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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第18回 電子機器熱設計における物性値の合わせこみ(1)

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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方

最近のCAE(Computational Aided Engineering)技術の進歩により、試作は最終確認だけ、あるいは行わないといったことも可能となりつつあります。この背景には、ハードウェア・ソフトウェアの進化により、高精度で精密なモデルでの解析が可能になったことのほか、ユーザー側でも、物性値やモデルが解析結果に及ぼす影響を調べるなど、CAEをうまく使いこなしてきたことも見逃せません。

特に、CAEの結果が測定結果と一致するように、定数を修正することを「合わせこみ」と称しています。測定結果と一致するように合わせこまれたモデルは、改善・改良の効果を検討する、あるいは類似の製品の設計など、狭い範囲での予測に対しては有効です。 しかしながら、製品あるいは試作品での測定結果から、ヤング率や熱伝導率といった物性値を予測することは非常に難しく、部品単体などのシンプルな構成での測定結果とCAE結果との比較から得られた情報をもとに、合わせこみを行っているのが実情です。 実際の製品あるいは試作品での測定結果から直接合わせこみができれば、CAEによる解析をより有効かつ迅速に活用できると期待されます。そこで、最適化ツールEOoptiを使って、実際の製品での測定を想定した結果と一致するように合わせこみを行った事例を紹介します。なお、今回の例では任意値への探索を行わせるため、EOoptiはV12RC1を使用します。

図1.1は実際の製品を模したCFD解析結果ですが、試作品での測定結果であるとします。図の部品表面に表示された数値が表面温度を測定した結果になります。この温度とCFD解析結果での表面温度とが一致するように、プリント基板の熱伝導率、パワー素子の熱伝導率、パワー素子とヒートシンク間の接触熱伝達率をEOoptiで予測します。最終的に予測した値をもとに、CFD解析を行った結果が図1.2です。図1.2の部品表面に表示された数値と図1.1の数値とは概ね一致し、1℃未満の誤差で合わせこみができていることがわかります。

本連載では、第18回で熱伝導率・熱伝達率と温度との関係、第19回でCFDモデルとEOopti設定項目についての説明、第20回でEOoptiによる合わせこみの結果について説明します。



図1.1 部品温度測定結果



図1.2 CFD解析結果を部品温度測定結果に対して合わせこみ


定常状態においては、伝熱量は温度差と熱伝導率・熱伝達率とに比例します。図1.3はパワー素子から大気までの伝熱の様子を表示したもので、図において、素子の温度T1は下記の式で表されます。



ここで、λ1、λ2は素子およびヒートシンクの熱伝導率、α1 は素子とヒートシンク間の接触熱伝達率、α2 はヒートシンクの表面熱伝達率、T は大気温度、Qは発熱量、Aは面積を表します。



図1.3 素子から大気までの伝熱


このうち、素子の熱伝導率λ1はモデル作成の際に構造を簡略化する影響などから実際の物性値とは必ずしも一致しないのが実情です。また、素子とヒートシンク間の熱伝達率α1 は絶縁シートの熱伝導率やシート厚み以外にも、表面の状態あるいは密着度合いにより変化します。したがって、合わせこみ作業は、主として、素子の熱伝導率λ1 と素子とヒートシンク間の接触熱伝達率α1を求めることになります。ここで、その他の値については既知としても、(1)式だけでは、式の数が1に対して、未知数が2のため、素子の温度T1からλ1とα1を求めることはできません。また、実際の伝熱状態は3次元で、かつ複数の伝熱経路を有するため、(1)式のような簡単な形では表せません。
そこで、(2)式のように、複数の素子温度が、素子の熱伝導率とヒートシンクとの熱伝達率の関数で表されるとして、それぞれの素子温度の測定値と等しくなるようなλ1、α1を求めればよいことがわかります。これは、素子の熱伝導率と素子・ヒートシンク間の熱伝達率を設計変数として、解析結果による部品温度と測定結果との差の絶対値を最小化する最適化問題であり、最適化ツールEOoptiを用いて解くことができると考えられます。



次回は、解析モデルとEOoptiの設定について説明します。

【参考文献】JSMEテキストシリーズ 伝熱工学 日本機械学会、ユーザーズガイド 最適化編(オプション)





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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