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株式会社WindStyle 様

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株式会社WindStyle 様インタビュー

建築分野でSTREAMが活躍、ビル風の予測から風力利用まで活用は幅広く

風工学のコンサルティングを行うWindStyleでは、ビル風などのシミュレーションをSTREAMを使って行っている。CFDを活用すれば、従来の風洞実験と比べて迅速に解析結果を得られる、顧客への説明をグラフィックで見せることができるといったメリットがある。さらに、建築の分野では「ビル風=風害」だけではないさまざまな使い道があるという。詳細について株式会社WindStyleの松山哲雄氏に話を聞いた。

 

 WindStyleは風工学に関するコンサルティングを行う企業だ。同社代表取締役社長の松山哲雄氏は2003年に熊谷組から独立、今日に至るまで累計で約300件のコンサルティングを手掛けてきた。同社では建築物の風に関わる問題に対して、流体解析ソフトウェアSTREAMや風洞実験によってシミュレーションを行った上で、顧客に合わせたアドバイスを行っている。


 
株式会社WindStyle
代表取締役社長 松山 哲雄 氏

 WindStyleへの依頼で現在とくに多いのは、マンションなどの高層建築物が建つ際のビル風の評価である。強風によって人が倒れたり洗濯物が飛ばされたりといったトラブル、いわゆる風害をあらかじめ予測するためのものだ。高層建築物による風害に対しては法律による規制がまだないこともあり認知度が低く、建設予定地の住民から建築主(不動産会社)や設計・施工者に問い合わせが来た段階で、建築主がWindStyleに依頼することが多いという。中でも10階建て以上の建築物の依頼が多いそうだ。

 同社のように高層建築物が周辺地域に与える風の影響について専門に取り組んでいる所はまだ少なく、大手ゼネコンが大型プロジェクトで行っている程度だという。しかし、住環境への関心が高まる中、建設前に風の影響を検討するという機運は高まりつつある。
 

モデリングのため現地調査


 ビル風のシミュレーションに際しては、CFDと風洞実験のどちらにおいても3次元モデルのデータが必要になる。建設予定の建物を中心として通常半径300~400m程度の範囲で、地形や周辺の建物、樹木などを再現する。建設予定の建物については、たいてい依頼者からCADデータを受け取るが、ほとんどの場合が2次元図面であるため、3次元モデルを書き起こす作業が必要だ。周辺の建物や地形については丸1日ほどかけて現地調査をする。中心近くの建物については屋根の形まで記録するという。市販されている航空測量のデータも合わせて使用する。こうして集めたデータや写真、またGoogleストリートビューの写真なども参考にしながら、3次元CADのGoogle SketchUp上に必要なモデリングを行っていくという。

 続いて風洞実験においては、木や押出発泡ポリスチレンなどによる手作り、または樹脂成形による3Dプリンタなどを利用して、実験用の300~400分の1モデルを作成する。そして測定したい箇所にセンサーを取り付けて、各点における風向き、および風速のデータを風洞で測定する。
 

CFDシミュレーションの手順


 STREAMでの解析においてはCADデータをSTL形式に落とし込み、メッシュを切って、境界条件はテキストファイルで入力して解析を行う。中心部は50cm刻みに、周辺部は5m刻みにといった具合で1000~2000万程度のメッシュを切り、通常は6コアのマシンで解析する。条件は最低でもマンションを建てる前と後の状態で全方位(16風向)、合計32パターンを計算する。

 以上のシミュレーション結果を踏まえ、風の流れが強い場合は木を植えたり、建物の位置や形状を変更したりといった対策を考える。そしてそれを再度CFDで検討し、対策をアドバイスする。なお、風環境の評価には村上評価という指標がある。これは、3段階の大きさの日最大瞬間風速ごとに、発生頻度を年間における日数の割合で表し、それぞれの風速ごとにランク分けするものだ。これらの数値は、実際に住民の体感を調査した結果に基づいて決められており、一定の数値を越えると許容外と判断される。これらの数値をもとに依頼者への報告書を作成したり、場合によってはSTREAMでアニメーションを作成して住民説明会で説明を行ったりするという。
 

国産なので深く使いこなせる


 松山氏が独立するときに、いくつかのCFDツールは検討したものの、やはり国産のツールのほうが深く使いこなせると考えたことからSTREAMを選んだという。「海外のツールだと場合によっては国内では対応できず開発元の国とやり取りするため手間が掛かるということもあり得ます。またテキストベースで解析の設定ができ、専用ツールを使わなくてもカスタマイズできたのも好材料でした。その後VBScriptに対応したことよって、さらに使いやすくなりました」(松山氏)。

 STREAMでの解析作業においてとくに重要なポイントとなるのは、最初のモデルの作り込みだという。これはかなり手間のかかる作業だが、モデルデータが変わると解析結果も大きく変わるという。そのため納期が短いときでも、この作業は削れないということだ。
また精度を高めようとしてむやみにメッシュを細かくするのではなく、結果を分析してどう設計に反映していくかが重要だという。「CFDの結果は平均値であり、誤差はどうしても出てくるものだと考えています。むしろ誤差特性をふまえることで、さまざまな結果の使い道があります」(松山氏)ということだ。


風洞実験とCFD、それぞれの長所で使い分け


 風洞実験では時間による変化を迅速に計測することが可能だ。また実際の空気で調べるのでデータの信頼度は高いとされる。なお風洞実験は、一度準備をすれば10分間の変化を10秒に短縮して得られ、1~2時間で16風向のデータを取ることができる。


