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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第26回 強制空冷型ヒートシンク用ファンの最適設計(3)

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事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方

強制空冷型ヒートシンク用ファンの最適形状を、より冷却能力が大きく、より省エネルギであるという観点から探索しています。前回はモデルの作成方法、EOoptiによる実験計画とSCRYU/TetraによるCFD解析について説明しました。今回は、EOoptiによる最適形状の探索結果について説明します。 図3.1にヒートシンク表面近傍流速の応答曲面を示します。図のx軸は翼出口角、y軸は翼入口角を示します。図から、ヒートシンク表面近傍の流速は、翼出口角の増加に伴い増加するものの途中で飽和することがわかります。また、流速への翼入口角の影響は小さいことがわかります。図3.2は羽根車トルクの応答曲面を示します。図から、羽根車トルクは、翼出口角の増加に伴い増加しています。一方、翼入口角については、ヒートシンク近傍流速の応答曲面とは異なり、翼入口角の増加に伴い、羽根車トルクも増加することがわかります。以上から、ヒートシンク近傍流速と羽根車トルクとは正の相関を有するものの、翼入口角と出口角の組み合わせによっては、より小さな羽根車トルクで、より大きな流速を得られる可能性があることがわかります。すなわち、最適形状が存在すると予想されます。



図3.1 表面近傍流速の応答曲面



図3.2 羽根車トルクの応答曲面


そこで、EOoptiにより最適解を探索してみます。図3.3は最適解および最悪解の分布であり、横軸はヒートシンク近傍の流速、縦軸は羽根車トルクを示します。図中の青色のプロットは最適解分布を、橙色のプロットは最悪解を示します。最適解を示す青いプロットは、右下に凸の曲線となり、ヒートシンク近傍の流速が1.15m/s、羽根車トルクが0.0004Nm付近に最適解が存在することがわかります。また、図から最適解と最悪解とでは、例えば、羽根車トルクが同じく0.0004Nmの場合、ヒートシンク表面近傍流速に40%ほどの差があることがわかります。



図3.3 最適解分布


確認のため、図3.4で最適形状例と記した翼入口角が30度で翼出口角が70度の羽根車と、同じく図3.4で良くない例と記した翼入口角が77度で翼出口角が32度の羽根車のモデルを作成し、SCRYU/Tetraによる解析を行った結果を図3.3に×で示します。図3.3で青色の×が最適設計例で、橙色の×が良くない設計例での解析結果を示します。最適設計例でのヒートシンク表面近傍の流速が、EOoptiによる最適解よりも小さくなりますが、概ね一致しています。図3.5に最適設計例と良くない設計例での流速が1m/sの等値面を示します。図を見ると、最適設計例は、良くない設計例と比較して、流速1m/sの範囲がフィンの広い範囲を覆っていることがわかります。



図3.4 羽根車最適形状例と良くない形状例



図3.5 ヒートシンク近傍流速が1m/sの等値面


最適設計案と良くない設計案の比較を表3.1に示します。ここで、最適設計案の羽根車の回転速度を低下させて、良くない設計案程度の流速とした場合、どの程度の省エネルギ効果となるか見積もってみます。送風機の比例則から、流速は羽根車の回転速度に比例します。また、羽根車の軸動力は回転速度の3乗に比例します。したがって、最適設計案の羽根車の回転速度を良くない設計案での流速と同程度になるように低下させると、



と、軸動力は半減することがわかります。

 

    ヒートシンク近傍流速[m/s] 羽根車トルク
[Nm]
最適設計案 応答曲面での予測値 1.15 0.000417
CFD解析結果 1.05 0.000418
良くない設計 応答曲面での予測値 0.82 0.000417
CFD解析結果 0.83 0.000403
表3-1 当初設計と最適設計との比較
 


ここで、図3.5に示す羽根車形状で、良くない設計案は、後ろ向き羽根(あるいはターボ型)と呼ばれる効率の良い羽根車と形状が良く似ています。なぜ、効率の良いはずの羽根車形状が良くない設計案となってしまったのでしょうか。これは、後ろ向き羽根が効率の良い範囲は、ある程度の圧力も発生させる領域であり、今回のような流量だけで圧力はほとんど発生しないような状態には適していなかったためと考えられます。このように、従来の設計方法で想定される領域とは異なる領域を対象とした設計に対しても、CFDと最適化手法の組み合わせは有効な手法となりうる可能性があります。
 
次回は、電子機器の吸込み口・吐出し口のレイアウト設計に最適化オプションを用いた例を説明します。


【参考文献】ターボ機械 入門編、ターボ機械協会、ユーザーズガイド 最適化編(オプション)





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻

1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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