工学院大学 工学部 様
シンセティックジェットの研究に活躍
学生からも使いやすいと好評
工学院大学の流体機械研究室では、流体特性の理解に熱流体シミュレーションソフトウェアSCRYU/Tetra®を活用している。実験と計算の両輪で進める同研究室において欠かせないツールであるとともに、使い勝手やサポートの柔軟さにより学生の研究への関心を高めるのにも役立っているという。
工学院大学 工学部 機械工学科の流体機械研究室では、小型化・簡易化が可能なアクチュエータで生成可能なシンセティックジェットをはじめ、軸流ファンやヒートポンプといった流体機械の流動特性に関する研究に取り組んでいる。同研究室の佐藤光太郎教授に、研究内容やSCRYU/Tetraの活用例、同ツールを用いる場合のメリットなどについて話を聞いた。
写真1 工学院大学 工学部 機械工学科 教授
博士(工学) 佐藤 光太郎 氏
通常のジェットエンジンでは、前方から空気を取り込んで燃焼室に送り込み、燃料を燃やして後ろにジェットを噴出し、ターボファンエンジンでも燃焼室下流のタービンで前方にあるファンを駆動し、後方へ噴射することで推力を得て飛んでいく。ジェットエンジンは大型化は得意で、例えばボーイング777のエンジンのファンは直径3mにもなる。一方で小型化は苦手であり、現在研究中のものでも数cm程度が最小だという。
写真2 佐藤教授と学生の皆さん
シンセティックジェットは流体を前方から吸入して後方に放出するのではなく、振動によって渦対を生成し、下流にジェットと同様の流れをつくり出す。駆動源にはスピーカーやピエゾ素子、ダイアフラム、プラズマなどを利用する。例えば段ボールで作る空気砲は側面を叩くと穴から渦輪が出るが、それを周期的に放出するイメージだ。渦輪は周囲の流体を巻き込みながら、自己誘起によってより速く進もうとする。それを周期的に放出すると輪がたくさん連なり、速度分布が噴流構造、つまりジェットと同様の流れを得ることができる。
シンセティックジェットでは流体の出入口(スロット)の時間平均流量はゼロとなる。噴出時には指向性を持つ噴流となるが、吸引 する時は指向性を持たない。そのため吸引の運動量はカウントしなくてよくなり、噴流形成にいたる。
この方式の利点の一つは、小型化が可能ということだ。駆動源はスピーカーやイヤホン、インクジェットのインク吐出機構といった振動を発生するものであればよい。同研究室ではスロット幅0.3のシンセティックジェットも研究しており、原理的にはさらなる小型化も可能だ。外部からの非接触エネルギー供給も可能であり、電池などを搭載しなくても動かすことができる。これも小型化の上でメリットとなる。もう一つの利点は、ジェットエンジンのファンなどのように機械的に動作する箇所が少ないことである。これは耐用年数やメンテナンスの点で非常に有利となる。
スピーカー方式で実験と解析を回す
同研究室の基礎研究の一つが、スピーカーを利用したシンセティックジェットである。図1の装置の下部にスピーカーが入っており、スロットで振動流が生成される。スロット幅は5㎜である。図2が煙を入れて可視化した図、図3がSCRYU/Tetraで解析を行った図である。さらに出口からの各距離における流速について実験とシミュレーションを比較した結果が図4である。実験とシミュレーションで、流速の大きさや位相もほぼ一致していることが確認できる。
さらに同研究室では、周波数による流れの向きのコントロールも目指しているという。周波数の変化のみで流れの方向をコントロールできれば、装置の簡易化にも貢献する。ここでも実験とともにSCRYU/Tetraを活用しながら研究を進めているそうだ。
図1 スピーカー駆動式シンセティックジェット装置
下部にスピーカーがあり、スロットから手前にジェットが噴出される
図2 スモークワイヤ法によるシンセティックジェットの可視化観察例
図3 シンセティックジェットの数値解析例
振動周波数20Hz、スロット幅5㎜、代表速度毎秒3m/s
速度ベクトル図(上)、圧力分布図(中)、渦度分布図(下)
図4 実験結果と数値解析結果の比較
流速変動の振幅や位相はほぼ一致している
液体と駆動機械が直接触れない用途にも
シンセティックの応用例として佐藤氏らが研究しているのがポンプ装置である(図5)。通常のポンプは羽根車が流体と直接接触して送液する。その際、流体が薬液や食品だとベアリングの潤滑油がどういう影響を及ぼすのかにも注意しなければならない。こういったものを輸送する場合は、効率は劣るが触れる部分に駆動部がないジェット方式が有効だ。シンセティックジェットは駆動部分や外部に触れたりすることがない。佐藤氏らはシンセティックジェットを使って、どういう振動条件などであれば最適に送液できるかなどを研究しているそうだ。
図5 シンセティックジェットを利用したジェットポンプ装置
カプセル内視鏡などにも応用が可能
シンセティックジェット駆動の応用先の一つとして想定されるのが、カプセル内視鏡だという。現在、自分で姿勢制御し、推進力を持つ自走式カプセル内視鏡も研究されている。現在研究されているのは、非接触で外部から磁力を変化させ尾びれを動かすタイプだが、これをシンセティックジェットに置き換えるための基礎的研究にも取り組んでいる。
一方、シンセティックジェットは自動車の抵抗を減らすのにも使われているという。車体から流れの剥離が起きると抵抗になるため、ジェットを噴出して強制的に流れをボディに付着させ、剥離点を後ろにずらすという。
シンセティックジェットは15年ほど前から本格的に研究されはじめた現象で、それ以前は音響流と混同して議論されてきたと佐藤氏は言う。駆動部がないことや小型化が可能なことにより、これからいろんなところに使われていくだろうということだ。
