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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第21回 自然空冷型ヒートシンクの最適設計(1)

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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方

ヒートシンクは放熱面積を増加させることにより冷却能力を増加させ、電子部品を熱破損から守る部品です。形状が複雑であることと、ヒートシンクメーカから各種の製品が発売されていることから、主に既製品を利用することが多いかと思います。しかしながら、装置をコンパクトにしたい、あるいは発熱量の大きな素子の冷却に対応したいといった要求に、既存のヒートシンクでは対応できない場合、新たに設計する必要が生じます。そこで、最適化ツールEOoptiと熱設計PACにより、自然空冷型ヒートシンクの最適形状の探索を行った結果を紹介します。第1回目では概要説明、第2回目ではモデル作成について、第3回目では最適形状の探索結果について説明します。

はじめに、ヒートシンクの概略設計を行ってみます。
接合部温度最大定格Tjmax =120℃、損失P=10Wのパワー素子を雰囲気温度Ta=40℃で使用することを考えます。回路設計では、電子部品にはディレーティング(derating: 負荷軽減)と呼ばれる安全率を掛けた値を上限として用います。ここでは、80%のディレーティングとして、素子の上限温度を120×0.8=96℃とします。10Wの熱が通過すると、接合部(96℃)から大気(40℃)間での熱抵抗Rthj-a は、

 となります。

ここで、j-aは接合部(junction)から周囲(ambient)という意味です。熱抵抗は、温度が電圧、発熱量が電流と考えた場合の電気抵抗に相当するものです。オームの法則と同じように考えることができ、(1)式から、接合部温度Tjを96℃以下とするには、熱抵抗Rthj-a は5.6℃/W以下であればよいことがわかります。
接合部から周囲までの熱抵抗Rthj-a には、接合部から素子表面までの熱抵抗Rthj-p と素子表面からヒートシンクまでの熱抵抗Rthp-h が含まれます。ここで、Rthj-p =0.5℃/W 、Rthp-h =0.1℃/Wとすると、ヒートシンクの熱抵抗はRthh-a =Rthj-a -Rthj-p -Rthp-h =5℃/Wとなります。つまり、熱抵抗が5℃/W以下のヒートシンクを既製品から選択するか、設計することになります。ここでは、表面熱伝達率を仮定して、簡単な設計を行ってみます。 ヒートシンクの必要な表面積は下記の式の通り、熱抵抗と熱伝達率の積の逆数になります。

 

熱伝達率は単位面積・単位温度あたりの表面からの放熱量です。ここで、ヒートシンク表面の熱伝達率が5W/m2 ℃とすると、ヒートシンクの表面積は、となります。例えば、フィンが長さ50mmで10枚とすると、フィンの表裏面積×枚数がヒートシンクの表面積と考えて、フィンの高さは、 となります。そこで、フィンの高さを40mmとして、図1.1のようなヒートシンクとします。



図1.1 ヒートシンク形状


素子を縦横20mm、高さ2mmで、材質はアルミナで10Wの一様発熱として、図1.1のヒートシンク(アルミニウム合金)と組み合わせ、熱設計PACで計算してみます。素子内部は一様としたため、接合部から素子表面までの熱抵抗は、素子とヒートシンク間の熱抵抗に加えることにします。素子~ヒートシンク間の熱抵抗を0.1+0.5=0.6℃/Wとしてモデルを作成、解析した結果は図1.2に示すような温度分布となります。



図1.2 表面温度分布


ヒートシンク内の温度分布はほぼ一様であるため、ヒートシンク平均温度と大気温度との差から熱抵抗を計算してみると、 となり、設計目標の5℃/W以下を満足しています。しかしながら、今回は適当に設計したものであるため、必ずしも最適なものではありません。そこで、EOoptiと熱設計PACを用いて、コンパクトで熱抵抗の小さなヒートシンク形状を探索してみます。次回は、モデルの作成と条件設定を行います。


【参考文献】JSMEテキストシリーズ 伝熱工学 日本機械学会、ユーザーズガイド 最適化編(オプション)





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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