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建築デザイナー必見!ビル風コラム 第6回:「ビル風1」:強風現象と乱流現象

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建築デザイナー必見!ビル風コラム

6.1 ビル風とは

 ビル風は、1970年代に霞ヶ関ビルや世界貿易センタービルなど、国内に超高層ビルが相次ぎ建設された頃に社会問題化されるようになってきました。周辺の建物や木々などより際立って高い建物が建設されると、その建物の周辺では風が強くなったり乱れたりするようになります。このような強風および乱流現象を一般的には「ビル風」と呼んでいます。ビル風の強さの程度や発生箇所は建物の形状や配置、その周辺の地形や建物や樹木の状況などに大きく依存します。また、風の流れ方は様々なパターンが存在し、かつ非常に複雑な現象です。


ビル風


 Q:ビル風は何階建て以上の建物に起因して発生するのか?
 A:1階建て以上


 ビル風は何階建て以上の建物に起因して発生し、何階建て以下では発生しないというものではありません。中層(4~9階)や低層(3階以下)の建物に起因して発生することもあります。

 高層建物に起因して起こる現象と思われがちですが、例えば風を遮るものがほとんど無いような田園地帯では低層建物に起因して発生する場合もありますし、逆に高層建物が乱立するような立地条件では特定の高層建物の周辺でビル風が発生しない場合もあります。また、これまで更地だった場所に新たに建物が建設されたり、これまでより高い建物に建替えられたりすることで起こる現象と思われがちですが、これまで建っていた建物が無くなることで起こる(顕在化する)場合もあります。

 周辺の建物や樹木に対して相対的に高く、高い部分の規模が大きい建物ほど、その周辺で発生するビル風の強さの程度が大きく、発生頻度が高くなりやすい傾向が見られます。霞ヶ関ビルや世界貿易センタービルが建設された当時、その高さや規模は周辺の建物と比べると際立って大きいものでした。

 【代表的なビル風の基本現象】

 第4回のコラムでも少し触れましたが、代表的なビル風の基本現象を示します。

 
代表的なビル風の基本現象
風速が増大する現象
(強風現象)
乱れが増大する現象
(乱流現象)
剥離流 剥離領域における乱れ
吹き降ろし 縦渦
谷間風 後流域における乱れ
ピロティ風 カルマン渦
逆流 吹き上げ
街路風  


 以上についてが代表的なビル風の基本現象として様々な文献等でも一般的に示されているものですが、実際には以下のようなビル風現象もあります。

 ・風速が極端に減少する現象(弱風現象)
 ・風圧差が増大する現象(隠れビル風)
 ・風切音や笛吹音の発生現象(風騒音)
 ・手摺や看板等の振動現象(風揺れ) 等

 本コラムでは代表的なビル風現象のうち強風現象と乱流現象について解説していきます。

6.2 風速が増大する現象(強風現象)

6.2.1 剥離流

 建物に向かって吹いてくる風は建物を避けるように左右に別れて、壁や廊下伝いに流れますが、建物の隅角部まで来たところで、建物から剥がれて流れるようになります。この建物から剥がれた風は周囲の風と比べると速くなります。この現象を剥離流と呼びます。

 建物のように角を持つ物体は風の流れが剥離しやすい傾向が見られます。このような物体を流線型ではない物体「bluff body(鈍頭物体)」と呼びます。


剥離流の模式図
図1 剥離流の模式図


6.2.2 吹き降ろし

 建物に向かって吹いてくる風は、建物付近に到達すると、建物高さの60~70%付近で上下左右に分かれます。左右に分かれた風は、建物の側面を吹き降ろしながら風下側へ流れていきます。この現象を吹きおろしと呼びます。

 吹き降ろしは建物が高層であるほど発生しやすく、前述の剥離流と合わさって地上付近に非常に強い風を起こすことがあります。


吹き降ろしの模式図
図2 吹き降ろしの模式図


6.2.3 谷間風

 谷間状になった建物と建物の間、すなわち隣棟間では、風が強く吹き抜けます。これは、それぞれの建物に起因する剥離流や吹き降ろしが重ね合わさることにより生じる現象で、谷間風と呼びます。

