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建築デザイナー必見!ビル風コラム 第7回:「ビル風2」:その他ビル風と市街地の複雑なビル風

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建築デザイナー必見!ビル風コラム

7.1 その他のビル風現象

7.1.1 風速が極端に減少する現象(弱風現象)

 建物の風下側は風速が減少しますが、特に建物が密集しているエリアでは、建物の風下側に限らず、多くの箇所で風速が極端に減少しやすく、乱れも小さい場所では、空気が淀んでしまうことがあります。

 気温が高い季節は不快度が増し、有害物質も停滞しやすくなるため、風速が低すぎるのも良くありません。特に建蔽率の高い商業地や住宅密集地ではこういった現象が起こりやすいので注意が必要です。


弱風現象の模式図
図1 弱風現象の模式図


 弱風現象はヒートアイランド現象に関わる問題でもあり、解決策としてあえて建物を高層化することで敷地内に空間を設け、緑化したり、通風性を確保したりすることが考えられます。

7.1.2 風圧差が増大する現象(隠れビル風)

 建物の風上側壁面は風によって押される力=正圧が作用します。一方、屋根面や側壁面および風下側壁面は風によって引っ張られる力=負圧が作用します。この正圧と負圧は建物が高くなるほど、建物の規模が大きくなるほど、建物に吹き付ける風速が高くなるほど増大し、風上側壁面とその他壁面との圧力差を増大させます。

 例えば、建物の風上側と風下側に自動ドアがあった場合、同時に自動ドアが開くと一時的にピロティと同じ状況になります。瞬間的にピロティ風が発生し、その建物が高層だったり、規模が大きかったりする場合、もしくは低層で規模が小さい建物の場合でも超高層建物と近接している場合などでは、屋内に強風による被害が発生する可能性が高くなります。

 また、例えば、道路沿いに多数の建物が連なっていたとします。その内の1棟が取り壊されて更地になりました。するとそこに谷間風が吹くようになります。これは取り壊された建物の両隣の建物による谷間風のポテンシャルが、もともと風圧差という形で存在していたのですが、建物が取り壊されたことで初めて顕在化したものです。

 このような風圧差に起因する隠れビル風は市街地の中では様々な状態で存在しますので、建物が新たに建設される時だけではなく、取り壊される時にも注意が必要です。また、自動ドアなどで一時的にピロティ状態が作られるような場所でも注意が必要です。


隠れビル風現象の模式図
図2 隠れビル風現象の模式図


7.1.3 風切音や笛吹音の発生現象(風騒音)

 剥離流や谷間風などの強風現象は様々な問題を引き起こします。その中でも最近よく聞かれるのが強風時にフェンスや手摺などで使用されるパンチングパネルや格子から発生する騒音です。

 パンチングパネルはピーという笛吹き音が、格子はビーンやブーンというような風切音や振動音が発生する場合があります。ただし、騒音が発生する風向や風速が特定の範囲に限定される場合が多く、風が強く吹き付けると必ず騒音が発生するわけではありません。また、すでに各社から対策製品が販売されていますが、デザインに制約があったり、割高だったりするので、騒音が発生しやすい箇所のみ、対策製品を利用することが効果的です。


風切音や笛吹音の模式図
図3 風切音や笛吹音の模式図


 また前項で説明した風圧差によっても風騒音が発生する場合があります。屋外の風圧と室内圧の差が大きくなるとサッシの隙間からピューという音が発生する場合があります。完全に隙間を塞ぐか、逆に少し窓を開けるとこの音は鳴らなくなります。

7.1.4 手摺や看板等の振動現象(風揺れ)

 前項で説明した手摺などの格子の風騒音は格子が風によって振動することにより発生するものです。この振動は非常に小さく早く振動しているので、実際に手で触るとブーンと震えているのは分かりますが、目視で確認したことがある人は少ないかもしれません。

 強風時に大きめの看板や交通標識などは風によってユッサユッサと大きく揺れることがありますので、実際に見たことがある人も多いと思います。さほど風が強くない日でも、高層ビルの足元付近の看板だけ揺れていることもあります。

 超高層建物などの大規模な構造物は予め風揺れを考慮した設計がされていますが、看板などの比較的規模が小さな構造物は風揺れを十分に考慮していないケースが多いと思います。風揺れにより金属疲労を起こし耐久性が低下することも考えられますし、台風時には倒壊の危険性もあります。


手摺や看板等の振動の模式図
図4 手摺や看板等の振動の模式図


7.2 ビル風の基本現象の解析例

 以下にビル風の基本現象のCFD解析の例を紹介します。図5は吹き降ろしを伴う剥離流の解析結果です。建物にぶつかった風が側面へ流れ、吹き降ろしながら隅角部で剥がれ、加速しながら風下へ流れていく様子が分かると思います。


