 流体 の運動方程式である「 ナビエ・ストークス方程式 」を「直接解く」ために、モデル化を行わない計算方法とよく言われます。しかし、第6回でご説明したように流体の運動方程式自体に「粘性力は速度差に比例する」というモデルを含んでいますので、厳密にはモデル化を含みます。それでも、乱流に関しては全くモデル化を行っていませんので、その部分は「直接解く」ことになり、渦の最小サイズ( コルモゴロフスケール )を捉える メッシュ を使用した計算が必要となることから、一般には大規模な計算となります。また、乱流は本質的に非定常な現象であることから、計算は非定常解析となり、計算時間がかかります。そのため、DNSを解析ツールとして実用的に活用することは難しいのですが、乱流の性質を調べる研究にはDNSが大いに活用されています。つまり、実測では を捉える測定をすることは非常にコストがかかり、また実験できる条件も限られますが、解析であれば実験よりも条件などで自由度の高い計算が可能で、計算領域内の 流速 圧力 など、すべての情報が手に入るというメリットがありますので、それを生かして渦の性質を調べているということです。乱流の 渦管 バーガース渦 (図7.1)というナビエ・ストークス方程式の 厳密解 に相似な速度分布を示すということは、DNSで明らかにされている事実のひとつです。バーガース渦では、図のように流れが中心に向かい、それが両側に広がる流れになっています。この向かってくる流れと広がる流れの効果が流体の 粘性 の効果とバランスして渦管を形成しています

 また、DNSは乱流のモデル化を検証する際の「見本」としても活用されます。DNSによって、様々な流れ場で実測では得られない細かい流速分布を得ることができ、乱流のモデル化に対して有用な知見を与えます。このように研究の分野では活用されているDNSですが、DNSが可能なのは工学的に興味のある解析対象に比べ低い レイノルズ数 のものに留まっているため、本当に知りたい高レイノルズ数の流れ場の乱流に関する情報を得ることができないという課題があります。また、後述するように計算方法の都合から解析対象が限定されるという課題もあります。


バーガース渦
図7.1 バーガース渦


7.2 DNSの計算手法

 DNSの目指すところは、流体の方程式であるナビエ・ストークス方程式を厳密に解き、乱流の渦管も含めた流れの運動全てを計算することです。そのため、方程式を「解く」ための計算手法には細心の注意が払われます。たとえば方程式中の 速度勾配 を評価する手法として高次精度の 差分法 を用いたり、 スペクトル法 という三角関数の級数で表す厳密に勾配を評価できる手法を用いたりします。それは、もし勾配を算出する手法の精度が低く、誤差が大きくなってしまうと、誤差の中に乱流の渦運動が埋もれてしまうからです。しかし、それらの高精度の手法はどんな流れ場でも使用できるものではない、というのが難点です。高次精度の差分法は勾配を計算する点の隣のデータだけではなく、何点も離れた点のデータを必要としますが、壁などの領域の境界近くでは外側の情報がなく、必要な計算データが確保できないため、低い精度の差分になってしまいます(図7.2)。スペクトル法は三角関数で表現できるように、流れ場が周期的であることが前提となるため、解析対象は非常に限られます。また、DNSでは流入条件の与え方が難しいです。DNSでは平均場ではない瞬時の流れ場を計算するため、流入条件も瞬間の分布が必要となりますが、実測でもしない限り、適切な流入条件を与えることは難しいです。このようにDNSの実行には、計算規模以外にも様々な困難が伴います。

 商用の流体解析ソフトでは、勾配の計算手法として、高次精度の差分法やスペクトル法は用意されていないことが一般的です。そのため、多並列の計算環境を用意して、大規模なメッシュでDNSと同じナビエ・ストークス方程式を解いたとしても、細かい渦管を捉えた精緻な計算をすることは難しいのが実状です。


高次精度差分法の問題
図7.2 高次精度差分法の問題





著者プロフィール
伊丹 隆夫 | 1973年7月 神奈川県出身
東京工業大学 大学院 理工学研究科卒業
博士(工学)

大学では一貫して乱流の数値計算による研究に従事。 車両メーカーでの設計経験を経た後、大学院博士課程において圧縮性乱流とLES(Large Eddy Simulation)の研究で学位を取得し、現職に至る。 大学での研究経験とメーカーの設計現場においてCAEを活用する立場という2つの経験を生かし、お客様の問題を解決するためのコンサルティングエンジニアとして活動中。

 

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