 隣棟間に渡り廊下がある場合、地上付近以上に風が強くなりやすいため注意が必要です。また、両建物の形状が変化しなくとも、隣棟間隔や建物配置により風速の大きさが大きく異なることも谷間風の特徴です。

谷間風の模式図
図3 谷間風の模式図


6.2.4 ピロティ風

 高層建物のピロティ(貫通部)では、風が強く吹き抜けます。この現象をピロティ風(もしくは開口部風)と呼びます。

 建物壁面とピロティの見付面積の割合により、風速の強弱が大きく異なります。ピロティの見付面積が小さくなるほど風が強くなると思われがちですが、ある程度以下の面積になると逆に風は弱くなります。また、上空の風向とピロティの設置向きが同じ場合にもっとも風は強くなり、上空の風向とピロティの設置向きがズレている場合、風は強く吹き抜けないこともピロティ風の特徴です。


ピロティ風の模式図
図4 ピロティ風の模式図


6.2.5 逆流

 建物高さの60~70%付近より下方に向かう風は、風上側壁面に沿って下降し、一部は地面に沿って上空の風とは反対の方向に向かいます。この流れが逆流と呼ばれる現象です。逆流を発生させる主要因の高層建物(下図:建物A)の風上に低層建物(下図:建物B)があるような場合は、より速い流れになることも逆流の特徴です。


逆流の模式図
図5 逆流の模式図


6.2.6 街路風

 建物が密集している市街地では、風は街路に沿って吹きやすくなります。また、道路幅が広いほど風は強く吹きます。このような現象を街路風と呼びます。

 上空風と街路の向きが大きくズレている場合、風は強く吹きません。

街路風の模式図
図6 街路風の模式図

 

6.3 乱れが増大する現象(乱流現象)

6.3.1 剥離領域における乱れ

 剥離現象は流れに垂直な方向に風速が大きく変化しています。このような風速変化の大きい領域は剥離領域と呼ばれています。この剥離領域では大小様々な渦が発生するなど流れが激しく変動しています。


剥離領域における乱れの模式図
図7 剥離領域における乱れの模式図

6.3.2 縦渦

 建物高さの60~70%付近より下方に向かう風は、風上壁面に沿って下降し、地面に到達すると一部分は小さな渦を作りながら建物の左右に流れていきます。この渦現象を縦渦と呼ばれています。


縦渦の模式図
図8 縦渦の模式図

6.3.3 渦領域(後流、カルマン渦など)における乱れ

 建物の風下では風速が弱く、また風向がはっきりしません。この部分は大小様々な渦からなり、渦領域(ウェイク)と呼ばれています。

渦領域における乱れの模式図
図9 渦領域における乱れの模式図

6.3.4 吹き上げ

 建物の風下隅角部付近で、紙くずなどがくるくる舞いながら上空へと飛散してゆく現象が見られることがあります。これは吹き上げと呼ばれる現象により生じるものです。


吹き上げの模式図
図10 吹き上げの模式図


6.4 まとめ

 代表的なビル風現象のうち強風現象と乱流現象について解説しました。次回はその他のビル風現象や実際の市街地での複雑なビル風現象についてCFD解析の事例を通して解説していきたいと思います。





著者プロフィール
松山 哲雄 | 1973年1月 新潟県生まれ
⽇本⼤学⽣産⼯学部 建築⼯学科 耐⾵⼯学専攻

1998 年に熊⾕組⼊社。技術研究所にて、⾵⼯学の基礎研究に従事。超⾼層建物の空⼒振動シミュレーション技術の開発やCFD 解析による⾵環境評価技術の普及展開等を実施。2003 年に独⽴し、WindStyle を設⽴。CFD 解析や⾵洞実験および実測調査を通して、ビル⾵問題を中⼼に⾵⼯学に関わる様々な問題を解決するためのコンサルティングサービスを展開し、現在に⾄る。 

 

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