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建築デザイナー必見!ビル風コラム 第3回:風の特性1 基本的特性と地表面粗度の影響について

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建築デザイナー必見!ビル風コラム

3.1 自然風について

 風は私たちの生活や文化に深く関わり、災害・環境・エネルギー問題にも繋がっています。これらの問題は、例外なく自然風の性状が関係してきます。
 自然風は大地形や小地形の起伏の影響を受けるのはもちろんですが、図1に示すように建物や樹木などの影響も大きく受けます。地上付近ほど風は乱れ、瞬間的に風向や風速が大きく変動することは想像に難しくないと思います。一方、風速の時間平均値は上空ほど大きく、地上付近ほど小さくなる傾向にあり、一般的にはべき指数分布で近似されます。ただし、実際には特定の場所において時間平均化されただけでは、地上付近ほど歪な分布をしており、風向も一定ではありません。時間的にも空間的(それもかなり広い)にも平均化されて初めてべき指数分布で近似できるような性状となります。また、このべき指数分布で近似されている曲線(図1の点線)は厳密には平均風向のベクトル平均風速の大きさ表しているわけではありません。これまでの観測結果(プロペラ型や3杯型の2次元スカラー風速計による)に基づいていることから2次元スカラー平均風速の大きさに相当すると考えられます。すなわち、時間と面積を乗じても平均風向の流量にはなりません。


自然風の概念図
図1 自然風の概念図


 自然風は全方位から等しく吹くわけでも、ランダムに吹くわけでもありません。地域によっても異なりますが、特定の方位から偏って吹きやすい傾向にあるのが普通です。例えば東京都心では冬は北北西や北西、夏は南や南南東から風が吹きやすい傾向にあるようです。

 風向は一般的に16方位で表現されますが、この場合1方位あたり22.5°の角度幅があり、例えばある観測値(10分間平均)が北風とされた時、実際には真北から左右に±11.25°の範囲に平均風向値が入っていたというだけで、真北からだけ風が吹いていたことを示しているわけではありません。極端な場合、瞬間的には反転して南風の場合も有り得ます。

 通常の風環境評価では真北からの風を北風の代表として扱いますが、いかにも大雑把な感は否めませんし、平均化時間が10分というのも自然風の特性を正確に表現するには長過ぎます。では、どこまで細かく検討するべきか?の判断は難しいところですが、個人的には少なくとも方位は32方位くらいに分割し、平均化時間は30秒から1分間くらいで評価すべきと考えます。

 ちなみに32方位の場合、方位名(略字)は北(N)、北微東(N/E)、北北東(NNE)、北東微北(NE/N)、北東、北東微東、東北東、東微北、東、東微南・・・となります。

3.2 地表面粗度区分

 自然風は乱流境界層とも表現され、乱流境界層の性状は、地表面粗度(Surface roughness)に大きく影響を受けます。地表面粗度は建築物等の体積密度の大きさで表現でき、海上や海岸・田園・郊外の低層住宅街・市街・大都市などの地域カテゴリーの相違によって異なり、発達する乱流境界層の厚さや乱れの大きさを変化させます。建築分野では地表面粗度の違いをⅠ~Ⅴで区分しています(表1)。

 図2に示すように地表面粗度区分の数値が大きくなるに従い、地上付近の平均風速は弱くなります。平均風速が弱められる中で乱れが生じるため、乱れは逆に大きくなります。このような地上高さによる平均風速および乱れ強さの変化性状を「平均風速と乱れ強さの鉛直プロファイル」と呼んでいます。

 この地表付近の風速の鉛直プロファイルを近似的に表すものとして前項でも説明したように「べき法則」があります。地表面粗度区分Ⅰ~Ⅴは「べき指数(α)」の値がそれぞれ与えられ、建築基準法の施行令や建築物荷重指針では風速の鉛直プロファイルを(1)式で算定することが規定されています。

 Er=1.7(Z/ZG )α ・・・(1)

 Er:平均風速の高さ方向の分布を表す係数
 Z:高さ
 ZG :境界層高さ(図2)
 α:べき指数(図2)


表1 地表面粗度区分
地表面粗度区分


 なお、ある場所で風環境評価を行う際には、周辺の気象観測所の風観測データをそのまま対象地域に吹き込む風の性状を代表しているものとして扱うことが多いと思います。しかし、気象観測所と対象地域とで周辺状況(各風向の風上側における地表面粗度)が異なる場合、そのままでは評価結果に小さくない誤差を生じさせてしまいます。正確な評価を行うためには観測データや周辺状況について詳細に分析し、適切に地表面粗度の区分判断や補正を施す必要があります。

平均風速の鉛直プロファイル
図2 平均風速の鉛直プロファイル


3.3 地表面粗度区分の違いを考慮した補正計算例

 気象観測所と風環境評価を行う地域の地表面粗度区分が異なる際の補正について、東京管区気象台の風向風速計(旧大手町)のデータを利用した例をご紹介します。
 補正計算の手順を以下の式 (1) ~ (3) および図3に示します。

