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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第14回 模型飛行機の設計 主翼の翼断面形状(3)

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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方

本連載では、模型飛行機主翼の翼断面の最適形状を探索します。前回はCFDモデルの作成について説明しました。今回はSCRYU/Tetraの解析結果をもとに、EOoptiによる最適解の探索結果を説明します。

図3.1に揚力係数と抗力係数の最適解分布を示します。揚力係数が最大化し、抗力係数が最小化する方向が、最適であるため、図の左上のプロットほど、より良い設計となります。図を見ると、揚力係数は抗力係数の増加に伴い増加する、トレードオフの関係にあることがわかります。ただし、増加する割合は一様ではなく、抗力係数が0.04付近で揚力係数が大きく変化し、一方、抗力係数が0.05~0.15では、揚力係数はほぼ一定となっていることから、屈曲する箇所が最適解と考えられます。すなわち、抗力係数が0.05、揚力係数が2.1付近の組み合わせが、最適解と考えられます。

図3.2は、最悪解、すなわち揚力係数が最小化、抗力係数が最大化するような組み合わせをあわせてプロットしたものです。図の青いプロットが最適解、赤いプロットが最悪解の分布を示します。図を見ると、揚力係数が同等、例えば1.5とすると、最適解と最悪解とは抗力係数で10倍以上の違いが生ずることがわかります。
確認のため、最適解となる条件および最悪解となる条件で、再度、CFDモデルを作成し、SCRYU/Tetraで解析しました。最適解の設計例は、迎角αが11.7度、ξ0が0.08、η0が0.27で、最悪解の設計例は、迎角αが30度、ξ0が0.07、η0が0です。両者の揚力係数と抗力係数を図3.2に大きなプロットで示してあります。それぞれの設計例は、ほぼ最適解あるいは最悪解の分布に位置していることがわかります。
最適設計例での翼周りの流速分布を図3.3に、静圧分布を図3.4に示します。また、最悪設計例での翼周りの流速分布を図3.5に、静圧分布を図3.6に示します。図3.3、3.4を見ると、最適設計例では、翼に沿った流れとなり、正圧域は翼の腹側に、負圧域は翼の背側に、流れ方向にほぼ同じ位置に発生しています。一方、最悪設計例での結果を示す図3.5、3.6を見ると、流れは翼背面で大きく剥離し、翼後方に負圧域が発生していることがわかります。翼は、この負圧域に引っ張られる力を受けるため、抗力係数が増大したものと考えられます。



図3.1 最適解での揚力係数と抗力係数の分布



図3.2 最適解と最悪解での揚力係数と抗力係数の分布



図3.3 最適設計翼周りの流速分布



図3.4 最適設計翼周りの静圧分布



図3.5 最悪設計翼周りの流速分布



図3.6 最悪設計翼周りの静圧分布


迎角α、厚みパラメータξ0、反りパラメータη0には、最適な条件があるのか調べてみます。図3.7は最適解分布での各種の迎角に対する揚力係数と抗力係数をプロットしたものです。図を見ると、迎角が15度を超えると、抗力係数が急速に増加することがわかります。また、迎角が10~15度では、揚力係数は迎角の変化に対して上に凸となり、一方、抗力係数は迎角の変化に対して下に凸となります。両者の差は、12度前後で最大となり、最適な迎角と考えられます。
図3.8は迎角と反りパラメータη0とをプロットしたもので、青いプロットが最適解、赤いプロットが最悪解での値を示します。図を見ると、最適解では反りパラメータη0が0.2~0.3であり、最悪解では、0あるいは、0.4以上となっています。
図3.9は厚みパラメータξ0と反りパラメータη0とをプロットしたもので、同様に青いプロットが最適解、赤いプロットが最悪解での値を示します。図を見ると、最適解と最悪解とは、縦方向に層別されることがわかります。すなわち、厚みパラメータξ0は適・不適にはあまり影響しないこと、反りパラメータη0の値が適・不適に影響し、最適な範囲は0.2~0.3であることがわかります。



図3.7 迎角による揚力係数と抗力係数の変化



図3.8 迎角と反りパラメータη0の分布



図3.9 厚さパラメータξ0と反りパラメータη0の分布


今回の例は、ジューコフスキー翼型の形状最適化の例題であり、実際の翼型設計は、各種の翼型データベースを基に行われます。なお、この手法は既存の翼型にとらわれるものではなく、物体断面形状の設計因子を独自に設定する方法にも適用できます。
 
次回は、プロペラの翼断面について最適形状の検討を行います。


【参考文献】 機械工学便覧 流体工学、ユーザーズガイド 最適化編(オプション)





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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