当たり前に使われる軸流ファンで予想外の挙動
佐藤氏らは軸流ファンの流体特性についても研究している。電子機器に組み込まれたりされるような汎用ファンは、一定の理想条件の元で開発される。だが、「理想的でない状態でも、良い性能を発揮するようなファンがあってもよいのではないか」(佐藤氏)ということから研究を始めたという。
実際のところ、ファンが理想的な環境で使用されていることはあまりないともいえる。コンピュータであれば壁際にずらりと並べられたり、換気扇のフィルタがあまり交換されないまま使われることもあり得る。自動車の空調など組み込み専用品を除けば、通常はそれぞれの状況に専用のものを開発すると割高になってしまうため、汎用品を使わざるを得ない。そこで障害物をどの距離まで近づけられるかのデータがあったり、障害物があっても性能低下を最小限にするようなファンがあらかじめあれば便利だろうという。
そのような研究を進めていく中で、想定外の振動や、出口に障害物があった方がよく流れる、また入り口に障害物があると逆流が発生するといった「非常識な」(佐藤氏)現象が見られたという。
図6 (a)ファンから20㎜離れた位置に直径320㎜の障害物を置いた場合の、翼表面の圧力分布と速度ベクトル分布図
(b)障害物上の圧力分布図および、ファンと障害物の中間位置における速度ベクトル図
図6は想定外の振動が起こった際の条件で解析した例だ。図6(a)は直径130㎜のファンを2,500rpmで回転させ、ファンから5㎜離れた位置に直径320㎜の円形障害物を置いた場合の、翼表面圧力分布と速度ベクトル図で、図6(b)は障害物表面の圧力分布図、およびファンと障害物の中間における速度ベクトル図である。圧力分布をみると、周方向に圧力の高い部分と低い部分が交互に並ぶようなセル構造の擾乱が発生していることが分かる。そしてこの擾乱はファン周速の0.1から0.2倍程度の速さで回転している。不安定流れははじめは実験によって見つかったが、SCRYU/Tetraによっても再現できたことから、実験装置固有の振動ではなく、一般的に発生し得る現象だということが分かった。小型のファンなら騒音や寿命だけの問題だが、大型ファンになれば、ベアリングが焼き付いて壊れるような大事故にもつながる可能性があるだろうと佐藤氏は言い、メカニズムになどついて詳しく研究中である。
学生が流体力学のおもしろさを感じられるツール
研究室では、かつては他社製品を使用していたものの、操作の難易度が高く、またサポート料が高額であることから利用者が限られていた。そのため思い通りの解析ができる状態ではなく、学生からも不満の声が上がっていたそうだ。そんな中、ソフトウェアクレイドルからSCRYU/Tetraの概要を聞き、2002年ごろ同ツールを導入することにした。実際に使用してみると解析結果が満足であることはもちろん、サポートが丁寧であることから学生は短時間で自由に扱えるようになり、今では奪い合って利用するような状態になったという。特に研究室でツールとして使う場合には、「学生から評判がいいことが一番重要」だと佐藤氏は言う。ツールの使い勝手がよければ、ツール操作などに時間を取られず、本来の研究の方に力を入れられる。また比較的容易に可視化できることによって、流体研究のおもしろさにも触れることができる。学生はソフトウェアクレイドル主催の講習会に参加したり、特殊な使用方法に関する質問にも柔軟に対応してもらえたりと助かっているとのことだ。
今後は気液二相流や連成に取り組みたい
今後は、気液二相流や、液体と弾性体の連成解析などに取り組みたいという。気液二相流としてはヒートポンプのコンプレッサ下流の流れ場について研究しており、冷媒中に混ざったオイルミストの分離メカニズムを解明したいという。エアコンなどのヒートポンプでは冷媒に混ざったオイルを遠心力によってきちんと分離できているが、詳細な分離メカニズムは実は分かっていないという。原理に基づいた設計ができるようになれば、開 発期間の短縮や高性能化などにつながる。またヒートポンプのコンプレッサは10,000rpmにもなり、場合によっては運転中の事故にもつながる。成解析が可能であれば、危険な周波数などを予め調べ、その周波数は除いて運転するなど安全面に役立てたいということだ。
佐藤氏の研究室では実験と解析の両輪で流体特性の研究を進める中で、効果的にSCRYU/Tetraを利用していた。操作の段階で手間を取られずに、流体の可視化や検証を行えることから、SCRYU/Tetraは学生に対する研究のおもしろさを伝えることへの道案内にも一役買っているようだ。今後も研究室からどのような研究成果が生まれるのか楽しみだ。
工学院大学 工学部 機械工学科
- 設立:1949年
- 学校種別:私立
- 教授:佐藤 光太郎
- 所在地:東京都新宿区
- URL:https://www.kogakuin.ac.jp/faculty/technology/1a1.html
※SCRYU/Tetraは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本パンフレットに記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本パンフレットに掲載されている製品の内容・仕様は2015年4月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。
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