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株式会社ACR 様

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株式会社ACR 様インタビュー
図1 主力製品の酸化触媒「ACR EXCAT」、「ACR DPF」

レンジエクステンダー用ターボ過給機の高効率化をCFDで検討
金属3Dプリンタで実用化


自動車の排ガス用触媒で高い技術と販売台数を持つACR。新たな取り組みとしてレンジエクステンダー付きEV用の超小型ディーゼルエンジンの開発に取り組んでいる。その中で活躍しているのがソフトウェアクレイドルのSCRYU/Tetra®だ。


 ACRは、トラックなどのディーゼル車に取り付ける排ガス浄化装置において高い技術力を持つ企業である。ディーゼル車の排ガス中に含まれる粒子状物質(PM:particulate matter)を取り除く装置には、ディーゼル微粒子除去フィルタ(DPF:diesel particulate filter)と酸化触媒によるものの2種類がある。DPFは、PMをフィルタで捕集して燃焼などによって除去する。一方、酸化触媒は白金などの触媒酸化作用によってPMを除去する。ACRが開発、販売する第1種PM低減装置「ACR PMR」は、関東の八都県市における規制条例に対応する製品だ。また比較的PMの少ない自動車には、酸化触媒型PM減少装置「ACR-EXCAT」を用意している(図1)。またNOx・PM低減装置「ACRNXPR」なども多くの台数を出荷している。

 

 排ガス浄化システムのほかにも各種触媒やハニカム、フィルタの開発・製造・販売を行っている。また事務所や住宅用の蓄電システム「ACR-NHBL52」は、非常時のバックアップ電源や電力需要のピークカットに貢献する製品だ。さらに各種評価装置も本格的にそろえており、各種評価を自社で行うとともに、試験受託などにも対応している。


 そんなACRが最近新たに取り組んでいるのが、電気自動車(EV)向けエンジンの開発だ。ACR 取締役 技監の岸下敬治氏(写真1)は、レンジエクステンダー付きEV用補助エンジンのプロジェクトの担当主査として全体を取りまとめると共に、そのエンジン用ターボの開発に取り組んでいるという。

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写真1 ACR 取締役 技監 岸下 敬治 氏

ソフトウェアの進化から再びCFDを導入

 レンジエクステンダー付きEVとは、補助発電エンジンを積むことで走行距離を伸ばしたEV(電気自動車)である。環境対応への面から電気自動車への需要が高まっている一方で、電気自動車には走行距離が短いという弱点がある。充電スタンドの数は多くないがガソリンスタンドはたくさんあるため、補助エンジンによる発電システムを搭載していれば、バッテリーがなくなっても充電して走り続けることができる。なおプラグインハイブリッド車(PHEV)とは根本的に仕組みが違う。PHEVはガソリンエンジンでも走る電気自動車で、従来のガソリンエンジンにバッテリーが加わる分だけ高価になる。そのため電気自動車を普及させるという目的に対しては有効ではないという。


​ ACRが開発しているレンジエクステンダー用の発電エンジンは単気筒で、軽くかつ安価に抑えられるという。レンジエクステンダー付きEVは、燃料を多く使うが移動距離は予測できない宅配などのジャンルで需要が高いそうだ。業務用では途中で止まることは許されないため、環境配慮といってもEVの採用は難しい。だが発電用の補助エンジンを積めば、そういったジャンルでもEVへの切り替え需要があるということだ。

 このレンジエクステンダー用発電システムの開発は、電気自動車の普及を促進する可能性があることから、独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による助成を受けているという。3年実証 開発を行い有望技術と判断されたとのことで、さらに3年間で、実用化を目指して開発を進めているという(図2)。

 

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図2 小型ディーゼル発電機付きのEVコンポーネントシステムの開発を行った


 エンジンの開発に際しては、小さいと脈動が大きく負荷が掛かり、また排気量も小さいという課題があった。そのため新たなターボ過給機の開発が必要になった。そこで代表取締役社長の松岡寛氏の「最近はシミュレーションの性能が上がっているから活用しよう」という掛け声とともに、熱流体解析ツールを採用することになったという。

 岸下氏らは以前、海外ベンダーのCFDツールを使っていた時期があった。だが非常に難易度が高く、さらに使い方を聞こうにも聞ける人がいなかったため、うまく業務に組み込むことができなかったという。「国内ベンダーであれば使いこなすことも可能だろう」(松岡氏)ということで、ソフトウェアクレイドルのSCRYU/Tetra®を導入することに決定した。

高効率のターボを設計

 岸下氏らが開発しているターボ過給機は、軽自動車に使用されている世界最小のターボ過給機よりさらにガス流量は3分の1でありながら、さらに高効率化を目指したものとなっている(図3、4)。流体解析では高効率な動翼流出角度となる翼形状を検討した。解析メッシュの要素数は約600万である。解析の結果、ターボ過給機の効率を上げるには、出口の角度を小さくするとよいのは間違いなさそうだと分かった。設定した運転条件では出口角度を極端に小さくすることにより流出損失を小さくできせん断発熱による熱エネルギーへの変換が大幅に減少できるということだ(図5)。SCRYU/Tetra®で計算すると、現在市場に出ているものより10%程度効率が良くなる可能性があることが分かった。

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(左)図3 レンジエクステンダーEV用 ディーゼルエンジン向けターボ過給機の外観
(右)図4 ターボ過給機のタービン



図5 シミュレーションにより高効率な翼形状を検討した結果
タービン動翼出口流出角度を小さくすることにより、動翼出口の発熱が減少し効率が向上することが確認された。
上のタービンは右から流出角度が50、30、20度のもの。下はせん断発熱のコンター図


