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新菱冷熱工業株式会社 様

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新菱冷熱工業株式会社  様インタビュー

BIMとの効率的な連携で 
設計者がCFDを十分に活用できる設備工事会社

エネルギー問題の解決が叫ばれるなか、建築物のライフサイクルにおいて消費されるエネルギーの低減は避けては通れない問題だ。そのためには建築物の空調設計が大きなカギとなる。建築設備の設計・施工において高い実績を持つ新菱冷熱工業は、BIMシステムを構築してCFDを組み込むことにより、設計者自身が解析を行って最適な空調設備を設計できる環境を整えている。

 新菱冷熱工業は、さまざまな建築設備の設計、施工を行う、空調設備業界のリーディングカンパニーである。一般建築にとどまらず、工場やプラント、都市全体の空調を管理する地域冷暖房設備などにおいて高い実績を持つ。さらに同社は人と環境の共生をテーマに掲げ、顧客のニーズの一歩先を提案する総合環境エンジニアリング企業を目指している。



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新菱冷熱工業株式会社 技術統括本部
中央研究所 CFDソリューショングループ
主務 深田 賢 氏

 同社では高品質かつ低コストのサービスを顧客に提供するために、約30年前から3D CADの研究・活用に取り組んできた。現在、活用しているのは、同社が独自開発した「S-CAD」というBIM環境である。S-CADはシスプロ製の建築設備向けBIM対応3D CADであるDesignDraftをベースにして開発したものだ。S-CADには、3Dの施工図作成のほかに、3Dレビューや施工シミュレーション、配管などの干渉チェック、静圧・揚程計算や材料集計機能などが用意されている。また3Dレーザースキャナを利用した既存設備の3Dモデル化を行う機能も開発中である。

 S-CADは10年前に社内で活用を始めたと、入社時からCFD活用環境の構築に取り組む技術統括本部 中央研究所 CFDソリューショングループ 主務の深田賢氏は言う。業務の中心となるS-CADについては教育体制を整えており、新入社員は半年間、現場研修を行ったあとに、S-CADの操作や設備設計の基本などについて学ぶ。また社内試験なども用意してレベルアップするための環境も整えている。

 

CFDをカスタマイズして効率化

 このS-CADは、空調の比較検討をはじめとする各種の気流解析のために、ソフトウェアクレイドル社のCFDツール「STREAM®」と連携している。同社では年間150件以上のCFD解析を行っている。そのうち約7割を設計者が手がけているという。また設計段階だけでなく、施工や営業の際にも活用されている。近年の傾向としては省エネルギーに関する要望が増えているという。

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新菱冷熱工業のCFD解析体制

 

 20年以上前からSTREAM®を使用してきた同社では、CFDを活用しやすい環境を整え、各拠点の設計者がSTREAM®を使用して解析を実施している。STREAM®は単体でも使い勝手がよいソフトだったという。だが一方、CFDを導入したことによる問題も生じていた。基本的に設計者が解析するため、以前より業務が増えて負担が大きくなる。また、解析者の習熟度により、解析結果に差異が出る可能性も高まる。そこで解析環境の向上や教育システムの整備などCFDツールを習熟するための環境を整えるとともに、STREAM®とS-CADとの連携を進めてきた。

 2008年に解析作業をサポートするための流体シミュレーション(CFD)推進センターを設立。処理能力を上げるために、2010年には中央研究所にHPCサーバーを導入した。そして各拠点からネットワークでライセンスを取得することで、各拠点の設計者がHPCサーバーを通じて解析を行えるようにした。また高度な解析や新規のプログラム作成などについては、中央研究所のCFDソリューショングループが対応しているという。

 STREAM®とS-CADとの連携については、S-CAD上にSTREAM®のアドインソフト「S-Pre」を開発した。建築設備の設計データおよび関連情報のうち、CFDで必要となる部分だけを取り出して、VBインターフェースを介してSTREAM®に受け渡す。S-CAD上の画面にはCFDに必要な条件を入力するためのツールボタンが用意され、同社の業務に便利なようにカスタマイズされているため解析の準備をスムーズに行える環境を用意している。

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BIMソフトのS-CADとSTREAM®をシームレスに連携
 
 このシステムの開発が始まったのは約5年前の深田氏が入社したころだった。以前から3D CADで作成したモデルをSTREAM®で読み込みたいという要望があったことから、モデル形状をアドインを利用して転用するための取り組みが始まったという。それまでは設計モデルを解析用に改めてSTREAM®上でモデリングし直す必要があった。これでは元の図面から数値を拾ってもう一度入力しなければならないので手間が掛かる。また設計と解析の担当者が異なる場合、作業はさらに大変になり、情報伝達のミスによる手戻りを生じることもあった。だがS-Preで解析に対応できる環境を整えておけば、必要なデータはあらかじめS-CADに格納されているため、設計者から受け渡されたデータを解析者は連係ミスなくそのまま解析に利用することができる。またSTREAM®を使えない人でも解析条件を参照することもできる。

各種の効率化機能を盛り込む


 S-Preの第1の機能が、必要部分の抽出である。解析をする際に、CADデータのすべてが必要とは限らない。そこで部分的に解析領域を指定できる機能を用意している。部屋の什器などの中から必要なものだけ指定することも可能だ。

