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建築デザイナー必見!ビル風コラム 第10回:「ビル風5」:村上の方法について

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建築デザイナー必見!ビル風コラム

10.1 評価方法の選択

 前回コラムで「国内では環境アセスや総合設計制度を利用した建築物等※の設計の際、ほとんどの場合に村上の方法もしくは風工の方法を用いてビル風の評価が行われています。」としましたが、弊社では、一般建築物等の設計を含めて、ビル風の評価方法としては「村上の方法」を利用しています。(※風環境評価が義務付けられている条件に該当する場合のみ)

 ビル風の評価を行う主な目的は、新たに建物が建設されることによる、その建物周辺の風環境の変化が、近隣住民や利用者の生活へ、どのような影響を及ぼすのかを把握し、それを近隣住民等へ周知することと、問題があれば事前に対策を講じることです。筆者はこれまでにマンション建設等に関わる全国各地の近隣住民説明会に約100回程度参加しましたが、風環境の変化について近隣住民や利用者が一番心配しているのは単に不快かどうかの感覚的な影響よりも、歩行者の転倒や洗濯物の飛散、家屋の破損等といった物理的な影響であるようです。そういった現象の発生有無は平均風速ではなく突風(最大瞬間風速)の大きさと相関性が高いことが多いです。

 「村上の方法」と「風工の方法」は前者が突風の発生頻度で評価する方法、後者が平均風速の大きさで評価する方法という言い方も出来ると思いますが、突風を分析することがより重要であるとの観点から、弊社では通常「村上の方法」を採用しています。

10.2 評価プロセス

 風環境評価を実際に行ったことがない人は、「村上の方法」を使えば誰が行っても同じ評価結果が出ると思っているかもしれませんが、実は10人が行えば10通りの結果が出てくるのが現実です。なぜそのようなことになるのか?それは評価プロセスを知れば分かると思います。 以下に「村上の方法」の評価プロセスを示します。

STEP1. 計画地の地表面粗度区分を判定する

 まず、評価対象地周辺の地表面粗度区分を判定します。既往調査等で対象地域の地表面粗度区分が予め判っていればよいのですが、ほとんどの場合は評価者自身で判定する必要があります。地図や航空写真などを見ながら、海からの距離や建物密度等から地表面粗度区分がⅢなのかⅣなのかとか悩みながら判定することが多いと思います。方位によっても異なることも多いですし、ⅢとⅣの中間ということもあるので、正確な判定は容易ではありません。明確な判定基準が無い状況で、評価者の判断に委ねられていますが、この判定は最終的な風環境評価の結果に大きく影響を及ぼす要素の一つです。

STEP2. 基準風を仮定する

 次に、評価対象地周辺の基準風を仮定します。「村上の方法」では日最大平均風速を基準風とします。基準風とは風環境を評価する際に、評価対象地域を代表する風の特性を持つ風向風速データを意味します。通常は計画地周辺の気象台や一般環境大気測定局などの風向風速計のデータを利用します。基準風の風向風速計は計画地からできるだけ近く、できるだけ高い位置に設置されていて、かつ直近に大きな建物が無いことが望ましいのですが、なかなか良い条件の観測所が見つからない場合が多いのが現実です。出来る限り条件の良い観測所を選別することになるのですが、その際に特に気を付けなければいけないのが、観測高さです。あくまでも目安ですが、観測高さが都市部では30m未満、低層住宅地では10m未満の場合、その観測データは使わないほうが無難です。少し距離が離れていても高さが十分に確保されている観測データを採用したほうが良い場合が多いです。弊社では計画地から半径30km範囲の観測所のデータを分析し、その中から基準風として最も適切であると判断したデータを選別するようにしています。なお、距離が離れている場合は計画地と観測所の地表面粗度区分が異なることも多いです。その場合は地表面粗度区分の補正も必要になります。基準風の仮定には明確なマニュアルがあるわけでもなく、評価者の経験則等に基づいた判断および技量に委ねられていますが、この仮定も最終的な風環境評価の結果に大きく影響を及ぼす要素の一つです。

 通常は仮定された基準風の3年から10年程度の統計値を風向ごとにワイブル分布やグンベル分布等で近似式にします。

STEP.3 風速比を予測する

 次に、評価対象点における風速比を予測します。これは風洞実験やCFD解析で行うことになりますが、実務においてはいずれも平均風速を計測(解析)し、基準風との平均風速比を16風向で求めます。

