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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第24回 強制空冷型ヒートシンク用ファンの最適設計(1)

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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方

ヒートシンクは放熱面積を増加させることにより冷却能力を増加させ、電子部品を熱破損から守る部品です。前回は自然空冷型ヒートシンクの最適形状について説明しましたが、よりコンパクトで冷却能力を大きくするには、ファンと組み合わせた強制空冷型のヒートシンクが使われます。強制空冷型ヒートシンクでは、搭載するファンが電力を消費するため、より省エネルギで冷却能力が大きいということが要求されます。今回は、最適化ツールEOoptiとSCRYU/Tetraにより、省エネルギでかつ冷却能力が大きくなるような強制空冷型ヒートシンク用ファンの形状を探索した結果を紹介します。第1回目では概要説明、第2回目ではモデル作成について、第3回目では最適形状の探索結果について説明します。

はじめに、自然空冷型ヒートシンクと強制空冷型ヒートシンクの冷却能力の違いを考えてみます。輻射伝熱分を除けば、自然空冷型ヒートシンクは自然対流熱伝熱により、また、強制空冷型ヒートシンクは、強制対流熱伝達により放熱します。そこで、自然対流熱伝達率と強制対流熱伝達率を計算してみます。

垂直平板の自然対流熱伝達は、(1)式で表されます。


ここで、Nuはヌセルト数、Grはグラスホフ数と呼ばれる無次元数でそれぞれ、(2)式、(3)式で表されます。Prはプラントル数と呼ばれる無次元数で、物性値表に記載されています。



ここで、Lは平板長さ[m]、αは熱伝達率[W/(m2℃)]、λは流体の熱伝導率[W/(m℃)]、gは重力加速度[m/s2 ]、βは体積膨張係数[1/K]、νは動粘性係数[m2/s]、Twは平板温度[℃]、T∞は流体温度[℃]です。
20℃の空気中での自然対流熱伝達率を(1)~(3)式から求めると、(4)式となります。


一方、強制対流熱伝達は、(5)式で表されます。



式の(Re<5×105 )はレイノルズ数が5×105 よりも小さな範囲で有効という意味です。レイノルズ数Reは(6)式で表される無次元数で、U∞は流速[m/s]です。

物性値を20℃の空気として (5)~(7)式から強制対流熱伝達率を求めると、(8)式が得られます。



(4)式を見ると、自然対流熱伝達率は物体表面温度と流体温度との差に依存します。つまり、自然空冷型のヒートシンクでは表面温度が低下すると冷却能力も低下してしまうため、サイズを変えずに放熱性を高めることには限界があることがわかります。一方、強制対流熱伝達率を表す(8)式では、熱伝達率は表面温度には依存しないため、放熱性を高めることには自然空冷型のような限界はないことがわかります。また、表面近傍の流速を大きくすれば、放熱能力を高められることもわかります。

では、自然空冷型ヒートシンクと強制空冷型ヒートシンクの冷却能力を見積もってみます。また、同程度の冷却能力の場合、大きさにどの程度の違いがあるのかも見積もってみます。平板長さL=100mm、雰囲気温度20℃、平板温度50℃として、 (4)式から自然対流熱伝達率を計算すると、α=6.3 W/(m2℃)となります。同様の条件で、強制対流型では、流速1m/sの気流中にあるとして、(8)式から強制対流熱伝達率を計算してみると、α=12.2W/(m2 ℃)となり、自然対流熱伝達率の2倍となることがわかります。つまり、表面に1m/sの気流を通過させる強制空冷型ヒートシンクの表面積は、同じ冷却能力の自然空冷型ヒートシンクの表面積の1/2となります。体積は表面積の3/2乗に比例するため、大きさは約1/3となります。

さて、本題の強制空冷型ヒートシンク用ファンの最適設計に戻ると、強制対流熱伝達率は(8)式に示すように流速に依存しているため、放熱能力についてはヒートシンク表面近傍の流速がより大きくなるような条件を見出せばよいことがわかります。一方、省エネルギであることについては、回転エネルギがトルク×角速度となることから、回転速度を一定として、羽根車の回転トルクがより小さくなるような条件を見出せばよいことがわかります。
物体近傍の流速および物体に加わるトルクはSCRYU/Tetraで計算することが可能であり、適当なモデルを作成することで最適なファンを設計できると期待されます。
 
次回は、モデルの作成と条件設定を行います。
 


【参考文献】ターボ機械 入門編、ターボ機械協会、ユーザーズガイド 最適化編(オプション)





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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