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技術情報・コラム

パッと知りたい! 人と差がつく乱流と乱流モデル講座 第19回

航空機の主翼周りの流れ解析

 

19.1 航空機の主翼周りの流れ解析

 今回は航空機の主翼に装着されたウイングレットの効果を計算で調べた例をご紹介します。ウイングレットとは図19.1のように主翼の先端に取り付けられた小さな翼のことです。ウイングレットを装着することで、航空機の燃費や性能が改善すると言われています。近年、ウイングレットを装着した航空機の割合が増えているため、実際に目にしたことのある方も多いのではないかと思います。

ウイングレット
図19.1 ウイングレット

 ウイングレットの効果は 翼端渦 を抑制することと言われています。翼端渦とは図19.2のように主翼の先端で生じている上下の圧力差によって、主翼の下側の空気が上側に回り込むことで発生する のことです。巨大な渦の発生は余計なエネルギー消費につながり、これを抑制することができれば燃費改善につながります。実際、ウイングレットを装着した航空機では、燃費が数%改善すると言われています。数%と言っても長距離の国際線では大きな差を生むため、製造後に追加工事としてウイングレット装着を実施することもあるそうです。

翼端渦
図19.2 翼端渦

 図19.3に解析モデルを示します。直方体の 解析領域 の中に主翼の片側のみを配置し、前方から空気を流入させて、航空機の飛行状態を模擬します。今回、流入速度は300km/hとしました。迎角の設定(5度)と合わせて離着陸時を想定しています。計算はスマゴリンスキー・モデルを用いた LES で行っています。ウイングレットの効果を見るため、図19.4のようにウイングレット無と有の2種類の主翼で計算しました。

解析モデル
図19.3 解析モデル

主翼のモデル
図19.4 主翼のモデル

 図19.5はそれぞれのケースの翼端渦の様子です。渦(赤色)は速度勾配テンソルの第2不変量(第13回 図13.2参照)で描画しています。ウイングレット無に比べて、ウイングレット有のケースの翼端渦は短く(弱く)なっており、発生位置がウイングレットの上端になっています。

翼端渦の様子
図19.5 翼端渦の様子

 ウイングレットによる 揚力 抗力 の変化はどうでしょうか。2つのケースの翼に働いている揚力、抗力を比較してみますと、ウイングレットによって揚力は約10%UP、抗力は約7%DOWNとなっていることが分かりました。その理由を解析結果から詳しく見てみましょう。図19.6は翼下面の圧力分布です。揚力は翼の上下面の圧力差で発生しますが、ウイングレット無のケースの翼端では翼端渦の発生によって下面の 圧力 が低下しており、翼端での揚力発生が小さいことが分かります。一方、ウイングレット有のケースでは同様のことがウイングレットの先端で起きているものの、その面積は小さく、かつ、そこでは翼の向きが垂直に近く揚力への影響は小さいと考えられます。つまり、ウイングレット装着によって翼端における揚力低下を防いでいることが、揚力増加につながっていることが分かります。

翼下面の圧力分布
図19.6 翼下面の圧力分布

 次に抗力についてです。図19.7に示すようにウイングレット無のケースでは翼端上面の後方で圧力が低下している部分があります。これは翼端渦の影響と考えられますが、この部分は下流側に傾いた面のため、この部分の圧力が低下しますと抗力が増加します。一方、ウイングレット有のケースを見てみますと、同様に翼端の上面下流側で圧力低下が認められますが、その面積は小さく、抗力増加はウイングレット無より小さいと考えられます。結果として、ウイングレット有の抗力が減少したと考えられます。

翼上面の圧力分布
図19.7 翼上面の圧力分布

 最後に翼端渦のアニメーション(図19.8)をお見せします。前方から流れてきた空気が、翼端を過ぎるあたりで反時計回りに渦を巻きながら流れている様子がご覧いただけると思います。


図19.8 翼端渦のアニメーション

19.2 おわりに

 今回で全19回に渡った「パッと知りたい!人と差がつく乱流と乱流モデル講座」は終了となります。
本コラムでは、皆さまに 乱流 に親しみを持ってもらえるような内容とすることに努めてきました。乱流は複雑な現象ですが、実はそれを支配する流体の方程式(ナビエ・ストークス方程式 )は 層流 でも乱流でも同じだと言うことを考えると、乱流と言う現象を支配するメカニズムは流体現象の中で特別なものではないと捉えることができます。また、今回ご紹介した翼端渦のような特徴のある渦現象がナビエ・ストークス方程式を解くことで再現できることは、感慨深いものがあります。
 これまでご愛読いただき、本当にありがとうございました。本コラムの内容が少しでも皆様のお役に立つことができれば幸いです。

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伊丹 隆夫
著者プロフィール
伊丹 隆夫 | 1973年7月 神奈川県出身
東京工業大学 大学院 理工学研究科卒業
博士(工学)
大学では一貫して乱流の数値計算による研究に従事。 車両メーカーでの設計経験を経た後、大学院博士課程において圧縮性乱流とLES(Large Eddy Simulation)の研究で学位を取得し、現職に至る。 大学での研究経験とメーカーの設計現場においてCAEを活用する立場という2つの経験を生かし、お客様の問題を解決するためのコンサルティングエンジニアとして活動中。

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