 第2の機能が、図面参照機能の利用である。設計関連情報は、躯体図、ダクト図、什器の配置などを、複数の人が並行して進めており、あとで複数の図面を重ね合わせる。以前は図面から数値を拾ってSTREAM®内で改めてモデリングしていたため手間が掛かっていた。S-Preではこういった複数の図面から躯体やダクトなど解析に必要なものだけコピーして、新しいCFD専用の図面を作成することができる。

 第3の機能は一番特徴的と言えるもので、建築設備のCFD解析に特化したインターフェースだ。設備設計において必要な条件だけを抜き出して同社専用にカスタマイズすることで、操作性を向上させた。ほかのBIMでは入力条件は物性や発熱量など一部に留まり、吹き出し口の風量や温度などの設備関係についてはうまく連携がなされていない。S-Preでは風速、温度、熱通過率、発熱量、抵抗係数などの設定が可能になっている。またCAD上で各部品を選択することで、CFDを使わなくてもさまざまな項目の設定ウィンドウが閲覧できる。

 第4の機能が簡易形状への変換である。制気口は形状を細部まで再現することは困難であるため、吹出形状を再現する条件領域面に変換する。障害物として存在する機器類は形状を簡略化する。これらによりメッシュ数の削減と計算の安定性を向上させる。同じ部品を一括変換することも可能だ。

 第5は自動メッシュ分割機能である。メッシュは解析者により差が出やすいため、安定したメッシュを分割するために開発された。粗くなりすぎないように、要素数は一定以上減らさない考えで現在も改良中だということだ。

若手の積極的な事前検討を促進


 STREAM®をBIMと連携することによって、形状を把握する時間を大幅に短縮できているという。複雑なデザインの建築物であると、STREAM®で空間をどのようにモデル化するかに多くの検討時間を必要とするが、S-CADでは3Dモデルデータをそのまま解析に使うことができるため、最大で50%程度、解析準備時間を削減できると深田氏は言う。一方STREAM®を利用することによって、設計者が解析できるようになり、経験の少ない若手でもどのような空調の状態になるかCFDにより検討し、自信を持って提案できることがメリットだという。「自分で入力して試せるとなれば、いろいろ検討してみようと考え始めます。結果も視覚的に捉えられるので効果的です」と深田氏は言う。建ててみなければわからない事が、傾向だけでも間違いなく捉えられるようになる。計算条件や結果については熟練者が確認できるようになっているため、状況に応じて指導することも可能だ。またCFDソリューショングループでは、新しい解析に関する機能を、ユーザ関数を使ったプログラミングによって追加することが多かったが、STREAM®のバージョンアップによって同等の機能がプリ上で追加できるようになったため、より複雑な空調条件も設計者が設定できるようになり便利だという。

より高精度かつ便利なCFDへ


 もうすでに十分CFDを業務に活用している感のある同社だが、今後もさらなる解析環境の整備や個人の解析能力の向上を目指そうと動いているようだ。

 たとえば現在はCAD上でモデリングしたデータをCFDに使用するため、どうしてもモデルが詳細になり、それに伴ってメッシュが細かくなり解析に時間が掛かってしまう。これを解消するために、モデリングのガイドラインもしくはCFD用のモデルに変換するアルゴリズムを作成したいということだ。

 また、解析ノウハウに関わってくる吹出性状などについて、ライブラリを作りたいという。空調調和・衛生工学会の委員会でもライブラリの作成を検討しており、協力しつつ充実させていければとのことである。

 一方、今まではCFDへの入力関連を主に検討してきたが、今後は出力についても、より利便性を高めていきたいという。たとえば今はSTREAM®で確認している解析結果についてもBIM上の閲覧を検討したいという。BIMとの連携も絡んでくるため簡単ではないものの、夏と冬の空調の状態なども切り替えながら見ることができるなど、すべての作業をBIM上で出来れば便利だろうと深田氏はみている。


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CFD解析結果例:サーバールームの気流解析(Build Live Kobe 2011)


 また解析結果の妥当性についても確認していきたいところだ。設計者個人の判断力の向上は引き続き目指していきたいという。さらに解析の教育については現在はマンツーマンで行っているが、同時に教育を受ける人数が増えると教育の質も落ちてくる可能性がある。将来はそういった状況への対応も必要になってくるという。

 現在は設計者による解析が中心となっているが、将来的には施工現場でも行いたいという声もあるそうだ。現場状況で設計が変わることもあるからだ。ネットワーク環境を整え解析結果のダウンロード時間の短縮などによって可能にできればとのことだ。

 あくなき探究心でITツールの活用を進める新菱冷熱工業。建築のエネルギー消費の低減への取り組みが活発になるなか、STREAM®がより効率的な空調設備の設計、施工に貢献するに違いない。

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新菱冷熱工業株式会社

  • 設立:1956年2月23日
  • 所在地:東京都新宿区
  • 資本金:35億円
  • 従業員数:1948名(2013年9月現在)

※STREAMは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2014年1月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。


  

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