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装置設計者のための騒音の基礎 第8回

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装置設計者のための騒音の基礎

音の大きさ

 今回は、音の大きさについて説明します。

 A特性音圧レベルは、人間の聴感にあわせて音圧レベルを補正したものですが、実は、人間の聴感は周波数だけではなく、音の大きさにも依存します。また、大きな音の側では、それよりも小さな音は聞き取りづらいように、人間の聴感は近接した周波数の音の大きさを正しく判断できません。このため、周波数のみで補正を行い、各周波数成分のパワーの総和を求めるA特性音圧レベルでは、人間の聴感を正しく反映できません。

 音の大きさは、以上の説明のような人間の聴感特性を考慮した量で、人間の聴感に比例します。つまり、音の大きさが1から2に変化すると、音の大きさが2倍になったと感じられます。このことは、音の大きさを指標とすることで、最近の製品の特長を説明する「従来品に比べて30%低騒音化しました」といった表現の定量的な裏付けとなることを示しています。音の大きさはラウドネスとも呼ばれます。

 図1は等ラウドネス曲線と呼ばれる同じ大きさの音に感じられる周波数と音圧レベルの等高線を示しています。例えば、100Hzで50dBの音は、図1から1kHzで40dBの音と同じ大きさに感じられ、1kHzでの音圧レベルをphonと定義します。phonから下記の式で計算されたsoneという単位の量が音の大きさになります。

 





図1 等ラウドネス曲線

  例えば、100Hzで50dBの音は、図1から40phonとなり、音の大きさは(1)式から1soneとなります。 音の大きさ[sone]は加法性があり、各周波数成分の音の大きさの和を求めると全体の音の大きさが求まります。この際、図2に示すマスキング特性を考慮して、例えば、1kHzでの成分が100dBであれば、図2のL=100dBのラインを超えた分のみを考慮します。言いかえると、1kHz100dBの成分のマスキングにより、2kHz80dBの成分は全体の音の大きさには影響しないことになります。



図2 マスキングの例

 

 以上は、ISO532Bに定められたチャートで求められますが、複雑です。音の大きさを計算するコードを記した論文が下記のサイトにありますので、プログラミングするか、あるいは、ラウドネスを計算する機能を搭載した騒音計を利用することをおすすめします。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110003105935

 上述の論文のコードを基に作成したソフトで、音の大きさを計算した例を紹介します。図3は、ある装置の改善前(青色の線)と改善後(橙色の線)の音圧分布を示しています。A特性音圧レベルを計算すると、改善前は49dB(A)で、改善後は42dB(A)となり、7dBほど低騒音化していますが、7dBの低騒音化とはどの程度のものなのか、当事者あるいは専門家でなければ、わかりづらいかと思います。そこで、音の大きさを計算してみます。改善前は6.5soneで、改善後は3.8soneとなります。単位soneは、人間の聴感に比例した量であるため、 となります。つまり、改善により、42%ほど音が小さくなったと、感じられることがわかります。


図3 騒音対策前後の音圧レベル

次回は、音の強さについて説明します。

【参考文献】 機械音響工学 鈴木ほか コロナ社 





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動)

1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻
1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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