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建築デザイナー必見!ビル風コラム 第1回:「風は気まぐれ。時には危険、時には優しい。」

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建築デザイナー必見!ビル風コラム

1.1 人と風との関わり合い

風神
図1 風神


 風は古来より人々の生活や文化に深く関わってきました。 日本全国には「風」(又は風に関連する事柄)の文字が入った地名が数多くあったり(例えば、石川県志賀町の風無地区。ここは風が吹かないのではなく、逆に風が強いため災害を起こすような強風が吹かないようにと名付けられた地名のようです。)、「風が吹けば桶屋が儲かる」「風穴を開ける」といった有名なことわざや慣用句があったり、風の神様として有名な風神も存在します。国政選挙において、○○党に風が吹いた!といった表現が用いられることもありますよね。このように、私たちの生活や文化などあらゆる面で「風」は深く関わりを持っています。

1.2 強風と弱風の影響

 このように私たちの生活と切っても切り離せない「風」ですが、具体的にはどのような影響が出てくるのでしょうか?風による影響といえば台風や爆弾低気圧、春一番や木枯らし一号などの強風による風害をイメージされるかもしれませんが、最近では特に暑い季節の弱すぎる風の影響も大きな問題となっています。ここでは具体例を挙げて全体を見てみましょう。


強風弱風相関図
図2 強風弱風相関図


 図2は地域ごと場所ごとに、吹きやすい風の強さと起きやすい現象やその状況を表す「風の強弱」と「現象・状況」の相関になります。

 縦軸は地域(マクロエリア)別の風の強弱を表しています。湾岸地域は全体的に風が強いですが、内陸部の盆地は逆に全体的に風が弱いです。横軸はもっと狭い場所(ミクロエリア)別の風の強弱を表しています。高層建物の角部付近の強風領域や密集した建物間の弱風領域等です。

 例えば東京湾岸地域に高層ビルを建てたとします。全体的に風の強い地域ですので、そこに高層ビルによる強風領域が発生すると「強すぎる風」のミクロエリアが出来てしまいます。構造物の破損や人的被害が起こる可能性も高くなります。逆に内陸部の盆地は風が弱い地域です。そこに建物が密集して建ち、弱風領域が発生すると「弱すぎる風」のミクロエリアが出来てしまいます。また、地域に関わらず、設計時に通風性が考慮されていない建物は極端な弱風領域=「弱すぎる風」の室内を造ってしまいます。夏季には不快度大幅アップです。

 図3のように「強すぎる風」や「弱すぎる風」は、人々の生活にさまざまな問題を生じさせる可能性が高いので、明らかに好ましくありません。
 強すぎず弱すぎない「ほどよい風」のエリアを作るのが好ましいのですが、マクロエリアで見た場合、風をコントロールするのは極めて困難ですし、風の強さは時々刻々と変化するわけですから、意図して常に「ほどよい風」を吹かせるのは無理難題です。


強すぎて弱すぎる風
図3 「強すぎる風、弱すぎる風」


 ただし、図4のようにミクロエリアの風をある程度コントロールすることは不可能ではありません。時々刻々と変化する風の強さをリアルタイムで把握することも可能です。詳しくは今後のコラムでご紹介しますが、「強すぎる風」や「弱すぎる風」のエリアや時間帯を少なくし、「ほどよい風」のエリアや時間帯を増やす。また、歩行者等が「強すぎる風」や「弱すぎる風」のエリアを意図的に避けることは可能です。

ほどよい風
図4 「ほどよい風」

1.3 「強すぎる風」や「弱すぎる風」を「ほどよい風」へ

 建物形状や配置の工夫、樹木や防風ネットなどの適切な設置によって強風を緩和させる&風を意図した場所へ導く。これを行うには「風の流れ方」「風の力の掛かり具合」を把握することが必要です。過去の文献などを調査すれば、大まかには予想できるかもしれませんが、どんな大先生でも経験則だけでは分かりません。実際に必要な精度の情報は、風洞実験やCFD解析をしてみないと得られません。

 以下に「強すぎる風」や「弱すぎる風」を「ほどよい風」へ改善するためのCFD解析の例を紹介します。図5は建物モデルの外観、図6はその室内モデルになります。今回は建物に向かって正面から風が吹いたときの状況を解析し、建物周辺や室内の風の強さや向きを確認してみます。


解析事例


 図7は歩行者レベルの風の強弱と風向を示した室外の解析結果です。左半分は樹木がある状態、右半分は樹木がない状態です。樹木による防風効果により右半分に比べて左半分の風速が小さくなっていることがわかると思います。


屋外の風分布
図7 室外の風分布(歩行者レベル)


 次に室内の状況ですが、図8は室内の風の強さから各位置に人が居た場合の体感気温を示しています。ここでは -1 (℃) / 1 (m/s) で計算しています。左右両方とも窓を開放している状況ですが、左半分は欄間がある状態、右半分は欄間がない状態です。欄間による通風効果で左半分はほどよい風が室内を吹き抜けていますが、右半分は窓を開けているにもかかわらずほとんど無風状態です。室内では風の入口と出口とそれをつなぐ道が揃っていなければ風が吹かないためこのような結果になります。


屋内の体感気温分布
図8 室内の体感気温分布(外気温25℃)


1.4 まとめ

 風神であれば風洞実験やCFD解析を行わなくても「風の流れ方」「風の力の掛かり具合」が分かるかもしれませんが、それを我々にこっそり教えてくれることはないでしょう。風神は、時には恐ろしく、時には優しく(心地よく)してくれる、言わばものすごく気まぐれなツンデレさんなのです。不用意に高層ビルによる強風領域を作ったりすると、大きな被害をもたらすような悪さをしてくるかもしれません。逆に建物を密集させすぎて弱風領域を作ったりすると、熱が篭ってしまい、雷神を呼び寄せてしまうかもしれません。風神の気まぐれに付き合っていたら体がいくつあっても足りません。「強すぎる風」や「弱すぎる風」のエリアを減らして「ほどよい風」のエリアを増やすことが必要だと思いませんか?





著者プロフィール
松山 哲雄 | 1973年1月 新潟県生まれ
⽇本⼤学⽣産⼯学部 建築⼯学科 耐⾵⼯学専攻

1998 年に熊⾕組⼊社。技術研究所にて、⾵⼯学の基礎研究に従事。超⾼層建物の空⼒振動シミュレーション技術の開発やCFD 解析による⾵環境評価技術の普及展開等を実施。2003 年に独⽴し、WindStyle を設⽴。CFD 解析や⾵洞実験および実測調査を通して、ビル⾵問題を中⼼に⾵⼯学に関わる様々な問題を解決するためのコンサルティングサービスを展開し、現在に⾄る。 

 

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