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建築デザイナー必見!ビル風コラム 第4回:風の特性2 ビル風、地形風、樹木の影響について

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建築デザイナー必見!ビル風コラム

4.1 ビル風

 自然風は大きな視点で見た場合、その地域全体の地形の起伏と建物や樹木などの体積密度に大きく影響を受け、上空から地上に近づくに従いカーブを描くように徐々に風が弱くなります。このカーブは海岸や沿岸地域ではゆるく、田園地域⇒郊外住宅地⇒市街地⇒大都市といったように建物が多く大きくなっていくに従いどんどんきつくなっていきます。

 一方、個々の建物周りのようなより小さな視点で見た場合、風は局所的に強くなったり弱くなったり、向きも不安定で非常に複雑に吹いています。この地上付近において局所的に強弱し複雑に流れる風のうち、まずはビル風について解説していきます。主なビル風現象を図1に示します。

 ビル風は平均風速の増大に起因するものと、乱れエネルギーの増大に起因するものに大別されます。

 平均風速の増大の基本的な原理は、広い領域から狭い領域を風が吹き抜けようとすると、流れは収束され、その流れ場の中で風が加速されることです。

 ただし、屋外空間においては他にも風の逃げ道がたくさんあるので、狭ければ狭い場所ほど風が強くなるわけではありません。例えば、谷間風と呼ばれる建物間に発生する強風現象は2棟間の距離や配置に大きく影響をうけます。適度な棟間距離では1棟の場合以上強い風が吹き抜けますが、棟間距離が徐々に狭くなると風が吹き抜けにくくなり、逆に風速は弱まります。同様にピロティの場合は、建物壁面とピロティの見付面積の割合に影響を受けるため、ピロティの見付面積が適度な大きさの場合は強い風が吹き抜けますが、極端な話、針の穴のように狭かったら強風は生じません。

 乱れの増大の基本的な原理は、建物にぶつかった風が上下左右に逃げ道を探して流れ、建物側面や屋根面へ吹き抜ける時に生じる剥離や渦によるものです。時々刻々と風の強さや向きを変化させます。

主なビル風現象
図1 主なビル風現象

4.2 地形風

 ここで地形風とは、ビル風が「個々の建物」による影響を受けて発生するのに対して「個々の小地形」による影響を受けて発生する強風乱流現象であると定義します。

 地形風による風速の増大の基本的な原理はビル風の場合と同様で、傾斜地や崖などの地形の影響で流れは収束され、その流れ場の中で風が加速されることです。特に角度が急な崖沿いでは、崖にぶつかった風が崖上を吹き抜ける際に剥離流や渦を発生させ、風速を増大させるとともに風下側の風を乱します(図2)。

傾斜地の風速増幅の概略図
図2 傾斜地の風速増幅の概略図

4.3 解析例

 以下に傾斜地の影響による風速増大を検討したCFD解析の例を紹介します。図3に解析モデルを示します。戸建が平坦な地形にある(傾斜地を考慮しない)場合と傾斜地の上にある(傾斜地を考慮する)場合を設定しました。傾斜地の角度は30°、傾斜地の下と上の高低差は30m、戸建高さは6mです。戸建周辺の風向風速の状況を解析し、風の強さや流れ方を比較してみます。

解析モデル図(傾斜地有り無し)
図3 解析モデル図(傾斜地有り無し)

 図4は戸建周辺の傾斜地を考慮しない場合(左図)と傾斜地を考慮した場合(右図)の風速比コンター&ベクトルを示しています。流入気流は地表面粗度区分Ⅲ相当とし、風速比は傾斜地を考慮しない場合の戸建高さの流入風で基準化しています。傾斜地を考慮した場合の戸建周辺の風速比は傾斜地を考慮しない場合に比べて、全体的に大きくなり、強風領域の形も明確になっています。戸建の設置高さが30m高いため、その高さの流入風の大きさの違い((36m/6m)0.2 =1.43 倍)もありますが、傾斜地による風速の増大の影響も重なって、戸建の風上側軒端部では風速が約2倍になっています。

傾斜地での風速増幅
図4 戸建周辺風速比の傾斜地影響検討例

4.4 樹木の影響

 樹木も建物や地形などと同様に風の吹き方に影響を及ぼしますが、その特性をうまく利用することで、防風対策や、風の流れ方を制御することが出来ます。

【風速の低減効果】
 風速低減効果を利用した植樹はビル風対策の最も代表的なものです。ビル風現象により強風が発生する箇所付近に適切な樹木配置をすると、強風を緩和させることができます。ただし、樹木配置によっては強風をさらに強くしてしまうこともあるので、あくまで「適切な」樹木配置の場合です。

 なお、ビル風対策で利用する樹木は頻繁に強風を受け続けるため、乾燥して枯れたり、思ったように育たなかったりすることがあります。また、枝折れや倒木の危険性も高くなります。 ビル風対策に利用する樹木は乾燥に強い樹種の選定や倒木防止のための養生が必要な場合があります。また、適切な樹木配置・効果的な対策には事前のシミュレーションが必須となります。

【風の流れ方調整効果】

 樹木の配置を工夫することで、ある程度は風の流れ方を制御することも可能です。生垣やボスケの配置調整を行い、風を吹かせたくない箇所の風を遮ったり、風を吹かせたい箇所に風を導いたりすることも出来ます。個人の住宅レベルでも工夫次第では「小さな風の道」を造る事が可能です。

 これまでビル風というと強風による風害だけがクローズアップされてきましたが、今後は風の流れ方を意図的に造り出すような「風環境デザイン」が注目されていくと思います。

4.5 まとめ

 今回は自然風について比較的小さな視点で説明しました。自然風の特性はマクロ的な要素とミクロ的な要素が重なり合い、いかにも複雑で理解するのが難しいと思われるかもしれませんが、一つ一つの現象を選り分けて見ていくと、それほど複雑でも難しいものでもありません。自然風の特性は一般的にはまだ広く正しく知られているとは言えませんが、CFD解析等を通じて、より多くの人たちに知られてゆけば、防災上のメリットだけではなく、我々の生活に役立つような効果的利用にも繋がっていくと考えます。





著者プロフィール
松山 哲雄 | 1973年1月 新潟県生まれ
⽇本⼤学⽣産⼯学部 建築⼯学科 耐⾵⼯学専攻

1998 年に熊⾕組⼊社。技術研究所にて、⾵⼯学の基礎研究に従事。超⾼層建物の空⼒振動シミュレーション技術の開発やCFD 解析による⾵環境評価技術の普及展開等を実施。2003 年に独⽴し、WindStyle を設⽴。CFD 解析や⾵洞実験および実測調査を通して、ビル⾵問題を中⼼に⾵⼯学に関わる様々な問題を解決するためのコンサルティングサービスを展開し、現在に⾄る。 

 

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