Cradle

 

投稿一覧

事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第23回 自然空冷型ヒートシンクの最適設計(3)

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方

最適化ツールEOoptiと熱設計PACによるヒートシンクの最適形状の探索について説明しています。今回は、最適形状の探索とその結果について説明します。

モデルの作成と解析が終了したら、Lファイルあるいはhptファイルからヒートシンクの平均温度を読み取ります。次いで、読み取ったヒートシンク平均温度Htemp[℃]から熱抵抗Rth[℃/W]を計算します。今回の解析では、素子の発熱量が10Wで、雰囲気温度を20℃としたため、熱抵抗は となります。また、ヒートシンク体積は、奥行き寸法が一定値100mmであるため、フィン幅×フィン長さ×100となります。 以上の値をEOoptiの設定画面で入力し、MOGAを実行すると、応答曲面や最適解の分布が得られます。



図3.1 EOopti設定画面


図3.2と3.3にヒートシンク垂直設置での熱抵抗の応答曲面を示します。図3.2はフィン幅と長さの影響を示したもので、フィン面積が大きいほど熱抵抗は小さいことがわかります。一方、図3.3はフィン数の影響を見たもので、フィン数が増すことで総面積が大きくなったとしても熱抵抗は小さくならず、フィン数には最適な値があることがわかります。



図3.2 ヒートシンク垂直設置でのフィン幅と長さの熱抵抗への影響



図3.3 ヒートシンク垂直設置でのフィン幅とフィン数の熱抵抗への影響


図3.4に水平設置での最適解分布を、図3.5に垂直設置での最適解分布を示します。図3.4、3.5ともに、右下がりの曲線となり、熱抵抗とヒートシンク体積とはトレードオフの関係にあることがわかります。ただし、図3.4をみると熱抵抗が2.3[℃/W]を下回ると体積は急速に大きくなることがわかります。つまり、より熱抵抗の小さなヒートシンクを設計しようとした場合、水平設置では限界があることがわかります。これに対して、図3.5の垂直設置での最適解分布では、最適解分布は熱抵抗の広い範囲に渡っていて、設計の自由度が高いことがわかります。
表3-1に当初設計と最適設計との諸元、熱抵抗、体積を比較した結果を示します。 最適設計例として、水平設置ではフィン幅41.7mm、フィン長さ44.4mm、フィン数13となります。図3.4には○印で示します。参考までに第1回で説明した初期設計(フィン幅50mm、フィン長さ40mm、フィン数10)の結果を△印で示します。最適設計例は初期設計に比べて、熱抵抗で3%、体積で4%ほど小さくなっていることがわかります。 一方、垂直設置での最適設計例はフィン幅25.2mm、フィン長さ45.4mm、フィン数16であり、図3.5には○印で示します。初期設計より熱抵抗が8%ほど大きくなりますが、ヒートシンク体積を40%減とコンパクト化できることがわかります。
図3.6に水平設置用に最適化されたヒートシンクでの温度分布を、図3.7に垂直設置用に最適化されたヒートシンクでの温度分布を示します。
参考までに、水平・垂直共用で使用できるようなヒートシンクとして、水平・垂直設置ともに同じ熱抵抗となるような形状を求めると、フィン幅38.5mm、フィン長さ26.4mm、フィン数16となります。



図3.4 水平設置での最適解分布



図3.5 垂直設置での最適解分布


  フィン幅[mm] フィン長さ[mm] フィン数 熱抵抗[℃/W] 体積[cm3]
当初設計 50 40 10 2.6 200
水平設置最適 41.7 44.4 13 2.5 185
垂直設置最適 25.2 45.4 16 2.8 114
水平・垂直共用 38.5 26.4 16 3.3 102
表3-1 当初設計と最適設計との比較
 


図3.6 水平設置用最適形状例の温度分布(フィン幅41.7、フィン長さ44.4、フィン数13)



図3.7 垂直設置用最適形状例の温度分布(フィン幅25.2、フィン長さ45.4、フィン数16)


フィン面積が大きくなると熱抵抗は小さくなりますが、フィン数が多すぎると総面積が大きいにもかかわらず、熱抵抗は逆に大きくなります。この理由について、解析結果を基に考察してみます。
方針として、水平設置で熱抵抗が大きくなるような設計例と最適設計例で解析を行い、比較してみます。図3.8は熱抵抗が大きくなるような設計例(フィン幅36.7mm、フィン長さ25mm、フィン数19)での断面流速分布を示します。図を見ると、フィン間での流速は0.05m/s程度であることがわかります。一方、図3.9は最適設計例での断面流速分布を示し、図からフィン間の流速は0.15m/sと、比較的大きな流速となっていて対流伝熱を促進していることがわかります。以上から、ヒートシンクのフィン間には空気の流れを妨げない程度の隙間が必要であり、この隙間とフィン総面積とのバランスがヒートシンク最適設計のポイントとなることがわかります。



図3.8 熱抵抗の大きなヒートシンクでの流速分布



図3.9 最適設計例での流速分布


次回は、強制空冷型ヒートシンク用ファンの最適設計について説明します。


【参考文献】JSMEテキストシリーズ 伝熱工学 日本機械学会、ユーザーズガイド 最適化編(オプション)





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

最後までお読みいただきありがとうございます。ご意見、ご要望などございましたら、下記にご入力ください

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ピックアップコンテンツ