剥離流および吹き降ろしの解析例
図5 剥離流および吹き降ろしの解析例


 図6は谷間風の解析例です。谷間状になった建物と建物の間を風が加速しながら吹きぬけていく様子が分かると思います。


谷間風の解析例
図6 谷間風の解析例


図7はピロティ風の解析例です。ピロティを風が加速しながら吹きぬけていく様子が分かると思います。


ピロティ風の解析例
図7 ピロティ風の解析例

図8は逆流風の解析例です。高層建物の風上側地上付近では上空とは逆方向に風が吹いている様子が分かると思います。

逆流の解析例
図8 逆流の解析例


7.3 実際の市街地における複雑なビル風の解析例

 以下に実際の市街地における複雑なビル風のCFD解析の例を紹介します。図9は第2回のコラムでも紹介した秋葉原駅周辺を再現した市街地モデルを使用した解析結果です。設定した地表面粗度区分はⅣ、風向は北北西です。東京では冬季から春先までに北北西の強い風がよく吹きます。

 表示されている風速ベクトルは地上10mと20m高さの流入気流を水平方向に20m間隔で始点とした流線に沿って表示されています。立体空間の中の風の流れのほんの一部分を表示しているに過ぎませんが、減速しながら道路に沿って地表面付近を流れたり、中層建物の上を通り過ぎたり、超高層建物にぶつかって加速しながら吹き降ろしたり、とそれぞれが様々な流れ方をします。


秋葉原駅前のビル風の解析例
図9 秋葉原駅前のビル風の解析例


7.4 まとめ

 前回コラムよりビル風の基本現象について説明してきました。それは吹き降ろしを伴う剥離流であったり、谷間風であったり、ピロティ風であったりするのですが、実際の市街地ではそれらの現象が複雑に入り乱れて発生しており、個々の建物周りで基本現象どおりに風が吹くのはむしろ稀です。

 基本現象の組み合わせにより強風現象はより増大することがあったり、建物の相互位置関係により発生箇所が移動したりします。乱流現象もより複雑になったり、弱風になるはずの場所が強風になったり、強風になるはずの場所が弱風になったりもします。

 弱風現象や隠れビル風など、強風現象や乱流現象以外のビル風の基本現象についても説明しましたが、多くの文献やウェブサイトではビル風として説明がされていないことが多いと思います。強風現象や乱流現象は対策がされていることも多いので、結果的にはその他のビル風現象の影響を受けている人の方が多いかもしれません。特に隠れビル風は計画段階では無対策となりやすく、建物が竣工してから気が付くのがほとんどです。

 基本現象の特性を把握しておくことはとても重要ですが、実際の市街地では必ずしも基本現象どおりに風が吹いてはくれませんので、ビル風対策には周辺市街地を十分な範囲で再現した解析が必要となります。

 現実には机上検討や簡易解析と称して建物単体のデータベースや飾り程度につくろった周辺建物を入力した程度の解析で評価してしまうことも多いですが、実際のビル風の把握や対策にはほとんど役に立たないことも多いのでご注意を。どんなに偉い先生でも、どんなに熟練度の高い技術者でも周辺市街地を再現した解析無しにビル風を正確に予想することは不可能なのです。

 ちなみにこれはビル風(建物周辺の風環境)評価だけではなく、個々の建物自身に作用する風荷重の評価の際にも言えることです。現在の建築基準法に示されている設計用風荷重の算出方法は、これから設計・建設する建物を単体として考えた場合の風荷重となっています。その算出方法にはビル風の影響がほぼ考慮されていません(風速をZb以下で一定値とすることで考慮しているという説明がなされる場合がありますが、ビル風を十分に考慮するためであれば現在のZbの値では不十分ですし、Zb以下で一定値が導入された本来の理由はビル風の考慮ではありません)。建物を単体として考えた場合の風荷重がそうでない場合の風荷重より常に大きいのであれば問題はありませんが、必ずしもそうではないのが現実です。

 建築デザイナーさん、ビル風を甘く見ると痛い目に遭いますよ!





著者プロフィール
松山 哲雄 | 1973年1月 新潟県生まれ
⽇本⼤学⽣産⼯学部 建築⼯学科 耐⾵⼯学専攻

1998 年に熊⾕組⼊社。技術研究所にて、⾵⼯学の基礎研究に従事。超⾼層建物の空⼒振動シミュレーション技術の開発やCFD 解析による⾵環境評価技術の普及展開等を実施。2003 年に独⽴し、WindStyle を設⽴。CFD 解析や⾵洞実験および実測調査を通して、ビル⾵問題を中⼼に⾵⼯学に関わる様々な問題を解決するためのコンサルティングサービスを展開し、現在に⾄る。 

 

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