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株式会社オーバル 様

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株式会社オーバル 様 インタビュー

確実なフロントローディングを実行したい 
―流量計設計にCFDを本格導入

オーバルは独自技術を生かした数々の製品を生み出す流量計のプロフェッショナルだ。そのオーバルがSCRYU/Tetra®の活用を開始した。最終目的はフロントローディングによる製品精度と品質の向上だ。どのようにして導入効果を引き出すのか、またCFDの活用にあたって心がけていることなど聞かせていただいた。


 オーバルは豊富な流体計測機器を扱う流体機器メーカーだ。1949年に、元日産自動車の社長が発明した「オーバル(楕円)歯車」の製品化を目指して創業された。同社の三大製品であるオーバル流量計、コリオリ流量計、渦流量計をはじめ、幅広い流体関連機器を提供している(写真1)。流体機器専業メーカーの最大手として、ユーザーの要望に応じた最適な流量計を提案、提供しており、同社にしかつくれない特殊製品を官公庁向けに提供するなど、専業ならではの高い技術力をもつ。



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写真1 オーバルの流体計測機器 超音波流量計(左) 渦流量計(右)


 流量計とは単位時間当たりに配管の断面を通過する流体の量を測定する計測機器であり、身近な場面ではガソリンスタンドや水道メーター、ガスメーター、さらに化学や食品用プラント、工場の排水や排ガスの計測などをはじめとして、あらゆる流量計測の分野において欠かせない計測機器だ。流量計は、大きく「体積流量計」と「質量流量計」に分類される。具体的には、体積流量計は単位時間当たりに通過した流体の体積、質量流量計は単位時間当たりに通過した流体の質量を計測する。体積流量計はさらに、「実測式」と「推測式」に分類される。社名にもなっているオーバル歯車流量計は、実測式の体積流量計だ。2枚のオーバル歯車を組み合わせたものを流量計内部に設置することで、一回転ごとに決まった量の流体を送り出し、回転数によって流量を計測する。一方、写真1に示すような超音波,渦流量計などは推測式に分類される。


より実戦向きのCFDを

 同社がソフトウェアクレイドルの流体解析ソフトウェア「SCRYU/Tetra」の導入を検討し始めたのは2013年の秋ごろだった。オーバルでは以前から別の流体解析ソフトウェアを使用していたが、解析精度やスピードに満足できなかったためだという。

 SCRYU/Tetraの導入準備にあたっては、まず「評価版を無償で2ヵ月間利用できたことが非常によかった」と本宮氏(写真2)はいう。評価中は丁寧な技術サポートを受け、その期間中に十分に評価することができた。これらのことから「導入後も安心して使えるだろうという印象を受けました」(本宮氏)。


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写真2 株式会社オーバル
研究開発部 研究開発一グループ
主任 本宮 武志 氏


実測値との比較で良好な結果

 オーバルでは、SCRYU/Tetraの導入後、まず計算値と実測値の比較を行った。対象とした流量計は推測式だ。推測式はプラントなどでよく使われている。また特徴としては、配管内の速度分布に流量の計測精度が影響されやすいという。そのため、流量計の上流側にエルボやジョイント、バルブといった管路要素が取り付けられている場合、旋回流や偏流が生じ、流量計の性能を十分に発揮できないことが多く、管路要素と流量計の間に十分な直管長さを設けることが、国際標準化機構(ISO)1)において定められている。ただし実際のプラントでは、設置スペースの制約から十分な直管長さを確保することが困難な場合も多いので、短い直管長さで理想的な速度分布を得るために整流装置が使われることがあるという。


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図1 流出口の手前における流速分布の比較(Hilgenstockら2))の実験条件)
空間二重曲がりの配管構成で、手前が流入口、奥が流出口。


  図1は、「空間二重曲がり」の配管における実験条件の図だ。これはドイツの国立物理工学研究所(PTB)の規格認証に関わるモデルで、ある厳しい条件の配管構成で試験をした時の速度分布の実測値を示している2)。図1で流体は手前から流入して上側へと流出する。その出口の手前でレーザードップラー流速計を用いて、管内の流速分布を実測している。


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図2 Hilgenstockら2)の実験値と解析値の比較
― SST k-ωモデルが実験値と最も一致した。