 欠点としてはモデル作りおよび風洞利用に時間とコストが多く掛かることや、風洞を利用するため遠方に出向くこともあるので小回りが利きにくいなどがあげられる。通常1つの案件につき500万円以上、期間は2か月程度かかるという。ただ風洞実験は共通のノウハウや歴史があり、実際の空気でシミュレーションを行うので細かい流れも再現できる。データはセンサーを設置したピンポイントでしか得られないものの、精度が高く時間変化も測定することができる。

 
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常緑高木の設置による風速低減効果を確認したケース
防風対策の検討事例(都内某所)

 

 一方、CFDは「依頼から1、2週間以内で、迅速に何らかの結果を顧客に示せるツールだ」と松山氏は述べる。風洞実験ほど制作時間が必要ではなく、実験場への移動も必要ない。また、風洞では難しい空気の流れを可視化することも容易であり、アニメーションを見ながら議論や相談をすることができる。さらには、木を植えたり建物の設計変更といった条件変更も簡単な上に、変更前後の空気の流れの変化も簡単に比べることができる。


 しかし、精度の面では風洞実験に劣る部分が多いと指摘する。精度を高めるためにはメッシュを細かくすればよいが、数cmのメッシュを切った場合にやっと風洞レベルに近づけるのではないかという。そうすると計算規模が大きくなりすぎ、現状では不可能だという。究極的には時間に応じた変化も解析できればいいが、CFDでは今のところ基本的に平均値を出すものとして使用している。「あらゆる場面で風洞レベルに精度を近づける必要はなく、むしろCFDは速い、可視化できる、変化を抽出し分析しやすい、一方、風洞実験はピンポイントではあるが精度が高いというそれぞれの長所を利用すればよいでしょう」と松山氏はいう。

積極的な風力利用を提案したい


 CFDのこのような長所を生かせば、建築分野においてもっと多くの有益な使い道があると松山氏は力説する。その用途のひとつが、戸建て住宅への適用だ。日本の夏には冷房器具が欠かせないが、シミュレーションを使えば、多くの家庭ですべての時間帯とは言わなくてもクーラーをつけずに過ごせる時間帯を増やせるようになるという。通風口を適切な位置に設けて、必要な時間のみ自動開閉を行う、空気取り込み口に池を配置して冷たい空気を取り込むなどといった対策をすれば、冷房器具の使用を極力減らすことができる。このように空気の流れを設計段階であらかじめシミュレーションすることにより省エネ住宅を実現できる。

 さらに高層建築物は上層部で強い風を受けるために風害を引き起こしやすいが、見方を変えれば風のエネルギーが豊富ということだ。建物自体の形状や配置を工夫することによって、うまく風をいなしたり、内部に取り込んだり、風力発電など積極的な風の利用も行えるかもしれない。「メッシュを25cmにすれば、マンションの周辺と同時に中の空気の流れまで同時にシミュレーションができるようになるかどうかということも確かめています。将来ハードやソフトの進化、並列化などが進めば、STREAMが使われる範囲はさらに大きくなるでしょう」と松山氏はいう。
 

課金システムが変われば需要の変化も


 建築分野で大きな可能性を秘めるSTREAMだが、一方で解析を幅広い分野に応用するためには並列化による高速・大容量化が必須だと松山氏はいう。そこでソフトウェアクレイドルに対しては課金システムの柔軟化も視野に入れてほしいということだ。「かつて想像していたほどに建築分野でCFDが活用されていないように感じます。並列利用をすると追加の課金が発生するため、思い描く活用に対するハードルになっているのかもしれません」(松山氏)。同氏が初めてCFDを操作した15年前から、ハードおよびソフトは進歩し、解析スピードは劇的に速くなった。しかし、それでも1台のコンピュータでできることには限界がある。例えば、近い将来はその場で顧客を交えてリアルタイムで検討するといったことも考えられるが、その場合もクラスタは必須だろうと松山氏は考えている。「建築分野で並列マシンを使うことができれば可能になる解析は多くあります。ですが、お金がかかりすぎてしまうと、たとえCFDの利用が有益な案件であっても社内を説得できないケースが多いのではないか」と松山氏はいう。課金システムが変われば、今までは使えなかった分野でも活用できるだろうということだ。
 

建築分野におけるCFDシミュレーションの今後


 「ビル風については、人が倒れたり洗濯物が飛ばされたりといったマイナスの面が注目されがちですが、風力として利活用するという発想の転換もできます。その利用にシミュレーションは非常に役に立ちます」(松山氏)。さらに「こういった問題は日本に限ったことではありません。電力供給の安定しない国で冷房器具が止まってしまうことがあっても快適に作業ができるように、換気のよい建物を建てようというアイデアも発表されています」(松山氏)。将来、国内外を問わず建築分野では幅広い応用が可能であると松山氏は期待を寄せる。STREAMの進化とともに、WindStyleの活躍分野も大きく広がることだろう。今後の展開が楽しみだ。

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株式会社WindStyle

  • 設立:2003年12月
  • 事業内容:風工学分野の研究開発、および関連技術サービスの提供等
  • 代表者:代表取締役社長 松山 哲雄
  • 本社:新潟県新潟市秋葉区

※STREAMは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2013年3月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。


  

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