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代表長さの選び方 6.使用上の注意

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代表長さの選び方

6.使用上の注意

 前回に書いた通り、無次元数 には実用的な使い道があります。ある現象を調べようというとき、その現象に関連する無次元数さえ把握していれば、寸法や物性にかかわらず現象を整理することができ、また模型を使った試験も成り立ちます。ここで、当たり前すぎて誰も気にしていない、極めて重要な前提が一つあります。それは、模型と実物は相似形状である必要があるということです。そりゃそうですよね。パトカーの 空気抵抗 を調べたいのに、救急車の模型で試験する人はいません。当たり前すぎる?でも、代表長さ の選び方に迷われてこのコラムを読んでいる方は、もしかすると、この極めて当たり前かつ重要なことを、正しく認識できていないのかもしれませんよ。実物と模型は相似形でなくてはならない。これはつまり、パトカーの レイノルズ数 と、救急車のレイノルズ数を合わせて模型試験をしても、意味はないということです。お分かりでしょうか?

 つまり、レイノルズ数とは、そもそもお互いに相似な形の流れ同士でしか比較できないものなのです。もちろんレイノルズ数に限らず、他の無次元数でも同じことです。



図6 パトカーと救急車


 勘違いが多い例を一つ挙げてみましょう。レイノルズ数を調べれば 層流 乱流 かがわかる、と言われます。確かにその通りですが、では層流と乱流が切りかわるレイノルズ数(臨界レイノルズ数 と呼ばれます)は、具体的にいくらでしょうか?まっすぐな円管内の 単相 かつ 非圧縮 の流れの場合は、代表長さに直径、代表速度 に平均流速を取ったレイノルズ数で、Re = 2,300 程度を境に層流と乱流が切りかわることが知られています。まっすぐな円管は、どのまっすぐな円管でもお互いに相似なので、この Re = 2,300 というのはいつも同じです。

 では、まっすぐな正方形ダクトの場合はどうでしょう。こうなるともう Re = 2,300 という指標は使えません。なぜなら、円管と正方形ダクトはお互いに形が相似ではないため、現象も決して相似にはならず、そもそもレイノルズ数を使った比較ができないためです。では円管は円管でも、まっすぐではなく、曲がりくねった円管の場合はどうでしょう?この場合ももちろんダメです。形が相似ではないからです。ただ、そうは言っても、まっすぐな円管と、まっすぐな正方形ダクトと、ゆったり曲がった円管程度なら、相似ではありませんがよく似てはいるので、臨界レイノルズ数はやっぱり Re = 2,300 付近だろう、という予測くらいは成り立つかもしれません。


図7 まっすぐな円管とまっすぐな正方形ダクトと曲がりくねった円管

 では今度は、円柱周りの流れの場合はどうでしょうか?この場合、もはや円管内の流れとは形が似ている、とさえ言うことはできず、したがってレイノルズ数を揃えたところでなんの比較もできません。もちろん臨界レイノルズ数も、Re = 2,300 という値はまったく役に立たなくなります。




図8 円管内の流れと円柱周りの流れ


 円柱周りの流れには円柱周りの流れに特有の臨界レイノルズ数があります。何をもって乱流とするかにもよりますが、ドラッグクライシス抗力係数 が急激に小さくなる現象)が起きるレイノルズ数を臨界レイノルズ数であるとすれば、円柱周りの流れの臨界レイノルズ数はおよそ Re = 380,000 になります。2,300 とはぜんぜん違いますね。ようするに、円柱周りの流れのレイノルズ数を計算して、2,300 以上だからこれは乱流だ!なんて主張するということは、飛行機の空気抵抗を調べるために自転車の模型を使って空気抵抗がわかるんだ!と言っているようなものです。

本日のまとめ:模型試験をするとき、模型は実物と相似でなければならない。すなわち、無次元数は、お互いに相似な形状同士でしか比較できない。

※ 形状が相似でなくてもそれなりに似ている場合、例えば円管と正方形ダクトでレイノルズ数を比較することがないわけではありません。例えば 水力等価直径 代表長さ としたレイノルズ数を同じにしたとき、円管と正方形ダクトでは現象はもちろん同じにならず、そのため 圧力損失 にも違いが出てきます。これは、似た形状同士で、その形状の違いによる影響を調べたいときに行う比較です。例えば同じレイノルズ数でも円管のほうが正方形ダクトよりも圧力損失が小さいから優れている云々、というような議論をすることはできます。

 





著者プロフィール
吉井 佑太郎 | 1987年2月 奈良県生まれ
名古屋大学大学院 情報科学研究科 複雑系科学専攻 修士課程修了

学生時代は有限要素法や渦法による混相流の数値計算手法の研究に従事。入社後は、ソフトウェアクレイドル技術部コンサルティングエンジニアとして、技術サポートやセミナー講師、ソフトウェア機能の仕様検討などを担当。

 

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