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装置設計者のための騒音の基礎 第16回

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装置設計者のための騒音の基礎

標本化誤差

 今回は、標本化誤差について説明します。標本化誤差とは、アナログ量を時間方向に離散化する際に生じる誤差で、サンプリング誤差とも呼ばれます。

 エクセルで標本化の実験を行ってみます。エクセルを起動したら、図1に示すように、B1セルを観測周波数とします。次に、標本化周期を0.01秒として1秒間計測することにします。A3セルから下に0.01ずつ増加する値を用意します。標本化周波数あるいはサンプリング周波数は、標本化周期の逆数なので、100Hzになります。B3セルに、図1に示すような式を入力します。ここで、B1セルの指定を$B$1のようにすると(絶対参照)、B3セルをコピーしても常にB1セルを参照します。B3セルの右下隅をダブルクリックすると、A列のセルにあわせて、B3セルが自動でコピーされ、図1であれば、10Hzの正弦波信号がB列にできあがります。


図1 正弦波信号の生成

 シートができあがったら、B1セルで各種の周波数を設定して、A列が横軸、B列が縦軸のグラフに表示すると、標本化周波数100Hzで観測された波形が得られます。図2は、5Hzの信号を観測した結果になります。B1セルを50にすると、50Hzの信号を観測した結果になりますが、図3に示すように直線となり、正しく観測されないことがわかります。周波数を変更して同様のことを試してみると、50Hzを超えるとふたたび信号を表示しますが、周波数が設定した値よりも小さく、正しく観測されていないことがわかります。結局、標本化周波数の1/2よりも小さな周波数の場合に正しく観測されることになります。これが、ナイキストの標本化定理で、「観測したい信号に含まれる最大周波数の2倍よりも大きな周波数で標本化しなければならない」とされています。


図2 周波数5Hzの信号の観測結果


図3 周波数50Hzの信号の観測結果

 例えば、電話の音声信号が8kHzで標本化されているのは、音声が300~3kHz帯の信号であるためです。また、音楽CDは、人間の聴覚範囲とされる20kHzまでの音を再現するために、44.1kHzで標本化されています。

 なお、ナイキストの標本化定理は、標本化の最低限の周波数の目安であり、例えば、図3に示す40Hzの信号の観測結果のように、標本化周波数の1/2未満の周波数であっても、振幅も正しく表現されるわけではありません。標本化周波数は、観測する信号の周波数に対してできるだけ大きくすることが望ましいことがわかります。

 また、図5に示す90Hzの信号の観測結果は、図1の10Hzの信号を反転させた状態となっています。このように、標本化周波数の1/2を超える周波数成分が標本化周波数の1/2以下の周波数領域に現れる現象をエイリアシングと呼びます。エイリアシングを防止するには、標本化周波数の1/2に等しい遮断周波数のローパスフィルタ(アンチエイリアシングフィルタ)を用います。なお、エイリアシングはデジタル化に伴う現象であるため、アンチエイリアシングフィルタはアナログフィルタでなければなりません。


図4 周波数40Hzの信号の観測結果


図5 周波数90Hzの信号の観測結果


 標本化誤差は、標本化周波数の1/2よりも大きな周波数成分が正しく観測されないことによる誤差になります。標本化誤差を抑えるには、観測する信号の最大周波数の2倍よりも十分大きな周波数で標本化することが必要です。

 騒音計測では、人間の聴覚範囲の20kHzを超える周波数成分は意味をなさないため、40kHzを超える標本化周波数であれば十分ですが、そのままでは、エイリアシングにより、20kHzを超える周波数成分が低周波数側に入り込むため、前段にアンチエイリアシングフィルタを用いる必要があります。

 次回は、量子化誤差について説明します。


【参考文献】 機械音響工学 鈴木ほか コロナ社 





著者プロフィール
御法川 学 氏 | 法政大学 理工学部 機械工学科 教授
環境計量士(騒音・振動)

1992年 法政大学大学院 工学研究科 機械工学専攻
1992年 株式会社荏原総合研究所 入社
1999年 法政大学工学部 助手
2001年 東京工業大学にて学位取得、博士(工学)
2004年 法政大学工学部 助教授
2010年 法政大学理工学部 教授




著者プロフィール
伊藤 孝宏 氏 | オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

1982年 筑波大学基礎工学類卒業。新日本製鉄株式会社に入社、加熱・冷却設備の開発に従事
1988年 オリエンタルモーター株式会社に入社、送風機の羽根・フレームの開発・設計に従事
2008年 法政大学にて学位取得、博士(工学)
2014年1月現在、オリエンタルモーター株式会社 技術支援部主席研究員

 

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