 図2はSCRYU/Tetraを使って、どの乱流モデルが実測値と一致しているかを比較したグラフだ。これによると、SST k-ωモデルによる解析値が、非常に高い精度で一致している。グラフの横軸は管断面の中心からの距離、縦軸は断面における流速分布になる。なお、縦軸と横軸については、それぞれ管半径と、断面平均流速で除して無次元化している。


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図3 整流板から管直径の1.5倍下流の位置における流速分布の比較(Xiongら4)の実験条件)
― 奥から手前へと流体が流れる。

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図4 SST k-ωモデルでの解析による流線の様子 ― 整流板がない場合は、旋回流が発生していることがわかる。


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図5 流速分布 ― SST k-ωモデルでおおむね一致しているといえる。 


 続いて、整流板を取り付けた場合の検証を行った。図3は、空間二重曲がりの管に、AKASHI plate3)と呼ばれる整流板を組み込んだ図だ。流体は奥から流入する。この解析では、先の検証解析で精度の高かったSST k-ωモデルを採用している。図4は解析の結果得られた流線を示している。整流板がない場合は旋回流が発生していることがわかる。図5の左図は、流れが整流板を出て管の直径の1.5倍の位置における流速分布である4)。縦軸が管断面の中心からの距離、横軸が流速分布を示している。壁面で差が出ているのは測定結果に壁面の影響が出ているためと推察している。またSST k-ωモデルは、解析ツールの種類に関わらず、壁面近傍の速度分布が大きめに出る場合があるという。以上のことも考えて、「壁面近傍を除いて全体的におおむねよく一致している」(藤川氏・写真3)と考えられるということだ。


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写真3 株式会社オーバル 研究開発部 研究開発一グループ
主任 博士(工学)藤川 俊秀 氏


フロントローディングの実現を目指す

 「やはり将来的に目指すのはフロントローディングです。そのための技術蓄積がまずは大切になるでしょう」と藤川氏はいう。SCRYU/Tetraは、モノを作り始める時点ではなく、作る前に活用する予定だ。これにより、試作数と試験回数を減少させ、確実に低コスト、時間短縮につなげていく。「開発コスト削減のためには、実機を用いた試作・試験でトライアンドエラーや手戻りをなくすことが重要です。そのためにはCFDによる予測が必要になります」(藤川氏)。特に流量計は、少量多品種の典型例だ。口径、圧力、温度、粘度などのパラメータの違いによって様々な流量計を設計する必要がある。SCRYU/Tetraは、それらの条件をあらかじめ絞り込み、開発スピードを上げるための有効なツールのひとつになるというわけだ。その結果としてフロントローディング、ひいては製品精度と品質の向上の実現へとつなげていきたいと藤川氏は語る。
 
 現在の解析は、1千万から2千万メッシュを30ケースといった条件で定常解析を行い、4並列で1~ 2週間ほどの計算時間になるという。「時間が課題ではありますが、非定常でなければわからないこともあるので、そこはチャレンジしていきたいですね」と本宮氏は語る。「そのためには並列数を上げる必要はありますが、1ライセンスで複数ジョブを回すことができるとありがたいですね」(本宮氏)。近年利用が増えているクラウドサービスであれば、何百といった並列計算を流すことも可能だ。頻繁には行わない大規模計算であれば、利用に適しているといえる。本宮氏もクラウドサービスについては選択肢の一つとして認識しており、費用対効果を示せるのなら、クラウドを使う可能性もあると考えているということだ。

 

メッシュ作成の速さは大きなメリット

 ソフトウェアクレイドルのサポート面については、「とても親切に対応していただいています。しかも対応が速く、非常に心強く思っています」と藤川氏はいう。また、国内ベンダーのため、資料が全て日本語であることから、英語を得意としない社員にとっても扱いやすいということだ。

 SCRYU/Tetraを使用している中で藤川氏が特に感じるのは、ポスト処理がスムーズに進めやすいことだという。例えば図2のようなグラフを作るためのデータを、解析データから取り出しやすいといったことがあげられる。既存の実測データに合わせて、任意の断面で流速分布を取り出したいという時、画面上で必要な範囲を指示することができる。座標で指定するといった必要がなく、非常に使いやすいという。

