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株式会社WindStyle 様

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株式会社WindStyle 様インタビュー

より実務の精度を増し、より身近な世界に広がりを見せる風をシミュレーションする

複雑な風の流れを見極め、建築物および周辺環境への影響をシミュレーションする。以前は大規模な設備と時間を要し、一部の専門家だけに委ねられてきた風洞実験が主流であったが、熱流体解析を行うコンピュータシミュレーションによってその一部が取ってかわられようとしている。現在は両者のメリットを融合して使っていくことが求められるが、熱流体解析ソフトウェアSTREAM®を長年使っているWindStyleの松山哲雄氏は、さらに先もイメージして活用している。
STREAM®を使って、風をポジティブに捉えることで、設計プロセスや建築物はどのように変わるのだろうか。

 


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株式会社WindStyle
代表取締役社長 松山 哲雄 氏

STREAM®で建築物にまつわる風のシミュレーションを行う

 風工学に関するコンサルティングを行うWindStyle。同社代表取締役社長の松山哲雄氏は、学生時代は日本大学生産工学部建築工学科で風工学を研究する丸田榮藏教授に師事し、風洞実験によるシミュレーションに携わっていた。熱流体解析ソフトウェアSTREAM®に出会ったのは、松山氏が風工学の研究職で1998年に就職した大手ゼネコンの熊谷組。「技術研究所で導入していたものの、あまり有効には使われていませんでした。自分で扱い始めると、当時はコンピュータの性能が追いついていなかったので“おもちゃ程度”の印象でしたが、面白いとのめり込むようになりました」と松山氏は振り返る。その後も使い続け、「当時は頑張っても100万メッシュ程度で全体の大まかな傾向を捉えるだけでしたが、可能性は十分に感じていました。将来は風洞実験との立場が逆転するだろうと考えたのです」。2003年に、松山氏は独立。会社設立後もSTREAM®を使える環境を整え、風にまつわるコンサルティング業務を行なっている。

 これまでの主な業務内容は、マンションやオフィスビルなどの高層建築物が建つ際に起こるビル風の評価である。大手不動産業者やゼネコンからの依頼を受け、新規で建物をつくった際の前後について、風の変化のシミュレーションを行い、結果を報告。改善・変更を提言している。

 STREAM®で解析する場合、建設予定地の建物を中心として、風の性状を再現する上で最低限必要な半径300〜400m程度の範囲で、建設する建物、周辺の建物、樹木、地形などを再現する。計画建物の近傍をより高精度につくり込むが、計画建物が大きくなるほど、つくり込む範囲は広げるのが一般的だ。松山氏は、前提条件となるこの作業を正確さを期し、入念に行うことをモットーにしている。市販の航空測量データやGoogleEarthも参考にしながら、周辺調査は自らまたはスタッフが行い、周辺環境を写真で多く記録。集めた資料をもとにして、総合的にSketchUpでモデリングを行う。このモデリングデータをSTL形式に変換し、STREAM®のプリソフトでメッシュを作成、解析を行うという手順を経る(図1、2)。

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図1 計画建物とその周辺の3Dモデル

 

 風環境については、年間での強風の発生頻度から判定する「村上評価」を使用。1日のうちで最大瞬間風速が10・15・20m/sを超える日数を予測し、それらの日数によりランク1から4の評価を付けるというものだ。このためにモデルをつくり、16方位についてSTREAM®でシミュレーションを実施する。建物をつくる前と後の状態で行うため、解析は少なくとも合計32ケースにのぼる。


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図2 作業フロー

 

CFDソフトウェアと風洞実験とのベストミックスに有利なSTREAM

「STREAM®は他のソフトとの親和性が高く、入出力が柔軟な点がいいですね。地図データを読み込んで街区をつくる場合も、入力のフォーマットは豊富です。また、スクリプトを自作して実行することもできます。弊社ではSTREAM®で得られた解析結果の出力について、メッシュ位置に左右されないでなめらかに見せるようにビジュアルの調整をするオリジナルのソフトをつくりました」と松山氏は語る。シミュレーション結果を見慣れないクライアントや関係者に、よりわかりやすく自然に伝えることができ、好評を得ているという。

 こうしたカスタマイズは、国産のソフトならではのサポート体制も大きく関係していると松山氏は指摘する。「カスタマイズしたい時に細かなニュアンスも伝わりやすく、意見交換が直接できるのは大きなメリットです。本体そのものがカスタマイズしやすい環境で、ユーザーの要望に応じて機能アップも順次取り入れられていることを実感します」。