 風洞実験の場合は無指向性の多点風速計を使用するのが一般的です。計画地内および計画地周辺で数十~数百箇所程度の計測を行います。無指向性の多点風速計は応答性が低く、通常は平均風速を計測することのみに利用されます。また、無指向性は水平方向のみに確保されており、センサーの形状や種類にもよりますが、ほとんどは水平(2次元)風速(スカラー平均)のみを対象とし計測することが出来ます。風向を調べる場合は小旗を設置して、それをビデオ撮影し、録画データより確認することが多いようです。

 一方CFD解析の場合はRe平均モデル(k-ε モデル等)による解析が一般的です。風洞実験と異なり解析空間全体から容易に(3次元)風速(ベクトル平均)を計測(解析)することができます。すなわち任意位置の風向(3次元ベクトルの向き)も容易に取得できます。

 ところで、CFD解析の場合には、ひとつ注意しなければいけないことがあります。CFD解析で取得できる風速はベクトル風速であって、気象台等の観測や風洞実験の場合に取得できるスカラー風速とは異なるということです。ここでは詳細については割愛しますが、CFD解析の結果を実測値や風洞実験値と同等に取り扱う際には、乱流エネルギーの大きさも考慮するなどして、ベクトル風速をスカラー風速相当に変換する必要があります。

 風速比の予測は風環境評価を行う上で最も重要なプロセスとされていますが、実施方法によって様々な誤差が生じます。

STEP.4 ガストファクターを仮定する

 次に評価対象点におけるガストファクターを仮定します。「村上の方法」では最終的に日最大瞬間風速の超過頻度を求めることになりますので、適切なガストファクターを仮定する必要があります。村上先生が論文中で目安としているガストファクターは

密集した市街地(乱れは強いが、平均風速はそれほど高くない) 2.5~3.0
通常の市街地 2.0~2.5
特に風速が大きい場所(高層ビル近傍の増幅域など) 1.5~2.0


となっていますが、ここは高層ビルの近くだから1.5、ここは低層建物が密集しているから2.5、というように個々の評価対象点に対して、ひとつひとつ検討しながら仮定していくのはかなり無理があります。よって以前であれば、例えば計画地周辺が概ね通常の市街地と見なせることができれば全評価対象点を一律に2.5というように、かなり大雑把な仮定を行う評価者が多かったと思います。通常の市街地と見なしても2.0とするのか?2.5とするのか?それとも中間程度の2.25とするのか?適切な判断はきわめて難しいと言わざるを得ません。

 ガストファクターの仮定にも明確なマニュアルがあるわけでもなく、評価者の感覚に基づいた判断に委ねられてきましたが、この仮定も最終的な風環境評価の結果に大きく影響を及ぼす要素の一つです。

 さすがにそれではまずいと言うことで、第8回のコラムでも紹介しましたが、最近では風速比(と地表面粗度区分)が定まればガストファクターも自動的に計算できるモデル式が提案されています。複数の研究者によりいくつかのモデル式が提案されていますが、いずれもガストファクターが風速比の増加に伴い漸減する性質を表現しているのですが、実際には必ずしもそれが成立するとは限りません。ただ、それでも評価者の感覚でエイヤッと一定値で仮定するよりは理にかなっていますし、西村氏のモデル式のように安全側に設定されていれば実務上は有効と言えます。

STEP.5 日最大瞬間風速の超過頻度を求める

 最後に評価対象点における日最大瞬間風速の超過頻度を求めます。STEP.1~4で求めたデータを下式に代入することで算出できます。



 

PJ (V > uα) 風向 α の評価対象点 J における日最大瞬間風速が u m/sを超える頻度
A (α) 風向 α の基準点における日最大平均風速の発生頻度
C (α), K (α) 風向 α の基準点における日最大平均風速のワイブル係数
G ガストファクター(突風率)
RJ (α) 風向 α の評価対象点 J における風速比(= VJ / Vref )
VJ 評価対象地点 J の風速
Vref 基準点の風速(基準風)


