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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座 第6回 6.1 乱流現象の特徴と計算の難しさ、6.2 乱流モデルと粗視化

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パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座

6.1 乱流現象の特徴と計算の難しさ

  流体解析 は難しい、その中でも 乱流 の計算は特に難しいと言われます。それはなぜでしょうか。流体 の方程式が複雑だからでしょうか?それとも方程式を「解くこと」が難しいと言っているのでしょうか? もちろん、そのどちらも簡単なものではありませんが、もっと大きな理由がほかにあります。それは乱流現象の特徴に起因するものです。第3回と第4回のコラムで乱流( 渦管 )は速度差が元で発生し、発生した渦管が別の渦管の発生を誘発するので、次々に渦管が発生するということをお話ししました。そのとき、自分より小さな渦管を誘発すると書きました。ここがポイントです。つまり、乱流ではそのメカニズムの性質上、捉えられなければいけない現象(渦管)のサイズが「際限なく小さくなる」、というところに乱流計算の難しさがあります。なぜ、それが問題になるのかと言うと、際限なく小さくなる渦管をシミュレーションで再現するには、無限の計算メッシュ が必要になってしまうためです。ちなみに、際限なくとは言っても、コルモゴロフ長 と呼ばれるサイズが渦管の最小サイズなのですが、それでもすべての渦管を捉えるメッシュを用意することは現実的に不可能です。

6.2 乱流モデルと粗視化

 際限なく小さくなる渦管に応じて、計算のメッシュを用意することは現実的には不可能ですので、なんらかの対策が必要です。その対策が「 乱流モデル 」です。乱流モデルを導入することによって、メッシュサイズで捉えることができない小さい渦管の効果をモデルとして取り込みます。こうすると必要なメッシュサイズが有限となりますので、現実的な計算が可能となります。このような処理を「 粗視化 」と言います(図6.1)。


渦管の粗視化
図6.1 渦管の粗視化


 実はこの粗視化は乱流計算特有のものではなく、流体の 基礎方程式 を構築する際にも使われています。流体の基礎方程式とは、いわゆる ナビエ・ストークス方程式 です。その中に流体の粘り気による効果(粘性力)を表す部分がありますが、これも流体の運動を「粗視化」した結果なのです。粘性力についてもう少し詳しく見てみましょう。

 流体の運動の最小単位は、本来分子レベルのものです。これを有限に分割した計算メッシュで計算するためには、分子レベルよりも大きなサイズで運動を表現する必要があります。そのため、流体運動を「分子の塊」で表現することにしました。分子間力や分子の熱運動などの分子1つ1つの運動を考えるのではなく、まとまった分子の塊同士で相互作用を方程式上に表現するということです。それが「粘性力は速度差に比例する」というモデルです。このモデルは水の上に浮かべた板を手で動かすことで実感できます。ゆっくり板を動かすと動かす力が小さくて済みますが、速く動かそうとすると手に掛かる力は大きくなります(図6.2)。この粘性力モデルのすごいところは、ほとんどの流れ場で用いることができる普遍的なモデルだというところです。


粘性力のモデル化
図6.2 粘性力のモデル化


 乱流モデルにおいても、 粘性 の考え方と同様に速度差に「 渦粘性係数 」を掛けたモデルが考案され、他にも様々なモデルが提案されていますが、残念ながら粘性力のような普遍的なモデルは今のところ存在せず、計算内容に応じてモデルを使い分けているのが実情です。前述の際限なく小さくなる渦管の存在と、この乱流モデルが定まらないということが乱流の計算を難しくさせています。もし普遍的な乱流モデルが存在すれば、乱流の計算も難しくないものになるのかもしれません。






著者プロフィール
伊丹 隆夫 | 1973年7月 神奈川県出身
東京工業大学 大学院 理工学研究科卒業
博士(工学)

大学では一貫して乱流の数値計算による研究に従事。 車両メーカーでの設計経験を経た後、大学院博士課程において圧縮性乱流とLES(Large Eddy Simulation)の研究で学位を取得し、現職に至る。 大学での研究経験とメーカーの設計現場においてCAEを活用する立場という2つの経験を生かし、お客様の問題を解決するためのコンサルティングエンジニアとして活動中。

 

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