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建築デザイナー必見!ビル風コラム 第9回:「ビル風4」:評価方法の種類と比較

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建築デザイナー必見!ビル風コラム

9.1 評価方法の種類

 ビル風の評価方法にはいくつか種類がありますが、以下に実務において用いられてきた方法を示します。

  • (1) 村上の方法(村上教授らの提案による方法)
  • (2) 風工の方法(風工学研究所の提案による方法)
  • (3) その他の方法

 ここで「ビル風」とは「風害」や「風環境」と同義であり、ビル風評価=風害評価=風環境評価として扱われることがほとんどです。

 (1)および(2)の方法のいずれも評価対象は主に歩行者となります。家屋などの構造物や運行する電車や自動車等に対する影響評価を行う場合は別の方法が必要となります。

9.2 村上の方法

 この方法は元東京大学の村上教授らによって提案され、風の観測結果と都内住民(東京都中央区月島等)のアンケート調査結果に基づいて日最大瞬間風速と生活環境への影響を分析して作成された風環境評価尺度を利用した方法であり、現在最も一般的に用いられている風環境評価方法の一つです。評価高さは地上1.5mです。表1に村上の方法で用いられる風環境評価尺度を示します。

表1 村上の方法で使用される風環境評価尺度

ランク 強風による影響の程度 対応する空間用途の例 評価する強風のレベルと
許容される超過頻度
日最大瞬間風速(m/s)
10 15 20
日最大平均風速(m/s)
10/G.F. 15/G.F. 20/G.F.
1 最も影響を受けやすい用途の場所 住宅地の商店街
野外レストラン
10%
(37日)
0.9%
(3日)
0.08%
(0.3日)
2 影響を受けやすい用途の場所 住宅地
公園
22%
(80日)
3.6%
(13日)
0.6%
(2日)
3 比較的影響を受けにくい用途の場所 事務所街 35%
(128日)
7%
(26日)
1.5%
(5日)

(注1)
日最大瞬間風速 : 評価時間2~3秒
日最大平均風速 : 10分間平均風速
ここで示す風速値は地上1.5mで定義
(注2) 日最大瞬間風速
10m/s : ごみが舞い上がる。干し物が飛ぶ。
15m/s : 立看板、自転車が倒れる。歩行困難。
20m/s : 風に吹き飛ばされそうになる。等の現象が確実に発生する。
(注3) G.F : ガストファクターの目安(地上1.5m、評価時間2~3秒)
密集した市街地(乱れは強いが、平均風速はそれほど高くない):2.5~3.0
通常の市街地:2.0~2.5
特に風速の大きい場所(高層ビル近傍の増速域など):1.5~2.0
(注4)
本書の読み方
例 : ランク1の用途では、日最大瞬間風速10m/sを超過する頻度が10%(年間約37日)以下であれば許容される。
※「論文:村上、岩佐、森川著 居住者の日誌による風環境調査と評価尺度に関する研究」を参考


 表1の風環境評価尺度ではランクが1~3と表記されていますが、実際にはランク3を超える場所もあります。そのような場所は一般的にはランク4とされており、実質的には4段階評価となっています。

 評価対象地点で吹く風速(正確には基準点風速との風速比)の予測値を風洞実験やCFD解析により求めます。通常、実務において風洞実験やCFD解析により求める風速は平均値ですので、前回コラムで紹介したガストファクターを乗じて、瞬間風速を算出します。評価対象地点を代表する気象観測所の風向風速データを基準点風速として代入することによって、評価地点における日最大瞬間風速の確率分布を解析できます。その結果を表1にあてはめてランク判定を行います。ここまでの一連のプロセスを含めて「村上の方法」となります。

 なお、村上の方法は瞬間風速に基づく評価を行いますが、季節風や海風山風などの日常的に吹く風を対象としており、数年や数十年に一度しか吹かないような暴風は対象としていません。

9.3 風工の評価方法

 この方法は風工学研究所によって提案され、都内約100地点の風の観測結果と都内住民のアンケート調査結果に基づいて平均風速と対応する街並みを分析して作成された風環境評価指標を利用した方法であり、現在最も一般的に用いられている風環境評価方法の一つです。評価する高さは地上5mです。表2に風工の方法で用いられる風環境評価指標を示します。

表2 風工の方法で使用される風環境評価指標※※

領域区分 累積頻度55%の風速 累積頻度95%の風速
領域 A 住宅地相当 ≦1.2m/s ≦2.9m/s
領域 B 低中層市街地相当 ≦1.8m/s ≦4.3m/s
領域 C 中高層市街地相当 ≦2.3m/s ≦5.6m/s
領域 D 強風地域相当 >2.3m/s >5.6m/s

(注)
領域A:住宅地で見られる風環境
領域B:領域Aと領域Cの中間的な街区で見られる風環境
領域C:オフィス街で見られる風環境
領域D:好ましくない風環境
※※「書籍:風工学研究所著 ビル風の基礎知識」を参考

