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技術情報・コラム

岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」 第10回

粒子追跡解析(4)

 今回は粒子シミュレーション解析の1つである 粒子追跡法 (Particle Tracking Method)における粒子の 蒸発 や揮発について、化学種生成を詳細にご説明いたします。

 前回のコラムでご説明しました反応粒子(蒸発や揮発を考慮した粒子)では蒸発や揮発をモデル化する必要があります。例として図10.1のように燃料滴の噴霧燃焼モデルを考えます。 流体 からの 伝熱 により燃料滴は昇温し、さらに潜熱に相当する分の伝熱により揮発します。揮発により流体中に生成する有機化合物は燃焼し、二酸化炭素と水蒸気が生成します。


図10.1 燃料滴の噴霧燃焼モデル
 

 第7回のコラム(粒子追跡解析(1) )ではPSI-Cell(Particle Source in Cell)法をご紹介しました。図10.2のようにPSI-Cell法では追跡する燃料滴(粒子)と流体( 格子 で区切られた 要素 )が連成します。燃料滴が昇温・揮発する分、流体要素の 温度 は下がります。燃料滴の伝熱と揮発(燃料滴から流体への物質移動)はプログラムコードによりますが、Ranz-Marshall式(1952年に提案された実験式)を用いることが多いです。Ranz-Marshall式の詳細は省略しますが、燃料滴の揮発成分の蒸気圧を推算する必要があります。本来は燃料滴の表面から揮発するため、燃料滴の温度分布や組成分布を考慮するべきなのですが、燃料滴は均一な温度と組成であると仮定し、燃料滴の平均温度から揮発成分の蒸気圧を推算します。


図10.2 PSI-Cell法

 蒸気圧の推算方法としてAntoine式(1888年に提案された実験式)を用いる方法があります。次式のようにAntoine式は各物質で異なる定数A,B,Cがあり、化学工学便覧(化学工学会編)などに各物質の定数が記載されています。

log10 P = AB / ( T + C )
P 蒸気圧[ Pa ] , T 温度[ K ]

 例えば、軽油に含まれる有機化合物n‐デカン(C10 H22 )の定数A,B,Cは6.0786,1501.27,-78.67となります(蒸気圧と温度の単位により値は変わります)。

 燃料滴から揮発する有機化合物は流体中の酸素などにより燃焼します。燃焼モデルには多くの方法がありますが、流体シミュレーション解析ソフトウェアで広く用いられている渦消散モデルをご説明します。渦消散モデルは 乱流 の拡散燃焼に適用されます。図10.3のように拡散燃焼では、分離している燃料(燃料滴の噴霧燃焼では揮発により生成する有機化合物)と酸化剤(空気)が拡散し、両者の境界で混合されることにより火炎が生じます。化学反応が十分に速く、燃焼速度が燃料と空気の乱流混合に律速されると考え、この乱流混合を 時間平均 乱流モデル から得られる変数(乱流エネルギーとその消散率)で表す方法が渦消散モデルです。


図10.3 拡散燃焼

 それでは、今回も解析事例をご紹介します。燃料滴の噴霧燃焼を粒子追跡法で解析します。図10.4のように流入管と流出管の有る燃焼容器に500℃の空気を流入し、流入管の中心に燃料滴の噴霧ノズルを設置します(噴霧エア温度27℃)。容器およびノズルは 軸対称形状ですので、解析は軸対称2次元とします。流入管の空気流速は25 m/s、噴霧エア流速は38.6 m/s、壁面は全て静止壁、断熱条件とします。


図10.4 燃焼容器
 

 ノズルから噴霧する燃料滴はザウター平均粒径で20μm、粒径分布に抜山・棚沢分布を適用します。噴霧流量は0.005 kg/s(パーセル近似10,000 s -1 )、噴霧速度は15 m/s、噴霧パターンはホローコーンとして、広がり角は110~120°とします。なお、計算を安定させるため、1秒間は空気と噴霧エアだけを流入し、1秒後から燃料滴を噴霧します。燃料滴の潜熱は200 kJ/kg、Antoine式の定数はn‐デカンを用います。燃焼モデルは渦消散モデルとして次の総括反応とします(揮発する有機化合物の組成をC10 H22 とします)。

C10 H22 + 15.5 O2 →10 CO2 + 11 H2 O

また、容器壁面の 輻射率 0.6,容器内の燃焼ガスの吸収率を0.2として 輻射 を解析します。

 図10.5は12秒間の解析結果で燃料滴挙動と温度分布変化になります。図10.5のように燃料滴の噴霧燃焼により容器内の燃焼ガス温度が高くなるのがわかります。図10.6は燃焼ガスの質量分率分布変化で、左図が有機化合物、右図が二酸化炭素です。燃料滴から揮発する有機化合物が燃焼により二酸化炭素に変化していることがわかります。

 

図10.5 燃料滴挙動と温度分布変化

 

図10.6 燃焼ガスの質量分率分布変化

 

 次回は粒子の液化をご紹介いたします。

 
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岡森
著者プロフィール
岡森 克高 | 1966年10月 東京都生まれ
慶應義塾大学 大学院 理工学研究科 応用化学専攻 修士課程修了
日本機械学会 計算力学技術者1級(熱流体力学分野:混相流)
日本酸素(現 大陽日酸)にて、数値流体力学(CFD)プログラムの開発に従事。また、日本酸素では営業技術支援の為に商用コードを用いたコンサルティング業務もこなす。その後、外資系CAEベンダーにて技術サポートとして、数多くの大手企業の設計開発をCFDの切り口からサポートした。これらの経験をもとに、現職ソフトウェアクレイドルセールスエンジニアに至る。

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