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建築デザイナー必見!ビル風コラム 第2回:「台風と季節風」:台風の性質、季節風の性質について

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2.1 台風と季節風の違い

 南洋上で生まれ強い風や雨を伴いながら日本列島に接近してくる台風は、時に大きな被害を発生させます。台風は毎年20~30個程度発生し、そのうち日本に上陸するのは平均3個程度ですが、0個の時(例えば2008年)もあれば、10個(例えば2004年)の時もあります。また、台風個々の規模や通過ルートはまちまちで、日本の中でもどこで生活しているのかで台風による影響の程度は大きく異なりますし、その影響を受ける頻度にもかなり大きなばらつきが出てきます。

 一方で季節風は、簡単に言ってしまうと1年のサイクルで発生する海風と陸風です。夏はアジア大陸が暖められ、上昇気流が発生し、それに引っ張られるように太平洋の空気がアジア大陸の方へ流れるため、日本全体で見ると南東寄りの風が吹きやすくなります。反対に冬は太平洋のほうが暖かいので、そこで上昇気流が発生し、それに引っ張られるようにアジア大陸の空気が太平洋の方へ流れるため、日本全体で見ると北西寄りの風が吹きやすくなります(図1)。そして、季節風は毎年同じようなパターンを繰り返します。


季節風の発生メカニズム
図1 季節風の発生メカニズム


2.2 季節風の影響

 日本全体で見ると季節風は概ね図2に示すように吹いています。ただし、人間が生活する地表面付近では地形の影響を大きく受けるため、各地の風向風速計の観測値は必ずしも夏は南東、冬は北西の風向になるとは限りませんが、東京管区気象台の風向頻度分布(図3)について見てみると、概ね全体平均的な季節風の特性を捕らえているようです。


季節風の向きと日本列島
図2 季節風の向きと日本列島


東京管区気象台の風配図
図3 東京管区気象台の風配図(2010~14年)


 実務の現場で一般的に用いられている風環境評価は、年間当たりの強風日の発生確率を解析して、その高低でランクを判定する手法となっていますので、その地域の季節風に大きく影響されます。結果として、一般的な風環境評価は季節風に重きを置かれた答えが導き出されることになります。

2.3 台風の影響

 台風はその経路によって風向や風速が時々刻々様々に変化します。例えば、図4に示すようにある場所から見て西側を南西から北東方向に向けて台風が通過したとします。通過前は南の風ですが、接近時は南西の風、通過後は北西の風というように風向が短時間で変化していきます。また、台風の進行方向と同じ向きの風向の際は、台風の渦速度と進行速度が相まって非常に風が強くなりやすいです。逆に台風の進行方向と逆向き風向の際は比較的風が弱いことが多いです。ただし、風の強さが決まるのは周辺の地形や建物の大きさや形状や密集度による影響の方が大きいので、一概には言えないことも多いです。なかなか難しいですね。


解析事例
図4 台風の経路と風向き


 以下に市街地における風環境のCFD解析の例を紹介します。図5は秋葉原駅周辺を再現した市街地モデルになります。秋葉原駅を中心に半径400m範囲の建物および地形を大まかに再現しています。樹木や看板および電灯など建物より小さな構造物も風環境に影響を与えますが本モデルでは再現していません。なお、本モデルは2008年頃に作成したものなので、その後の建替え等によって現在の状況とは若干異なっています。今回は歩行者レベルの風向風速の状況を解析し、年間あたりの強風発生頻度分布と台風接近時における強風発生箇所を比較してみます。


秋葉原駅周辺解析モデル図
図5 解析モデル図(秋葉原駅周辺)


 図6は歩行者レベルにおける年間あたりの強風発生頻度(左図)と台風接近時の状況例(右図)を示した解析結果です。秋葉原駅前は超高層建物から低層建物までが混在し、東西南北に駅舎と高架線路も伸びており、平面的にも立体的にも非常に複雑な風が吹きやすい状況です。また、局所的には風が非常に強くなりやすい状況でもあります。年間あたりの強風発生頻度では比較的良好な風環境となるエリアであっても、いざ台風が接近してきた際、その台風の通過する経路によっては周辺エリアの中でも相対的に風が強いエリアとなりうることを示しています。


解析事例
図6 年間あたり強風発生頻度と台風接近時における強風の発生箇所の比較例(秋葉原駅前の場合)


2.4 風害が多い時期は?「春の嵐」は「台風」より怖い!?

 気象庁発表のデータによると、台風の発生が多い時期は夏季から秋季にかけてです(表1)。


表1 台風の発生数(平年値)
台風の発生数

1981年~2010年の30年平均
(注1)「接近」は台風の中心が国内のいずれかの気象官署から300km以内に入った場合を指します。
(注2)「上陸」は台風の中心が北海道、本州、四国、九州の海岸線に達した場合を指します。


 一方で東京管区気象台の風速データを調べてみると、春先の数値が大きいことが分かります。そのデータと東京消防庁の統計データ(2006年1月から2010年12月までの間に、強風・突風による事故により779人が救急搬送)を照らし合わせてみると、風害(ここでは救急搬送された事象と定義)の発生件数も他の季節に比べて春先が目立って多いことが分かります(図7)。


月別の風害による緊急搬送者数、東京管区気象台における風速
図7 月別の風害による緊急搬送者数、東京管区気象台における風速

 風害といえば台風の発生が多い夏から秋にかけての季節をイメージされるかもしれませんが、実際には春先が一番多いのです。
 この台風並みかそれ以上の被害をもたらす「春の嵐」が予想される時には、外出を控えて暴風に備えるなど、台風と同じように最大限の警戒をしましょう。





著者プロフィール
松山 哲雄 | 1973年1月 新潟県生まれ
⽇本⼤学⽣産⼯学部 建築⼯学科 耐⾵⼯学専攻

1998 年に熊⾕組⼊社。技術研究所にて、⾵⼯学の基礎研究に従事。超⾼層建物の空⼒振動シミュレーション技術の開発やCFD 解析による⾵環境評価技術の普及展開等を実施。2003 年に独⽴し、WindStyle を設⽴。CFD 解析や⾵洞実験および実測調査を通して、ビル⾵問題を中⼼に⾵⼯学に関わる様々な問題を解決するためのコンサルティングサービスを展開し、現在に⾄る。 

 

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