 表2の風環境評価指標では領域がA~Dの4つの区分に分けられており、村上の方法と同様に4段階評価となっています。

 評価対象地点で吹く風速(正確には基準点風速との風速比)の予測値を風洞実験やCFD解析により求めます。評価対象地点を代表する気象観測所の風向風速データを基準点風速として代入することによって、評価地点における平均風速の確率分布を解析できます。その結果を表2にあてはめて領域判定を行います。ここまでの一連のプロセスを含めて「風工の方法」となります。

 ちなみに表2の「累積頻度55%の風速」とは年間平均風速、「累積頻度95%の風速」とは日最大平均風速の年間平均にほぼ相当します。
 

9.4 その他の評価方法

 国内では環境アセスや総合設計制度を利用した建築物等の設計の際、ほとんどの場合に(1)もしくは(2)の方法を用いてビル風の評価が行われています。

 一方で、海外でも数多くの評価指標が存在しますが、その一例をご紹介します。表3にA.G.Davenportの風環境許容基準、表4に表3の許容基準を使用する際のビューフォート風力階級と歩行者レベルの風速の対応表を示します。

表3 A.G.Davenportの風環境許容基準※※※

活動 適用の場所 快適性と相関
快適 がまん
できる
不快 危険
1.早足で歩く 歩道 5 6 7 8
2.立っている、スケートしている 公園、入口、
スケートリンク
4 5 6 8
3.立っている、座っている(短時間) 公園、広場 3 4 5 8
4.立っている、座っている(長時間) 戸外レストラン、
外音楽堂、野外劇場
2 3 4 8
容認性に対する代表的基準   1/週 1/月 1/年
(注)表中の数字はビューフォート風力階級
温度 >10℃の場合

 


※※※「日大教科書:丸田栄蔵著 建築防災工学プリント」を参考


 村上の方法で用いられる評価尺度と似たような許容基準です。人々の活動内容に対して許容できる風の強さと頻度を示しています。ビューフォート風力階級とは日本の気象庁風力階級と同じものです。

 ちなみに表3には温度10°C以上の表記がありますが、村上の方法や風工の方法では温度(気温)は考慮されていません。風の強さと体感温度の関係性からも、快適性を評価目標とした場合、温度を考慮することはとても重要であり、国内でも温度を考慮した評価指標が提案されているものの、一般性や予測精度の問題等もありほとんど利用されていません。

9.5 村上の方法と風工の方法の比較例

 以下にビル風の評価(CFD解析)の比較例を紹介します。図1はこれまでのコラムでも紹介した秋葉原駅周辺を再現した市街地モデルを使用した解析結果です。基準風は東京管区気象台の風向風速計(北の丸公園)を用い、地表面粗度区分はⅣと仮定しています。左図が村上の方法、右図が風工の方法による評価結果をそれぞれ示しています

ビル風評価結果の比較
図1 ビル風評価結果の比較

 村上の方法によるランク1~4と風工の方法による領域A~Dは概ね対応すると言われています。上図を比較してみると全体的な傾向は近いように見えますが、1段階異なるエリアは数多くあり、かなり広い範囲に及ぶ場合もあります。局所的には2段階以上異なる箇所も複数あります。また、村上の方法は仮定するガストファクターによっても結果が大きく変化しますので注意が必要です。

 使っている尺度(指標)もプロセスも評価高さも異なるため、細かく見ていけば異なる結果が出てくるのは当然なのですが、どちらにも一長一短あり単純に優劣をつけられるものではありません。どちらかの方法でしか問題点が浮き彫りにならないケースもありますので、利用者は可能であれば両方の方法で評価を行い、評価目的に対して安全側の判断をするように心がけましょう。

 ちなみによくある問題として、村上の方法の場合は評価高さが低いため、フェンスや中低木による防風対策を入念に行った結果、歩行者レベルの風環境は大幅に改善したものの、フェンスや樹木の少し上の空間の風環境が逆に悪化した例や、逆に風工の方法の場合は評価高さが地上5mと少し高いため、高木による防風対策で大幅に数値が改善したものの、歩行者レベルでは逆に悪化した例などがあります。これは両方の方法で確認をしていれば問題点に気が付けずに、後々のトラブルや事故に繋がることを未然に防ぐことが出来る事案です。

9.5 まとめ

 実務でよく利用されているビル風の評価方法について紹介しました。次回はその中でも弊社でよく利用している「村上の方法」について具体的なプロセスや問題点等を詳細に解説していきたいと思います。





著者プロフィール
松山 哲雄 | 1973年1月 新潟県生まれ
⽇本⼤学⽣産⼯学部 建築⼯学科 耐⾵⼯学専攻

1998 年に熊⾕組⼊社。技術研究所にて、⾵⼯学の基礎研究に従事。超⾼層建物の空⼒振動シミュレーション技術の開発やCFD 解析による⾵環境評価技術の普及展開等を実施。2003 年に独⽴し、WindStyle を設⽴。CFD 解析や⾵洞実験および実測調査を通して、ビル⾵問題を中⼼に⾵⼯学に関わる様々な問題を解決するためのコンサルティングサービスを展開し、現在に⾄る。 

 

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