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写真2 風洞実験による比較検証

現在のところ松山氏は、以前からの物理的なシミュレーションを行う風洞実験(写真2)と、CFD(数値流体解析)ソフトウェアによるシミュレーション(図3、4)の両方をツールとして用いている。「風工学は風洞実験が先行してきましたから、コンピュータによるシミュレーションは徐々に風洞実験に置き換わりつつあるという段階。基本的に両者は別の手法・分野として研究開発等がなされていることが多いが、自分は今のところ、両方のいいところをとりながら両輪でシミュレーションを進めています」と松山氏。


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図3 STREAMによる地表面付近の風速分布 & 建物壁面風圧分布図


図4 STREAMによる地表面付近の風速分布 & 建物壁面風圧分布図

 

 そもそも、風洞実験とCFDでは特性がまったく異なるという。風洞実験はピンポイントの場所で、時刻歴で測定するもの。また、相似則で実際の100倍の早さで時間が進むので、10分間の変化を10秒以内に短縮して得られる。その一方でCFDでの結果は空間全体で、平均値で計算していく。実際の100倍の遅さで時間がかかる。現時点ではそう捉えている。ただ準備に手間のかかる風洞実験は2カ月ほどを要する一方で、CFDは数日から1カ月ほどで何らかの結果を得られる。「ツールとしての特性がまったく異なるので、ケースバイケースで使い分けをしたり、相互に補完したりします。STREAM®で解析を行う場合、風洞実験との誤差について補正をかける専用のソフトも開発して使っています」と松山氏は言う。


 風洞実験とCFDとの融合も松山氏は進めている。「STREAM®の 解析データを風洞実験の空間補完値として利用したり、解析モデルデータを3Dプリンタに出力して計画建物をつくり、風洞実験に使ったりしています。3Dプ リンタの導入費・材料代のコストダウンが進み、周辺データも例えばGoogle Earthなどからダウンロードできるようになれば、CFDとのやり取りによってさらに可能性が広がるでしょう」。

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写真3 実測検証例

より実用的で身近になるCFDシミュレーションの世界

 松山氏は、STREAM®でより詳細を解析する場合には、ネットワーククラスタが重要なことを使用当初から見越していた。「STREAM®はクラスタ対応が早く、自動車や機械系分野で先行して利用されていたので、建築分野での利用も期待していました。ただし、解析が大規模になり、パターンも多くなりやすく、結果の使い回しも難しい建築分野特有の事情があるにもかかわらず、他分野とライセンス形態が同じであること、これが大きなハードルであると考えていました。皆にとって有益であるはずの素晴らしいツールが多くの案件で使われていないことに、勿体ないという気持ちがありました」と打ち明ける。松山氏の声に応えるように、開発元のソフトウェアクレイドルではクラウドメーカーと協働し、使用した分だけ課金する日額従量料金サービスをこの秋よりスタートした。「CFDソフトでは日本初ですよね。これでさらに普及が広がると期待しています」。

 風環境のシミュレーションというと、ビル風に伴う「風害」ばかりに関心が向かっているが、この点でも松山氏はSTREAM®の可能性に期待を寄せている。「シミュレーションが当たり前になれば、その結果をもとに設計者や施工者、行政や近隣住民などが有意義な話し合いをできるようになります。クライアントにとっても、リスクマネジメント上、有益なことであることが理解できると思います」。さらに、建物にかかる風の力を利用した風力発電、また自然換気や通風を採り入れた建築設計も容易になると松山氏は言う。「CFDを活用し、風を効率よく取り込めば、日本の多くの地域でエアコンのスイッチを切っていても快適になる時間帯をかなり増やせるでしょう。風をポジティブに捉えることで、どんな物件でも心地よい自然風を取り込むことができるのです。CFDがあらゆる建築物に大きな付加価値を与えることができるはずです」。

 さらに、松山氏は風工学を一般社会に広げる姿も見据えている。見えない風を誰でも・どこでも・いつでも、見える・感じる・利用できるような“仕掛”を準備しているところです。「この“仕掛”ではSTREAM®がコアとなっており、さまざまな場面で使えると思います。一般の人に風を身近に感じてもらうことから、さらに新たな使い方や需要が生まれるはずです」。STREAM®から生まれる、風工学と一般社会との新たな接点により、風環境に対する社会の認識が大きく変わるかもしれない。

 

参考 解析アニメーション例
 
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株式会社WindStyle

  • 設立:2003年12月
  • 事業内容:風工学分野の研究開発、および関連技術サービスの提供等
  • 代表者:代表取締役社長 松山 哲雄
  • 所在地:本店:新潟県新潟市、習志野STUDIO:千葉県習志野市

※STREAMは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2014年10月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。


  

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