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株式会社ケーヒン 様

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株式会社ケーヒン 様インタビュー

自動車業界においても年々高まる騒音対策 
より要求の厳しい車内空調機器の音解析に励む


流れの解析よりも取り組み難いとされる音の解析。だが空調機器やファンなどの動作機構を持つ部品に対する騒音低減の要求は年々高まっている。中でも自動車の空調機器は、エンジンのハイブリッド化や電気自動車の登場もあり、低騒音の要求が高い分野だ。車内空調を手掛けるケー ヒンでは、SCRYU/Tetra®の機能をフル活用して、騒音源の特定やその対策などを行っている。

 ケーヒンは自動車の各種部品を手掛ける世界的なシステム部品メーカーである。四輪、二輪、および汎用、またレース用の自動車などに組み込まれる、空調系統やトランスミッション系統、エンジン系統、さらには燃料噴射制御をはじめとする各種電子制御ユニットに関する研究開発および設計、製造までを行う。

 ケーヒン 空調事業本部 空調開発部の技師である鷲足純哉氏(写真1)と同部第一課の主任である小野寺淳氏(写真2)が研究開発に携わっているのが、HVAC(heating ventilation and airconditioning)ユニットと呼ばれる、自動車室内向けの空調装置である。自動車の空調システムは、HVACユニット、コンプレッサ、およびコンデンサから構成される。HVACユニットの役割は、温風または冷風を作り、車内の適切な場所に送風して、快適な車内環境を保つことだ。またフロントガラスへ送風することで、曇り取りなどの役割を果たすこともある。HVACユニットは、適量の風と温度を適切な場所に送るヒータユニット部と、送風するためのブロワユニット部から構成される。(図3)


空調事業本部 空調開発部 技師 鷲足純哉 氏(写真1、左)
空調事業本部 空調開発部 第一課 主任 小野寺淳 氏(写真2、右)


環境対応車で室内騒音への要求が高まる


 空調システムは人が乗る空間と直接つながっているため、要求も厳しくなる。かつては冷暖房だけでよかったが、今は騒音や振動の低減、さらに消臭や花粉、PM2.5の除去まで、要求の幅はさまざまに広がっているという。とくに騒音や振動に対する要求が高まっている背景には、ハイブリッド車や電気自動車の増加がある。これらの環境対応車は、エンジン音が全くないか必要なときに限られるため、相対的に動力音以外が目立ってしまう。このため、完成車メーカーの低騒音化の要求は年々高まっているという。

図3 HVACユニットの構造 ブロワユニット(左下の円筒部分)とヒータユニットからなる

 

「試作品を作るとコストがかさみ大変です。事前に性能予測や騒音個所などを確認できるCAEの重要性は高まっています」(鷲足氏)。なお花粉やPM2.5といった微粒子に対しては、フィルタの改良などによって対応するが、車室内に供給する風量は維持する必要がある。風量に関する指標である通気抵抗の大きさを開発初期段階に知る必要があり、その点からもシミュレーションの重要性は高まっている。

ヒータユニットからブロワへと展開

 同社ではさまざまな解析を行っており、流体解析や騒音解析もその一部だ。流体解析については、1999年に別の流体解析ツールを使い、ヒータユニット内の流れの解析を始めた。さらに設計者展開のために2002年に機能が限定された流体解析ツールを導入した。社外に依頼してヒータユニットのシミュレーションのカスタマイズツールを作成し、設計者による解析を開始した。これはヒータユニット内の流れ場にのみ対応したものだ。さらに2003年に、ブロワやその駆動モーターなどの回転流れ場に適用するために、SCRYU/Tetraを導入した。

 SCRYU/Tetraの活用用途はブロワの流れ場の解析が大半を占めている。ブロワへの適用例は、例えば回転体の非定常解析による流れの可視化や流量予測、P-Q特性の予測や流体騒音予測といったものであり、新規形状の性能評価や改良形状に用いることが多いという。最近では単に性能を評価するだけでなく、“ブロワの中で何が起こっているのか”より良く現象を理解するため、様々な角度から現象の解明を試み、改善に繋げているそうだ。

 開発フローの中では、開発の初期段階や企画段階での形状検討に用いるいわゆるフロントローディングの実践に力を入れている。近年の試作レスを目指した動きからも“物を作らずに評価する”ことの重要性は高まってきており、今後の重要課題でもあるという。

 SCRYU/Tetra®を使った製品設計における例が、ブロワ性能(P-Q特性)をシミュレーションによって予測したものだ(図4)。ブロワ性能はエアコン性能を決める大きな要素であり、設計上の重要ポイントでもある。ブロワ解析によって得られる羽根にかかるトルクと、実験から得られるモーターのトルク特性との関係を手掛かりに、車内での電圧におけるP-Q特性を割り出した。

図4 ブロワ性能(P-Q特性)をシミュレーションに より予測

 

周波数分析で異音原因を突き止め

 SCRYU/Tetra®導入初期は流れ場しか解析していなかったが、音解析もできることが分かったため、現在は騒音の解析にも活用の幅を広げているという。

 騒音の音圧は大きくても数Pa程度にしかならないため、かなり高精度の解析が必要になる。そのため乱流モデルはLES(large eddy simulation)で48並列のマシン環境を使用している。

