事例で学ぶ!これだけは知っておきたい最適化の使い方~熱流体編 第28回 電子機器の吸込み口・吐出し口の最適レイアウト設計(2)

強制空冷筐体における吸込み口・吐出し口の最適レイアウトについて、前回はモデルの作成から熱設計PACによる解析まで説明しました。今回は、EOoptiによる最適解探索結果について説明します。
目的関数の値をEOoptiに入力し、必要に応じてKrigingおよびMOGAの設定を行った後、「実行」ボタンをクリックすると、応答曲面の作成と最適解の探索が行われます。
図2.1に応答曲面の一例を示します。図2.1(a)はファンのx座標と吸込み口のx座標がプリント基板温度に及ぼす影響を、また、(b)は同じく、パワー素子に及ぼす影響を示します。図を見ると、プリント基板温度とパワー素子温度が最小となるファンおよび吸込み口の配置が存在することがわかります。また、プリント基板温度、パワー素子温度ともに、同じファン・吸込み口配置で最小となることもわかります。なお、応答曲面は設計変数の組み合わせの数と目的関数の数との積だけ存在します。例えば、今回の場合、5×4/2×2=20種類の応答曲面があり、ここから最適解を探し出すことは難しくなります。そこで、通常は図2.2に示す最適解分布から最適設計案を割り出します。図の横軸はプリント基板温度で、縦軸はパワー素子温度であり、図の左下側ほどプリント基板温度・パワー素子温度ともに低い、すなわち最適な状態を示します。EOoptiの探索方向をプリント基板温度最大、パワー素子温度が最大すなわち、最悪となるような条件の解を求めて、合わせてプロットしたものが図2.3です。図を見ると、吸込み口と吐出し口とパワー素子の配置によっては、プリント基板温度で約10℃、パワー素子温度で約40℃の差が生じることがわかります。
図2.1 (a)プリント基板温度の応答曲面
(b)パワー素子温度の応答曲面
図2.2 最適解分布
図2.3 最適解分布と最悪解分布
EOoptiで表示される最適解分布では、プロットをクリックすることで設計条件を表示できます。そこで、任意の最適解を選択すると、最適レイアウト案が求まります。しかしながら、応答曲面は近似解であるため、最適レイアウトで再度、熱設計PACによる解析を行い、確認する必要があります。表2.1は、任意の最適レイアウトと最悪レイアウトの応答曲面での値と再度熱設計PACにより解析を行った値とを比較したものです。表から、最適レイアウトは応答曲面・再解析ともにプリント基板温度、パワー素子温度ともに低いことがわかります。一方、パワー素子温度の最適解と最悪解の温度差は、応答曲面からは約50℃と大きな差があるのに対して、再解析結果からは約30℃の差であることがわかります。
この差は、サンプル数を増やして応答曲面の精度を上げることで改善可能で、第3回で説明したEfficient Global Optimizationなどの手法を用いることで、効果的な応答曲面の精度向上が行えます。ここでは、再解析結果を最適レイアウト案として、内部流れと内部温度分布を説明します。
図2.4が最適レイアウトでの内部流れ(a)と内部温度分布(b)です。図の内部流れを見ると、吸込み口から流入した空気は、ヒートシンクに対して渦を描くように流入していることがわかります。この結果、ヒートシンクの放熱量が増加し、パワー素子温度を低下させています。一般には、図2.5に示すように、ヒートシンクに対して効果的に気流が流れるようにヒートシンクに対して最短の位置に吸込み口を配置しますが、図2.5(b)と図2.4(b)とを比較すると、一般的なレイアウト案よりさらにヒートシンクの放熱量を増加できるレイアウト案、すなわち渦を描くようにヒートシンクに空気を流入させるような方法があることがわかります。
図2.6は最悪レイアウトでの内部流れと内部温度を示します。予想通り、ヒートシンクに対して気流が流れない状態となっています。このように、EOoptiによる解析結果を再度解析した結果から、最適なレイアウトではどのような現象となるのか、あるいは、最悪レイアウトから設計の際に考慮しなければならないことはなにか、を考えることが、設計のノウハウ蓄積あるいは設計者の教育に対して有効な手段となりうるものと思われます。
吸込口 X座標[mm] |
ファン X座標[mm] |
ファン Y座標[mm] |
シンク X座標[mm] |
シンク Y座標[mm] |
基板温度[℃] | IC温度[℃] | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
最適解 | 応答曲面 | 137 | 55 | 45 | 40 | 48 | 23.8 | 40.6 |
再解析 | 24.8 | 46.0 | ||||||
最悪解 | 応答曲面 | 108 | 180 | 31 | 34 | 83 | 33.4 | 98.1 |
再解析 | 31.9 | 74.8 |
表2.1 応答曲面による予測結果と再解析結果
表2.1 応答曲面による予測結果と再解析結果
図2.4 (a)最適レイアウトでの内部流れ
(b)内部温度分布
図2.5 (a)一般的なレイアウトでの内部流れ
(b)内部温度分布
図2.6 (a)最悪レイアウトでの内部流れ
(b)内部温度分布
次回は、自然空冷型筐体での最適レイアウトについて説明します。
【参考文献】JSMEテキストシリーズ 伝熱工学 日本機械学会、ユーザーズガイド 最適化編(オプション)
著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動) 1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻
1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授
著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員
1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員
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