条件
東京管区気象台(旧大手町):地表面粗度区分Ⅴ
風環境評価を行う地域:地表面粗度区分Ⅳ
とした場合、

1)大手町観測所(風速設計置高さ:Zh1=74.5m)の風速を1.00とし、地表面粗度区分Ⅴに応じたべき指数α(v)(=0.35)により境界層高さZG(V)(=650m)の風速VZG(V)を(1)式より算出する。

 VZG(V) /Vzh1 = (ZG(Ⅴ) / Zh1)α(V) ・・・(1)
 VZG1(V) = 1.00×(650/74.5)0.35=2.13


補正の計算手順について
図3 補正の計算手順について


2)1)より算出された風速VZG(V)を計画地域の境界層高さZG(Ⅳ)(=550m)の風速VZG(Ⅳ)に代入する。

 VZG (Ⅳ) =VZG (V) ・・・(2)

3)風環境評価を行う地域の地表面粗度区分に応じたべき指数α (Ⅳ) (=0.27)により基準とする地上高さZh2 の風速VZh2 を(3)式より算出する。

 Vh2 / V ZG(Ⅳ) = (Zh2 /ZG (Ⅳ) )α(Ⅳ) ・・・(3)

ここでZh2 がZh1 と同じ74.5mの場合は

 Vh2 =2.13×(74.5/550)0.27=1.24


となる。この数値は風速の割増補正係数に相当します。

 以上のように、東京管区気象台(旧大手町)で観測された風速に1.24倍した風速が風環境評価を行う地域での代表風速になります。

3.4 解析例

 以下に地表面粗度区分の仮定が異なる風環境のCFD解析の例を紹介します。前回コラムでも紹介した秋葉原駅周辺を再現した市街地モデルを使って解析しています。

 図4は秋葉原駅周辺の地表面粗度区分をⅣ(左図)およびⅤ(右図)と仮定して、歩行者レベルにおける風向風速を解析した結果です。流入風の風向は北北西の設定です。左図に比べると右図は全体的に風が弱くなっていることがわかります。場所によっても異なりますが、10~30%程度風速が低下しています。また、局所的に比較(下段の図)してみると各箇所の風向が変化し、流れ方も異なっていることが分かります。


地表面粗度区分の違いによる解析結果の比較
図4 地表面粗度区分の仮定が異なる解析結果の比較(風速コンターベクトル図)


 図5は地表面粗度区分をⅣ(左図)およびⅤ(右図)と仮定した場合の歩行者レベルにおける年間あたりの強風発生頻度を示した解析結果です。図中の色は強風発生頻度の高低を表しており、日最大瞬間風速が10m/sを超えるような強風発生日が青色は37日未満、緑色は37日以上80日未満、黄色は80日以上128日未満、赤色は128日以上となります。左図に比べると右図は赤色のエリア・黄色以上のエリア・緑以上のエリアが小さくなっており、場所によっては強風発生頻度が大きく低下していることがわかります。

地表面粗度区分の違いによる風環境評価結果の比較
図5 地表面粗度区分の仮定が異なる解析結果の比較(年間あたりの強風発生頻度)

 地表面粗度区分が1段階異なるだけでこれだけ結果が変化します。地表面粗度区分の判断は極めて重要です。また実際にはおのおの地域がⅠ~Ⅴにきれいに分類できるわけではありません。むしろほとんどの地域がⅡ~Ⅲの間とか、Ⅲ~Ⅳの間とか中途半端な場所に相当します。判断に迷うような場合は安全側に考えるよう心掛けましょう。

 ちなみに建築基準法告示で示されている地表面粗度区分の判断規定は、守らなければいけない最低基準であって、設計上の必要条件を満足するものとは限りませんので、建築デザイナーはご注意を。特に外装材の設計の際には専門家の判断を参考にするなど十分安全側に設定してください。

3.5 まとめ

 今回は自然風について基本的な特性と地表面粗度の影響について説明しましたが、次回はビル風や地形風について説明します。





著者プロフィール
松山 哲雄 | 1973年1月 新潟県生まれ
⽇本⼤学⽣産⼯学部 建築⼯学科 耐⾵⼯学専攻

1998 年に熊⾕組⼊社。技術研究所にて、⾵⼯学の基礎研究に従事。超⾼層建物の空⼒振動シミュレーション技術の開発やCFD 解析による⾵環境評価技術の普及展開等を実施。2003 年に独⽴し、WindStyle を設⽴。CFD 解析や⾵洞実験および実測調査を通して、ビル⾵問題を中⼼に⾵⼯学に関わる様々な問題を解決するためのコンサルティングサービスを展開し、現在に⾄る。 

 

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