 騒音の解析事例の一つは、ブロワの異音の原因を突き止め、さらに対策に成功したものだ。ブロワから風が出てくる場所の根元に、ヒータユニットへ送る空気とは別にモーターを冷却するための小さな空気の取り入れ口がある。あるモデルでの試作の実験では、その周辺で約1500Hzの異音が生じていた。シミュレーションで空気の流れを可視化したところ、図5のベクトル図のように、空気取り入れ口周辺に周期的な渦の放出が見られた。渦の発生周期は1秒間に約1500回であり、流体騒音解析を行って周波数分析図を得たところ、1500Hzあたりにピークが見られた。これが騒音の原因だと推定し、取り入れ口を移動して解析し直したところ、流れがスムーズになって周期的な渦がなくなるとともに、周波数分析においても1500Hzのピークがなくなった。この形状でブロワを試作し直したところ、実際に1500Hzの異音をなくすことができた。

図5 ブロワのモーター冷却用流路の入り口における騒音の解析事例入り口の位置を移動することによって異音ピークを取り除くことができた

 


ブロワのモーター冷却用流路の入り口における騒音の解析事例のアニメーション

 

 一方ヒータユニット内での送風の際に生じる異音についても、流体騒音解析で音源探索を行い、対策を取っている(図6)。車内空調モードに、Heat/Defという足元のヒータとフロントガラスのくもり取り(デフロスタ)とを同時に動作させるものがある。このモードにおいて、ヒータユニット内にあるヒータから送られる温風とエバポレータから送られる冷風の量をコントロールするためのスライド式ドアが、少しすき間が開いた状態になった際、異音が生じていた。この現象を流体騒音解析によって音源探索を行い、場所を特定することで、異音対策の一助とすることができた。

図6 ヒータユニット内の流体騒音解析で音源探索を実施した事例
空気が隙間を通る際に生じる異音の場所を 音源探索に
よって特定した

 

解析環境を着々と整備

 解析ツールの習得環境については設計者や専任者それぞれに応じて整備している。初めはSCRYU/Tetraを使用するのは解析専任者数名だった。その後、徐々に増え、現在はSCRYU/Tetraを使える解析専任者は3倍ほどになったという。ブロワ全体およびヒータユニットの騒音については専任者が取り組んでいる状態であり、いかにして多くの設計者が手軽に使えるツールにしていくかが今後の課題だ。

ブロワのメッシュが切れたことが採用の決め手に

 このようにブロワの非定常流れや騒音解析で活躍するSCRYU/Tetraだが、採用した第1の理由が、解析の準備が手軽にできたことだ。ヒータユニットに続いてブロワにも流体解析を行おうとしたが、ブロワは羽根の回りをくるむように境界層を設定しなければ圧力を正確に捉えられなかったため、従来のツールでは、本来四十数枚程度ある羽根の枚数を仮に十数枚程に減らしてモデルを簡素化しても、メッシュをうまく切ることができなかったそうだ。その後も試行錯誤したが現実的な方法はなかったという。そこでSCRYU/Tetraを使用してみたところ、境界層を含めたメッシュを容易に作成することができた。

「もう一つの決め手が、解析時間が圧倒的に短かったことです」と小野寺氏は言う。ブロワは非定常解析で、計算にとても時間が掛かった。だが、SCRYU/Tetraでは解析精度を落とさないまま、同じスペックで実に3分の1にまで圧縮できたという。

複数の音源分離が可能に

 騒音解析を行う中で、要望していた機能が追加されたこともあったそうだ。SCRYU/Tetraがバージョン9の時点では、ある点における音の波形をシミュレーションした場合、複数の音源があった場合でも波形はそれらの複合波形であり、音源ごとに分離することはできなかった。小野寺氏らがソフトウェアクレイドルのサポートに問い合わせた時点では、いくつかの観測点における複合波形をシミュレーションし、それらの波形の違いから推測するしかなかった。だがバージョン11においては、ある1点のみの観測で、音源ごとに音圧を分離して評価できるようになったという。実験では音源ごとに波形を分離することは不可能であり、その点からも有用な機能だといえるだろう。

「機能要望の反映をはじめ、日頃のサポートの対応もすごく早いです。ユーザーの声を素早くくみ取ってくれるといったところは国内メーカーならではのメリットだと感じています」(小野寺氏)

連成解析によってシステム全体の評価を目指す

 SCRYU/Tetraでの騒音解析より複雑な解析を行いたい場合は、音響解析の専用ツールとの連携による解析も行っている。さらに、最適化ツールなどとも連携することで、より短期間での開発を求められる中においても、より良い製品開発を目指していくということだ。

 複雑かつ高度な評価を推し進めるケーヒンからソフトウェアクレイドルへの要望としては、複数の解析ツールを連携させる繋ぎの部分は、ユーザーが作りこむにはハードルが高いので、「SCRYU/Teraとダイレクトインターフェースで繋がる解析ツールの種類を増やしてもらえると助かります」(小野寺氏)とのことだ。

回転体の流体解析の設計者展開を視野に

 同社は今後もものづくりへのシミュレーション活用を着々と進めていくそうだ。現在はSCRYU/Tetraは解析の専任者しか使えないが、今後はライセンスを増やすとともに、マニュアルの充実や、ブロワ領域の流体解析についても自動化ツールを作る計画を進めているという。VBインターフェースを活用して、ソフトウェアクレイドルが実施する講習を受けながら取り組みを始めているということだ。

 着々とCFDの活用範囲を広げ、効率良い設計環境を追求するケーヒン。SCRYU/Tetraも確実により良い製品作りの力になっているようだ。

 

株式会社ケーヒン

  • 設立:1956年12月
  • 事業内容:自動車部品の製造販売
  • 代表者:代表取締役社長 田内 常夫
  • 本社所在地:東京都新宿区
  • 資本金:69億32百万円(2013年3月31日現在)
  • URL:http://www.keihin-corp.co.jp/

※SCRYU/Tetraは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2013年6月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。


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