 また、メッシュ作成も非常に行いやすいそうだ。以前使用していた他の流体解析ソフトウェアでは、ソフトウェアの制約上、自動メッシュ作成機能がなかった。そのため、連携可能な他のCAEツールでメッシュを切り、そのデータを拡張子を変更した上でエクスポートし、CFDツールにインポートするという手間が必要だった。「SCRYU/Tetraではメッシュ作成が自動で行われ、壁面近傍のメッシュ作成も別途設定できるため非常に使いやすいです」(藤川氏)。この速さは、作業する上で大きなメリットだそうだ。

ボタンさえ押せば答えが出る?

 CFDは、やはりうまく使わなければ効果は出ない。CFDを効率よく使うため、まず目標性能を設定し、それを満たすパターンを枝分かれで考えていくと藤川氏はいう。ここでかなりの数のパターンが出てくるため、それらをまず理論計算によって排除していく。そして理論計算では分からなかったことをCFDによって判断し、さらに条件を絞っていくという使い方をして、最終的に実験回数を減らしていくと藤川氏は話す。

 このように堅実にCFDを使いこなすことで、確実な効果を狙っているオーバルだが、そのベースにあるのは「数値流体力学解析は魔法の道具ではない」という考えだという。CFDはボタンを押せば何でもできるわけではない。「使う側の人間があらかじめ勉強しておくことが非常に重要になります」と藤川氏はいう。CFDツールの操作方法だけではなく、流体工学、数値流体力学解析などに関する勉強をきちんとやっておかなければ、得られた結果が本当に正しいのか判断できない。「個人が勉強した上で使わなければ、いくらすばらしいソフトウェアでも最適な効果を得ることはできません。これは常に意識しておかなければならないと考えています」(藤川氏)。ソフトウェアがあれば何か答えが出るだろうという考えでは、結局使いきれないまま、お蔵入りしてしまうこともある。せっかく導入したツールを無駄にせず、確実に効果を得るためにも、「魔法の道具ではない」という言葉はぜひ押さえておきたいポイントだといえそうだ。

 現在藤川氏は、東北大学大学院 医工学研究科 治療医工学講座 腫瘍医工学分野の小玉哲也教授の研究協力者として、生体内のミクロな極低レイノルズ数流れに関わるシミュレーションを行っている。小玉教授とオーバルの藤川氏が同様の流体研究に取り組んでいたことから、SCRYU/Tetraで解析を行いながら研究を進めていくことになった。この取り組みはオーバルの研究面強化の点でもプラスになるだろうという。

 今後は設計者の中からSCRYU/Tetraの使用者を増やしていき、確実にCFDを使いこなせる人材育成を進めていく予定だ。そしてフロントローディングの実現に向けてコマを進めていく。そこではSCRYU/Tetraが大きな力になるだろう。

1) I SO5167., 2003 Measurement of Flow Field by Means of Pressure Differential Devices Inserted in Circular Cross-Section Conduits Running Full, ISO (2003).
2) A. Hilgenstock, R. Ernst, Analysis of Installation Effects by Means of Computational Fluid Dynamics – CFD vs Experiments?”, Flow Measurement Instrumentation, Vol.7 (1996), pp.161-171.
3) 明石光一郎, 渡辺久男, 古賀賢一, 流量計測用整流装置の開発(計測・制御技術特集号), 三菱重工技報,Vol.12,No.6 (1975), pp.665-673.
4) Xiong, W,. Kalkuhler, K. and Merzkirch W., Velocity and Turbulence Measurements Downstream of Flow Conditioners, Flow Measurement and Instrumentation, Vol. 14, No.6 (2003), pp. 249-260.

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株式会社オーバル(2015年5月12日現在)

  • 設立:1949年5月10日
  • 事業内容:オーバル歯車式およびその他各種流量計の製作販売
    計測管理、エネルギー管理用諸機器、諸装置の製作販売
  • 代表者:代表取締役社長 谷本 淳
  • 従業員数:665名(連結)
  • 資本金:22億円(発行済株式総数2,618万株)
  • 本社:東京都新宿区
  • URL:http://www.oval.co.jp/

※SCRYU/Tetraは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2016年1月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。

  

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