上式より、全16風向の評価対象点における日最大瞬間風速がu m/sを超える確率は、

となります。

 風環境評価を実際に行ったことがない人のうち、全プロセスを見てあれっ?っと思った人はどれくらいいるでしょうか。村上の方法では、最終的には日最大瞬間風速の超過頻度を求めているのですが、実はプロセス上はかなり思い切った簡略化をしているのです。基準点において日最大風速が発生した時に各評価対象点においても日最大(瞬間)風速が発生するという仮定をしているのです。その仮定が合っている日もありますし、合っていない日も当然あります。

 「基準点において日最大風速が発生した時に各評価対象点においても日最大(瞬間)風速が発生するという仮定」を成立させるため、ガストファクターに無理をお願いしているのです。通常ガストファクターは

ガストファクター(突風率) = 最大瞬間風速/平均風速

となりますが、村上の方法におけるガストファクターは

ガストファクター(突風率) = (評価対象点における)日最大瞬間風速/
(基準風が日最大風速の時の評価対象点における)平均風速

となります。

 実は村上の方法のガストファクターは本来のガストファクターとは少し・・・いいえ、だいぶ異なるのです。風向によって地表面粗度区分が異なる場合は分母が日最大平均風速とならない場合もありえるので、日最大ガストファクターとも少し違う気もします。村上ガストファクターとでも命名しましょうか。

 なぜわざわざこのような仮定をしているのか?おそらく日最大瞬間風速の超過頻度を厳密に予測することよりも、実務者にとって高いハードルとならないように、日単位の計算だけで完結することで、とにかく簡便に評価することを優先したのだと思います。もっとも村上の方法が提案されたのは30年以上前ですので、今のように時系列の気象データも容易には入手できなかったでしょうし、当時のコンピューターの性能を考えると思い切って簡便にする必要があったのだと思います。

 村上の方法のそのプロセスを見る限り、風環境の評価方法としては簡便法であるということを理解しておいたほうが良いでしょう。

10.3 評価プロセスに問題あり?

 まず現在の評価プロセスには評価者に委ねられている判断(選択肢)が多すぎて、10人が評価を行えば10通りの結果が出るような状態です。恣意的な結果が導かれる恐れもありますので、風速比の予測以外のプロセスは各自治体で決めるなどの処置が必要と考えます。簡便法であると考えればガストファクターモデルの細かい改良もあまり重要ではないと思います。

 一方でより厳密な解を求めるのであれば、プロセスの改良が必要と考えます。試しに本来のガストファクターとして計算してみましょう。そのために基準風を日最大平均風速から平均風速の全データに変更し、時刻歴解析を行います。以下に通常のプロセスにより求めたランク図と本来のガストファクターとして求めたランク図を比較します(図1)。

 基準風は東京管区気象台の風向風速計(北の丸公園)を用い、地表面粗度区分はⅣと仮定しています。ガストファクターはいずれも西村氏の提案式を使用しています。左図が通常のプロセスにより、右図が本来のガストファクターとして求めた評価結果をそれぞれ示しています。


ビル風評価結果の比較
図1 ビル風評価結果の比較

 上図の比較は村上の方法で用いられているガストファクターの意味合いが本来のガストファクターとはかなり異なることを示しています。この比較をもって、どちらの結果が現実に近いかを示しているわけではありませんが、基準風を日最大平均風速ベースで考えているうちは厳密な解をいつまでたっても導けないと思います。

10.4 まとめ

 弊社でよく利用している「村上の方法」について具体的なプロセスや問題点等を詳細に解説しました。とくにガストファクターの取り扱いについてはいろいろ問題があり、今後の大きな課題と言えます。





著者プロフィール
松山 哲雄 | 1973年1月 新潟県生まれ
⽇本⼤学⽣産⼯学部 建築⼯学科 耐⾵⼯学専攻

1998 年に熊⾕組⼊社。技術研究所にて、⾵⼯学の基礎研究に従事。超⾼層建物の空⼒振動シミュレーション技術の開発やCFD 解析による⾵環境評価技術の普及展開等を実施。2003 年に独⽴し、WindStyle を設⽴。CFD 解析や⾵洞実験および実測調査を通して、ビル⾵問題を中⼼に⾵⼯学に関わる様々な問題を解決するためのコンサルティングサービスを展開し、現在に⾄る。 

 

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