事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第7回 流体抵抗が最小となる形状の探索(4)

前回は、レイノルズ数が650での最適形状の探索結果について説明しました。今回は、レイノルズ数が650000で流体抵抗が最小となる形状の探索を行ってみます。
前回同様、EOoptiによる実験計画をもとに作成したモデルでCFD解析を行い、抗力係数を求めます。断面積比については、相似形であるため前回の値を流用します。EOoptiに結果を入力し、最適化の実行を行うと、応答曲面、最適解分布が得られます。 図4.1は断面積比の応答曲面で、相似形であるため、前回の結果と同じとなります。 図4.2は抗力係数の応答曲面です。抗力係数は中間点のY座標が30%を超えるあたりから急速に増加しています。また、Y座標が30%以下では中間点のX座標が負、すなわち中間点が上流側にあると抗力係数が小さいことがわかります。
図4.1 断面積比の応答曲面
図4.2 抗力係数の応答曲面
図4.3は最適解分布で、図の右下隅に近いほど、断面積比が大きく、抗力係数が小さい、すなわち最適解となります。図中、赤い丸は円柱の断面積比と抗力係数です。図を見ると断面積比が0.55を超えたあたりから抗力係数が急速に増加することがわかります。図4.4は、図4.3の最適解分布に、最適解探索条件を断面積比が小さく、抗力係数が大きくなるような条件で行わせた結果、すなわち最悪解を赤い丸で追加したものです。図を見ると、最適解と最悪解とでは、同じ断面積比でも抗力係数に5倍以上の差が生じることがわかります。前回のレイノルズ数が650の場合、最適解と最悪解の抗力係数の差が1.7倍程度であったことと比べると、高レイノルズ数域では、形状が抗力係数に及ぼす影響が大きいことがわかります。
図4.3 最適解分布
図4.4 最適解分布と最悪解分布の比較
どのような形状が最適解となるのかを見るために、最適解の中間点のX座標とY座標をプロットしたものが図4.5です。図中の青いプロットは最適解となる中間点の位置を、また、赤いプロットは最悪解となる中間点の位置を示します。図を見ると、中間点のX座標が負、すなわち上流側がふくらんだ形状が最適解となり、中間点のX座標が正、すなわち下流側がふくらんだ形状が最悪解となることがわかります。そこで、最適形状案として、X=-45%、Y=25%として、作図したものが図4.6です。一方、最悪形状案は、X=45%、Y=25%として、最適形状案を流れ方向に逆転させた形状とします。最適形状案と最悪形状案のモデルを作成し、SCRYU/Tetraによる解析を行い、抵抗係数を算出します。
図4.5 最適解となる中間点の位置
図4.6 最適形状案
最適形状案の断面積比および抵抗係数を図4.4に黒い〇印で、また、最悪形状案についても図4.4に×印で示します。最悪形状案の抵抗係数は、最適形状案の抵抗係数の約3倍となります。最適形状案と最悪形状案とは鏡像の関係にあるため、流れ方向の断面積は等しくなります。したがって、抗力も最悪形状案では最適形状案の約3倍となります。抗力は流速の2乗に比例することから、流れ方向の断面積と移動するための力とが比例するならば、最適形状案は最悪形状案の√3≒約1.7倍速く移動できることになります。 図4.7に最適形状案での圧力分布、図4.8に同じく流速分布、図4.9に最悪形状案での圧力分布、図4.10に同じく流速分布を示します。 図4.7の最適形状案での圧力分布と図4.9の最悪形状案での圧力分布を比べると、最悪形状案では、物体後方に負圧の領域が存在し、これが抗力を増大させていることがわかります。この原因として、図4.8の最適形状案での流速分布と図4.10の最悪形状案での流速分布を比べると、最悪形状案では、物体後方に大きな渦が発生し、渦により圧力が低下しているものと考えられます。
図4.7 最適形状案での圧力分布
図4.8 最適形状案での流速分布
図4.9 最悪形状案での圧力分布
図4.10 最悪形状案での流速分布
次回は、レイノルズ数により、なぜ最適形状が異なるのかを考察します。
【参考文献】 機械工学便覧 流体工学、ユーザーズガイド 最適化編(オプション)
著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻
1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授
著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員
1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員
最後までお読みいただきありがとうございます。ご意見、ご要望などございましたら、下記にご入力ください