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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第20回 電子機器熱設計における物性値の合わせこみ(3)

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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方

最適化ツールEOoptiを用いて、物性値を合わせこむ方法について説明しています。第19回ではモデル作成とEOoptiの設定について説明しました。今回は熱伝導率と熱伝達率の予測結果について説明します。なお、今回の解析では任意値への探索を行わせるために、EOoptiはV12RC1を使用しています。

EOoptiで、電源IC温度、ダイオードブリッジ温度、パワートランジスタ温度、プリント基板温度が、測定結果に相当した値となるような素子熱伝導率、ヒートシンクとの熱伝達率、プリント基板熱伝導率を予測してみます。目的関数を各温度として、最適化の方針を「任意値を探索」として、任意値に試作品での温度測定結果を入力します。最適化計算を行うと応答曲面のほか、パレート解が得られます。

はじめに、素子熱伝導率、ヒートシンクとの熱伝達率、プリント基板の熱伝導率が素子温度およびプリント基板温度に及ぼす影響を見てみます。
図3.1に、素子~ヒートシンク間熱伝導率(図中Htransと表示)と素子熱伝導率(図中packと表示)に対する電源IC温度の応答曲面を示します。図を見ると、素子熱伝導率に比べて、素子~ヒートシンク間熱伝導率が電源IC温度に及ぼす影響は小さいことがわかります。熱伝達率が1000~5000W/m2Kに変化しても、IC温度の変化は49.5~48.2℃であるため、仮に、熱伝達率の予測誤差が1000W/m2K程度であったとしても、温度の差は0.3℃程度と、その影響は小さいことがわかります。
図3.2に、基板熱伝導率(図中FR4と表示)と素子熱伝導率に対するプリント基板温度の応答曲面を示します。図から、プリント基板温度は、基板熱伝導率のみに依存することがわかります。また、基板熱伝導率が0.5~2.0W/mKに変化しても、プリント基板温度の変化は27.28~27.53℃とほとんど変化しないため、プリント基板熱伝導率の予測誤差の影響も小さいことがわかります。



図3.1 電源IC温度への素子熱伝導率とヒートシンク間熱伝達率の影響



図3.2 プリント基板温度への基板熱伝導率と素子熱伝導率の影響


次に、パレート解から、プリント基板熱伝導率、素子熱伝導率、ヒートシンクとの熱伝達率を予測します。図3.3~3.5が得られたパレート解のうち、プリント基板熱伝導率、素子熱伝導率、ヒートシンクとの熱伝達率をヒストグラムとしたものです。図から、プリント基板熱伝導率は0.4W/mK程度、素子熱伝導率は1.0W/mK程度、ヒートシンクとの熱伝達率は1600W/m2K程度とみられます。



図3.3 EOoptiにより予測されたプリント基板熱伝導率のヒストグラム



図3.4 EOoptiにより予測された素子熱伝導率のヒストグラム



図3.5 EOoptiにより予測された素子~ヒートシンク間熱伝導率のヒストグラム


今回は、プリント基板熱伝導率、素子熱伝導率、ヒートシンクとの熱伝達率の予測値として、電源IC、ダイオードブリッジ、パワートランジスタ、プリント基板それぞれのCFDによる解析結果と測定結果とがもっとも等しくなるものを選択しました。具体的には、解析結果と測定結果の2乗和が最小となるときの熱伝導率・熱伝達率を予測値として採用しました。
表3.1にそれぞれの予測値と測定結果用に設定されていた値を示します。プリント基板熱伝導率については、予測値は設定されていた値よりも高めとなっています。一方、素子熱伝導率については、予測値は設定されていた値とほぼ一致しています。また、ヒートシンクとの熱伝達率については、予測値は設定されていた値よりも低めになっています。 予測値によるCFD解析結果と測定結果との比較を図3.6に示します。図を見ると、電源IC、ダイオードブリッジ、パワートランジスタQ5、プリント基板ともに予測値と測定結果との違いは1℃以下であり、良く一致しています。EOoptiを用いることにより、困難であったCFD解析結果と製品あるいは試作品での測定結果との合わせこみを比較的容易に行えることがわかります。


表3.1 測定結果として設定された値とEOoptiによる予測結果との比較
  予測値 測定結果用の設定値
プリント基板熱伝導率[W/mK] 0.61 0.45
素子熱伝導率[W/mK] 0.95 0.90
素子~ヒートシンク間熱伝達率[W/m2K] 2085 3300
 


図3.6 測定結果とEOoptiによる予測結果を基に解析した結果との比較


次回は、自然空冷型ヒートシンクの最適設計について説明します。


【参考文献】JSMEテキストシリーズ 伝熱工学 日本機械学会、ユーザーズガイド 最適化編(オプション)





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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