 「ただこれを通常のターボ屋さんが作らないのは現在の製造方法では生産性が悪くなりコストアップを招くからです」と岸下氏は言う。同社では最近金属3Dプリンタを導入したため、型を抜きにくい複雑な形状でも可能になったということだ。

 実際に解析結果の検証もしているが、傾向は解析と実験で一致しているという。今後さらに精度を詰めていく予定だ。試作には長い時間と多額の試作費用が必要だが、それを熱流体シミュレーションで置き換えることができ、大きな効果が出ていると岸下氏は言う。


 一方、熱流体シミュレーションではどうしても1回の計算に時間が掛かってしまい、たくさんの形状を検討することは難しい。そこで岸下氏は、回転速度や圧力に応じた、ガス流量と効率を簡易的に計算できるツールを作って活用している。簡易計算で分かるのは入り口・出口の面積や入り口・出口の羽根の角度、絞りの効果なので、詳細の羽根の形は検討できない。簡易計算であたりをつけた上で流体解析を行い、詳細な羽根の形状などの検討を進めたそうだ。

 また並行して検討したのが薄肉化だ。ガスが入って出てくる間のスクロールの場所で熱が伝導によって逃げていく(図6)。スクロールを薄肉化し熱伝導を低減し、更に外周を断熱材でくるみこむことにより効果的により放熱を防ぐことができるという。この対策によってタービン効率を上げたのと同じような効果が出るという計算結果が出ており、シミュレーションによってさらに検討を進めていく予定だ。


図6 ターボ過給機の改良
タービンスクロールを超薄肉にするとともに、外周を断熱材で囲んで熱の放散を防止し、タービン仕事の増大を図る。

 また触媒関連にも熱流体シミュレーションを活用しているという。新しい触媒材料を作るための撹拌について基礎検討をシミュレーションで行った。反応させながら混ぜるので、そのスピードを最適化するために使用しているそうだ。

 今回のエンジンの試験のために、燃料噴射システムの確認のための試験機や、シリンダー内でできる渦を測定する装置、ターボ過給機の試験機などを全て自作したそうだ。また燃料噴射システムのノズルなどは非常に特殊なため、専用の加工機を3台購入し、加工ノウハウを蓄積した結果、専門メーカの手を借りずに新たな燃料噴射システムを短期間かつ安価に開発することが可能になったとのことだ。

 現在取り組んで切るターボは全く新設計だが、岸下氏自身が以前の会社で豊富な経験を積んでいた。以前はディーゼルにターボを付けると壊れると敬遠されていた時代があったそうだ。だが燃費対策で取り組まなければならないという状況で開発に携わった経験があり、今回の開発にそれが生かされているようだ。

 ただエンジン技術は岸下氏自身が豊富な経験があったとはいえ、ACRとしては0からの取り組みだった。また岸下氏が以前取り組んだディーゼルエンジンは鋳鉄だったが、今回はシリンダーブロックなどがアルミだった。思ったより剛性がないなど結構苦労したそうだ。また噴射系も含めて全て手掛けることも苦労した点だったそうだ。

見込み通りの使いやすさだった

 岸下氏らが以前使っていた海外のツールは、「ものすごい変数の塊」(岸下氏)だったそうで、使いこなすのに苦労したそうだ。実物で検証済みのものについて解析してみても実物とあった結果を中々導き出すことが出来ず、結局使いこなすところまでには至らなかったそうだ。岸下氏はデータの蓄積などの準備と手厚いサポートがなければ使うことが難しいだろうと感じたという。実は今回のSCRYU/Tetra®も、はじめは使いこなせないのではないかと岸下氏は反対したそうだ。だが「今はツールも進化しているし、国内のベンダーなら必ず対応できるだろうということで、トップの判断で導入しました。結果的にはトップの判断が正しかったですね。ポイントポイントは非常にあっていると思います」(岸下氏)と満足しているそうだ。

 熱流体シミュレーションの活用はコストダウンの面でも役立っているという。実験自体は1点5分くらいでできる。ただ試作1つに250万円など非常にコストが掛かるケースもあるからだ。ロストワックスで鋳物を作っており、金額だけでなく時間ももちろんかかる。NC加工機で試作するにしてもモデルデータ作成に時間がかかり、作成も10数万円の費用と2週間前後の時間がかかってしまう。金属3Dプリンター導入後はよい形状を作ることができ、台数を揃えれば量産に使えるほどだそうだ。ただし表面が粗いため、ショットピーニングを掛けることでなめらかにする必要があるが見通しがついたということだ。

電気自動車全体も解析

 電気自動車の場合は、熱の管理が非常に重要になる。普通の自動車だとエンジン本体とラジエータの2つしかないが、電気自動車ではモーターやインバータ、電池など冷却しないといけない要素が多いため、その熱交換システムをどうするかもSCRYU/Tetra®で検討する予定だということだ。モーターのインバータは小さくても数kW程度の熱エネルギーを放出している。これらをうまく吸収するよう、夏と冬や、坂を上るなど様々な条件でも成立させられるよう計算したいということだ。

 電気自動車という新たな挑戦を進めるACR。同社においてSCRYU/Tetra®はますます強い味方となりそうだ。

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株式会社ACR

  • 設立:2004年
  • 事業内容:半自動車用排気ガス浄化装置の製造販売、自動車用排気ガス浄化装置の研究開発、ディーゼルエンジン排気ガス処理装置のコンサルテーション
  • 本社所在地:神奈川県大和市

 

※SCRYU/Tetraは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本パンフレットに掲載されている製品の内容・仕様は2015年1月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。

  

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