岡さんの「混相流は流体シミュレーション解析で勝負!」 第15回 結露解析(2)
結露解析(2)
今回も結露( 蒸発 )解析をご紹介します。
室内の窓やデフロスタなど 固体壁面の結露や蒸発を解析する場合には空気中の水蒸気量( 湿度 )を考慮し、壁面近傍の空気中の 絶対湿度 と壁面温度の飽和絶対湿度の差から壁面における結露もしくは蒸発を解析することができます。しかし、調湿材など固体自体の吸湿や放湿を解析する場合には固体中の湿気を考慮し、固体の吸放湿特性を設定する必要があります。
図15.1のように乾燥時に空隙のある固体( 多孔質体 )を考えます。固体中の湿気は水分の浸透や水蒸気の 拡散 で移動します。固体中の 相対湿度 が98%以下の場合には水蒸気拡散が主な移動形態であると仮定し、固体の物性として湿気伝導度を設定します。また、固体表面と空気の湿度伝達は ルイス数 Le(熱と物質の伝達速度比を表す無次元数)を用いて、 熱伝達係数(固体表面と流体の対流熱伝達)から湿度伝達係数を算出することで近似します。これをルイス則と呼びます。
図15.1 固体中の湿気
固体中の湿気の移動と同時に、図15.2のように固体中では水蒸気が 凝縮 して水分になり、水分が蒸発して水蒸気になる相変化が起きています。 相変化 に伴う潜熱分の発熱と吸熱が影響しますので、固体中の湿気と 熱 の移動は連成して解析する必要があります。この連成解析を実施する場合には固体の湿度(絶対湿度)を変化させるのに必要な水分量と、固体の 温度 を変化させるのに必要な水分量を固体の吸放湿特性として設定します。
図15.2 固体中の吸放湿
それでは、今回も解析事例をご紹介します。洗濯物の浴室乾燥を解析します。現在の浴室(ユニットバス)は乾燥機能があり、雨天時などに洗濯物を乾かすことができます。
図15.3のように解析対象は浴室内とします。天井近傍に横棒があり、長さ126 cm、幅60 cm、厚さ1cmの洗濯物をかけてあります。洗濯物の乾燥時の空隙率は0.4、 空隙率 を考慮した見かけの 密度 は1.30 kg/m3 、 比熱 は1.15kJ/(kg·K)、 熱伝導度 は0.086 W/(m·K)とします。湿気伝導度は5.0×10-6 kg/(m·s (kg/kgDA))、絶対湿度を変化させるのに必要な水分量は5.0×103 kg/(m3 (kg/kgDA))、温度を変化させるのに必要な水分量は2.5 kg/(m3 K)とします。なお、 (kg/kgDA)は絶対湿度の単位でDAはDry Airの略です。
図15.3 洗濯物の浴室乾燥
浴室天井の吹出口から吹き出す空気は 流量 50m3 /h、温度25℃、相対湿度30%とします。洗濯物を含めた浴室内の初期温度は20℃、洗濯物の初期湿度は相対湿度で90%、浴室内の初期湿度は相対湿度で60%とします。なお、温度差による 浮力 を考慮し、洗濯物表面と空気の湿度伝達はルイス則に従うものとします。
図15.4は洗濯物表面と中心断面での温度分布の時間変化、図15.5は洗濯物表面での相対湿度分布の時間変化になります。浴室乾燥により洗濯物が乾いていく様子が再現されています。
図15.6は吹出口から吹き出す空気流量を60m3 /hと大きくした場合の洗濯物表面と中心断面での温度分布の時間変化、図15.7は洗濯物表面での相対湿度分布の時間変化になります。図15.7のように空気流量を大きくすることにより洗濯物の乾燥が早まることがわかります。
なお、図15.4~6は時間を600倍早くして動画作成しています。
図15.4 温度分布の時間変化
図15.5 湿度分布の時間変化
図15.6 温度分布の時間変化(風量大)
図15.7 湿度分布の時間変化(風量大)
次回も解析事例をご紹介いたします。
著者プロフィール
岡森 克高 | 1966年10月 東京都生まれ
慶應義塾大学 大学院 理工学研究科 応用化学専攻 修士課程修了
日本機械学会 計算力学技術者1級(熱流体力学分野:混相流)
日本酸素(現 大陽日酸)にて、数値流体力学(CFD)プログラムの開発に従事。また、日本酸素では営業技術支援の為に商用コードを用いたコンサルティング業務もこなす。その後、外資系CAEベンダーにて技術サポートとして、数多くの大手企業の設計開発をCFDの切り口からサポートした。これらの経験をもとに、現職ソフトウェアクレイドルセールスエンジニアに至る。
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