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もっと知りたい! 熱流体解析の基礎36 第4章 伝熱:4.6.2 熱放射と放射率

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もっと知りたい! 熱流体解析の基礎

4.6.2 熱放射と放射率

 熱放射 によるエネルギーをすべて吸収できる理想的な物体のことを 黒体 といいます。熱放射によって黒体から単位時間あたりに単位面積から放出される 熱量 q [W/m2 ] は、黒体の 温度 T [K]、ステファン・ボルツマン定数 (= 5.67 × 10-8 W/(m2 ·K4 ))を σ とすると、次の式で与えられます。

熱量 q [W/m2 ]=ステファン・ボルツマン定数 σ [W/(m2 ⋅K4 )]×(温度 T [K])4

 この関係を ステファン・ボルツマンの法則 といい、熱放射によって放出されるエネルギーが 絶対温度 の4乗で与えられることを表しています(上の式の温度が 摂氏温度 ではなく絶対温度であることに注意してください)。

 ここまでは黒体で考えましたが、実在する物体の表面から放出される熱放射は、黒体の場合よりも少なくなります。この割合のことを 放射率 輻射率 といいます。放射率を ε とすると、先ほどのステファン・ボルツマンの法則は以下のように書き換えられます。

熱量 q [W/m2 ]=放射率ϵ [-]×ステファン・ボルツマン定数 σ [W/(m2 ⋅K4 )]×(温度 T [K])4

 放射率は 0 ~ 1 の値を取り、その値が大きいほど熱放射によって放出されるエネルギーが多くなります。黒体は放射率を1とした理想的な物体ですが、実際の固体の放射率は材質や表面の状態、温度や熱放射の波長によって異なる値を示します。

 一般には、放射率はよく磨かれた光沢のある金属では小さな値、光沢のない金属や非金属では大きな値をとります。光沢のない金属とは表面が錆びていたり、ざらついていたりしてつやがない状態の金属のことです。

 放射率は色によってもわずかに差が見られ、一般には白い色よりも黒い色のほうが大きな値をとります。しかし、色の違いが放射率に与える影響は、金属光沢の有無と比べると少なくなります。また、白くてざらざらした表面のほうが、黒くて光沢のある表面よりも放射率が大きくなる場合があるなど、色以外の要因によって大小関係が変化することもあります。


放射率の大小関係の目安
図4.22 放射率の大小関係の目安


 実在する物体の放射率は熱放射の波長によって変化しますが、これに対して、放射率を波長に対して一定と見なした理想的な物体や面をそれぞれ 灰色体灰色面 といいます。灰色体の定義を満たす物体は現実には存在しませんが、放射率を一定と考えることで熱放射の取り扱いを簡単にできる利点があり、光沢のない金属面や非金属などではこの仮定が比較的良く成り立ちます。一方で、放射率が波長に依存する物体や面は、非灰色体 非灰色面 と呼ばれることがあります。





著者プロフィール
上山 篤史 | 1983年9月 兵庫県生まれ
大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程修了
博士(工学)

学生時代は流体・構造連成問題に対する計算手法の研究に従事。入社後は、ソフトウェアクレイドル技術部コンサルティングエンジニアとして、既存ユーザーの技術サポートやセミナー、トレーニング業務などを担当。執筆したコラムに「流体解析の基礎講座」がある。 

 

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